例えるならば融けた鋼か、はたまた煮え滾る泥か。嫌に重苦しい熱の中から浮かび上がるように、俺は意識を取り戻す。全身が痛い。霊力も殆ど枯渇しているようで酷く怠い。
重い瞼を開くと、見慣れた天井が視界に広がる。いつも通りの寝具の感触に、いつも通りの部屋の香り。夢でも幻覚でもなく、ここは組織に与えられた俺達の自室だ。
「お、やっとお目覚めか兄弟。三時間は寝てたな」
兄弟がひょい、と覗き込んできて笑みを浮かべる。兄弟は既に負った傷を治したようだ。いつも逆立てている前髪も今は降りていた。
自分の体も見ればそこには傷痕だけが残っている。直に痕すらも消えてしまうだろう。今回相当働いたであろう、治療を請け負っているあいつに後で礼を言いに行かなければ。
「……負けたのか、俺達は」
「認めたかねえがそうだな。ったく、あんな面白いもん持ってんなら先に言えって」
組織の幹部である俺達は重要な作戦のために珍しく前線まで出張っていた。それに合わせてか、俺達の組織から世界を守る、などというお題目で戦っている者共が新たな兵器を持ち出してきた。そして俺は咄嗟に兄弟を庇って体の大部分を損傷し、比較的被害が少なかった兄弟に連れられ帰還する羽目になり……今に至る。
「あれを面白いと言える神経があるのはお前くらいなものだぞ」
「えっ気にならねえか? あんな桁外れな力をどう変換したら人間が扱えるようになるのかってさ」
「気に障るだけだ」
どうしてそんな力を得たかは別にどうでもよかった。問題は正義の味方とやらが戦力を一回り増強してしまったことで。
「まあ兄弟はそうだよな。俺はうまい事参考にできれば兄弟がもっと強くなるかもなーなんて考えたりもするが」
兄弟の指が素肌を滑る。指から僅かに伝う兄弟の霊力がほんの少しだけ怠さを和らげた。向けられる視線はとても穏やかで、つい数時間前まで戦乱の只中にいたとは思えない。
「……敵の力を使ってまで強くしたいと?」
「大切なのは結果だぜ兄弟」
「……」
大切なのは結果。そこは考えの合う所だ。どれだけ傷つけられようと謗られようと関係ない。最終的に俺達が生きやすい世界になればそれでいい。
……ここで戦い続けていれば、きっと。そのはずだ。
ふと兄弟の指の動きが止まる。
「……にしてもなぁ。こんなに兄弟を壊してくれるとはな」
突然声音が冷え切る。綺麗な顔から一切の表情が抜け落ちた。
「許せねえ。殺してくるか」
ぎち、と指先に力が籠る。
「……落ち着け。まずは十全な修復と治療だろう。お前がいつも言うことじゃないか」
兄弟ははっとしたように目を見開き、次いで前髪をぐしゃりと乱した。
「……そうだな、すまねえ兄弟。……あー、ちょっと頭冷やさないと駄目だこれ……」
うあー、と呻きながら困り顔で頭を揺らす兄弟を眺めていると、愛しさがじわりと胸に沁み出してくる。……それにつられて、霊力が底をついているのも思い出してしまった。
「……兄弟」
「ん?」
「霊力が足りない」
「……そうだったな」
兄弟の手が頬に触れる。渇いた体では次の一瞬すら待てず、こちらから兄弟の頭を引き寄せて唇を重ねた。
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