compound_dashi
2022-05-22 11:33:36
3184文字
Public
 

偏光

日曜朝の悪の組織の幹部な典ソハ。典視点、双子設定。

……兄弟、きょーだい? 聞いてるか?」
 はっと意識が引き戻される。目の前には明太子と海苔の茶漬け。霊力供給の後に兄弟が作ってくれた夜食だ。待っている間に考え事に耽ってしまっていたらしい。
「あんな怪我の後だしぼーっとするのは分かるけどな、そうやってぼさっとしてると飯冷めちまうぞ」
……ああ、すまんな。いただきます」
 ひと匙口に含んで初めて空腹の深刻さに気付いた。明太子の旨味と僅かな辛味、米の甘味、海苔と出汁の混ざった香りがいつもよりも鮮明に感じられる。そのまま無心に食べ続け、あっという間に丼は空になった。
「ご馳走様」
「いやー、兄弟の食いっぷりはいつ見ても気持ちいいよな」
「お前もそうだ。米粒一つ残さないしな」
「そうかぁ? そんならよかった。ああ、明日の飯当番はちゃんとやってもらうからな」
「分かっている」
 食器を洗い、ついでに茶を淹れて食卓に戻ると贔屓にしている店の団子が用意されていた。こういう時不思議と言葉が要らないのが何となく心地いい。兄弟が茶に息を吹き、啜る。……冷ますのに失敗したようだ。びくりと肩を揺らすその挙動も可愛らしい。
「あちっ、……そういえばさっきぼんやりしてたのって何だったんだ?」
「あれは……昔のことを思い出していた。まだガキの頃だ」

…………そうかぁ」

 不自然な間と一段落ちた声のトーンに思わず顔を上げると、虚ろな眼と視線が合った。底が見えない。何も、映らない。
 団子を一粒齧り、茶を飲み。一息ついて兄弟は呟いた。
「俺達はさ、普通に生きられるだけでいいんだよな」
「ああ」
「今の世界じゃどうにも肩身が狭いから、俺達なりに頑張って変えようとしてる訳で」
「そうだな」
……それを否定されたらさ。俺達はここに生きてちゃいけないってことになるよな」
……
 ──ずっと、気付かないふりをしている。もっと他にいいやり方があったとか、世界の全てが俺達に残酷な訳ではないとか。……正義を名乗るあいつらに、差し伸べられた手があったことも。
 このままでいなくてはならない。今よりもいい未来があったなどと気付かせてしまったなら、今度こそ兄弟は、
……否定など、俺がさせん」
……きょう、だい」
 ぱちん、と瞬きをする。その顔が何故か酷く幼く見えた。
「俺達はやれることをするまで。この話はここで終わりだ」
……そうだな。なんかごめんな、兄弟」
 ばつが悪そうに笑うと、普段の明るい雰囲気が戻ってきた。やはり兄弟は笑っているのが一番似合う。
「ほら、茶が冷めるぞ」
「そうだ途中だった、……にしてもこの団子うめえよなぁ。たまの贅沢にはぴったりだ」
「本当にな」
「この辺支配できてもこの店は残しといてもらおうぜ、あとあそこの定食屋とか、あと」
「意外と強欲だな、でも同感だ」
「だろー?」
 得意げな兄弟の可愛らしさに思わず口元が緩む。気付いて兄弟も笑みをさらに深くした。

 愛しい兄弟と過ごす平穏な日常。それを守る為ならいくら手を汚してもいい。誰が立ち塞がろうとも関係ない。──どうせ、誰も理解しようとしない。
 正義でも悪でも関係ない。興味もない。

 俺達に害を成すのなら、葬り去るだけだ。