ガイベル
2024-07-20 22:30:29
4629文字
Public お話
 

過去とそれから

特に今日という日には関係のない小話2つ
(絵作業でヒーヒー言う間に謎にできたため…)


『きみのために作るもの』

休日のおやつどき。
サニーは自室でゴロゴロしていた身体をようやく起こし、バジルが何がしかを作っている気配のするキッチンへ向かう。

「あ……サニーくん起きた?」
「うん……
コンロの前にいたバジルはサニーに気付いて声を出すと、火を止めてフライパンを濡れた布巾の上に置いた。ジュ〜、と水が蒸発するような音が聞こえる。
バジルが一度完全に手を止めてこちらに向き直ったので、彼の頬に軽く挨拶のキスをすると、同じように僕の頬にもちゅ、と軽いリップ音が返ってくる。
「もうちょっと待っててね。でも焼くのはあと一枚だから、先に食べててもいいよ」
彼はそう言うと、また台の方に向き直ってコンロの火を付け直す。横にはさながらバベルの塔のようにうずたかく積み上げられたパンケーキの山。これはバジルが作ったものだから、もはやバジルの塔とでも呼ぶべきかもしれない。
うんうん、と1人で納得したように頷いている僕の横から、ホットケーキだよ!と訂正が入る。えっと、この場合何が違うんだったか……、まあ、それはいい。
ふつふつと気泡ができてきた生地を真剣な表情で見つめているバジルを横目にできたての皿に手を伸ばし、自分の分を貰おうとする。
「あっ、サニーくんは、こっち!」
バジルが少し焦ったような声でそう言うと、僕の手の中の皿をもう片方の皿と交換した。……マグカップ類と違って特にどちらのもの、という決まりはないはずだけど……
皿の上に乗っているそれも、どっちも似たようなもので、特に違いもないように見える。
だけどわざわざそうされると、もしかしてこっちには何かあるのかな、と考えてしまうには充分だった。
……たとえば。そう、これは例えば……、だけど。
一番下にハート型があるとか。何かメッセージが書いてあるとか、そういう。
……
うわぁ……
自分で考えたくせに、かなり恥ずかしい想像だ。
もし他人にそんな惚気話をされようものなら、ドン引きする自信がある。失礼だけどキモいとすら思ってしまうかも。……でもそれはそれだし、これはこれだ。自分はわざわざ他人に惚気を言い回ったりなんかしないし。そういうことを好きな人にしてもらえたら、なにより特別な事になるのはわかる。
そしていまの僕たちの関係を考えたり……、バジルなら割とそういう事もしてくれそうな所がある、と思っただけで。別に僕が、彼にそういうことをしてほしいだとか。そういった期待をしているわけじゃない。
でも、わざわざこっちがサニーくん用、と言われてしまったものだから。今こうやってなんだかそわそわしてしまうのもおかしくはない……、よね。

席についてから少しドキドキしつつ積み上げられたそれを観察してみる。しかしじっくり眺めてみても、どれも綺麗に焼かれた何の変哲もないパンケーキだ。いや、ホットケーキだったか。
ふかふかツヤツヤとした表面に、もちろんシロップを貯めるポケットなんてものはないが……普通に、本当に普通においしそう。
………なーんだ。
なーんだって何だ。思わず心の中で自分に突っ込みを入れる。おやつにおいしそうなホットケーキ、それ以上に何を望む事があろうか。ここに生クリームやアイス、チョコソースなんかを乗せて、仕上げにシロップをたっぷりかければさらに完璧になる事だろう。それで、何の不満があると言うんだ。
そうやってしばらくジィ……とエネミーを睨みつけるような面持ちでそれを眺めていると、遅れてやってきたバジルがようやく席に着く。僕が運ぶのを忘れていたアイス類もしっかり持ってきてくれている。さすがだ。
「待っててくれたの?」
「まあ、うん……、いや、何か……、あるのかと、思って……?」
「?」
…………ハートの形、とか」
バジルはきょと、とした顔をした後、その意味を理解したようだった。
「ぼくはヒロくんじゃないんだから、そんな器用なことできないよ」
そう至極当然のように言って、眉を少し下げ自嘲気味に笑った。……流石にバジルも引いたかな。それか、そんな手間を期待する事に気分を悪くしただろうか。少し気まずい空気になってしまったように思えて、言わなきゃよかったかなと思った。

食べ始めから数十分も経てば僕の皿の上はとっくに空になってしまって、対面に座って食べるバジルを黙って眺めている。バジルは甘すぎるものが好きではなかったと思うけど、今日は彼にしてはたっぷりとアイスや生クリームを使っている気がする。そうやってあんまり甘くしすぎたせいで進みが遅いのかも。珍しいな。
バジルはナイフで切り分けたそれをフォークで口に押し込みながら、もはやもう残そうかな……というような表情になってきている……と思う。
彼の表情は僕の数倍わかりやすい。
「バジル、それ僕が食べようか?」
…………。だ、だめ」
やっぱり、さっきの事ちょっと怒ってるのかな。……もしバジルがもう、僕のために作るのとかやめてしまおう、なんて思ったりしてたら、やだな。
もう食べ終わってしまった、綺麗で美味しかったパンケーキ。甘くて優しくてふかふかで、寝心地のいいベッドみたいだった。今更、もっと大事に食べればよかった……、なんて思う。
「バジル、……あの、怒ってる?」
……お、怒って、ない。」
様子を伺うような僕の言葉に答えながら、バジルはもく、もくと、大しておいしいとは思っていなそうに目の前のホットケーキを片付けていく。
「じゃあ、」
……でも、これはぼくの分だから、だめ」
それを言われてしまうと全くその通りなので、もう返す言葉がない。でも、いつもは僕が食べたがったら結構すぐになんでもくれるのに。流石にしょんぼりした気持ちになる。
……サニーくん。そんなに、美味しかった?」
「うん」
……そう。よかった。……じゃあまた、作ろうかな」
僕の即答を聞いて、バジルはへにゃりと嬉しそうに笑った。ほんとに怒ってるわけじゃないんだ。
彼の笑顔を見てあからさまに僕の緊張も取れて、先ほどまでの変な空気が少し解れた。それをバジルもわかっているようだった。
彼は視線を僕から目の前の崩れたホットケーキに戻す。
バジルは少し考えてから『本当はあんまり言いたくなかったんだけど』と前置きして言葉を続けた。
…………あのね。最初焼くの失敗しちゃって。」
トッピングで見えないと思うけど、裏面真っ黒こげなんだよ。……だから全然、美味しくない。
そう言って、また少しムスっとした顔になり、肩を落として椅子の背もたれに寄りかかった。
ご機嫌斜めはそれが理由か。
もう手をつける気も失せているような姿勢のバジルに、止める間を与えないようにひょいパク、と自分のフォークで彼の皿の残りを攫った。

う"。
……
「あー!?だから言ったのに!」
思っていたよりも、彼のホットケーキ氏の状態は悲惨だった。僕がトリアージするなら、とっくに見捨ててゴミ箱行きだったかもしれない程度には手の施しようがないような。
流石に苦虫を噛み潰したような顔になってしまい、出遅れたバジルが慌てた声を上げながらコップやティッシュの箱を僕の近くに寄せてくる。
僕はそれを使ったり使わなかったりしながら、今日の楽しくて嬉しいおやつの時間は終わっていった。


食べ終えた食器を洗いながら、美味しかったふわふわの生地と、その後のなんとも言えなかった味を交互に思い出してはバジルの不器用な優しさを思う。流石にそれがわからないほど子どもでもなくなったし、鈍感でもないつもりだ。
僕はどうやって彼に今日の特別を返そう。
──今度の休みは、僕がケーキでも作ってみようかな。
流石にホットケーキよりは大掛かりになってしまうだろうから、バジルにも手伝ってもらう事にもなるかもしれないと思うけど。でも、ケーキなら……僕も、夢で誦じられる程度には作り方を知っている。
味は……、僕はココアがいいかな。
トッピングはバジルの好きないちごで決まりだ。

END.





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最後差し込めそうな所だけ薄くフレーバーに取り入れさせていただいた部分もありつつ本当に誕生日とか関係ない、、
サニーくんとオモリくん本当におめでとうございます!