Public 🚌
 

君とワルツを 4

幼いヒースクリフと触れ合う囚人たち。
メインストーリー6章の内容を含みますのでご注意ください。


 
 
 
 グレゴールの記録
 
 
 
 ヒースクリフのやつ、よりにもよって俺の腹の上で眠っちまった。熟睡してるみたいだったから起こすに起こせなくて、管理人の旦那に頼んで別の場所に移動させてもらったよ。結局起こしちまったけど、今は旦那とイサン、ドンキホーテがヒースクリフを囲んでる。
 あれから何人か戻ってきたなと思ってしばらくぼーっとしてたんだけど、気が付けば全員こっちに来てたみたいだ。これじゃ、何のための不寝番か分かんねえな。
 夜も更けてきた。ちょうど記録も読み終えたところだ。……せっかくだし、俺も何か書くかな。と言っても俺が書こうとしてるのは、ヒースクリフが小さくなる前のことなんだけど。

 昨日の不寝番はヒースクリフじゃなくて俺のはずだったよな。けどあいつが志願したのは……多分、俺に気を遣ったんだと思う。
 その日はまあ、特別なことじゃないんだけどな。簡単に言えば上手く眠れなかったんだ。それで調子が悪かったのを管理人の旦那に見つかって、事情を話してたところにヒースクリフが通りすがった。
 それから旦那にしたような話を掻い摘んで喋ったら、ヒースクリフのやつが今日は休んでろって言いだして……なんやかんやでお言葉に甘えさせて貰ったってわけだ。俺としちゃ休んだ方がいいのはお互い様だろって感じだけど、ワザリング・ハイツの件についてはどうにも突っつきづらくてさ。あんまり深く言及しないでおいたよ。

 風が強くなってきた。相変わらず雨が止む気配はなさそうだ。この天気だけを見れば、まるで邸宅のあった丘そのものだな。
 子供のヒースクリフが話していたキャサリンって人に心当たりはない。俺がというより、俺が被ってる人格がって言う方が正しいかな。けどヒースクリフの口ぶりから、その人はずっと前からワザリング・ハイツで暮らしていたらしい。それどころか、あの邸宅の主人の娘さんなんだとか。……どうにもあの名前のない墓標が頭をちらつく。俺の思い違いであってほしいけど、もしかするとヒースクリフの大事な人ってのは二度と会えないところにいるのかもしれない。

 誰しも自分の心に触れられたくない部分を持ち合わせていると俺は思ってる。少し風に触れるだけでも蹲りたくなるほど……痛んだ果実みたいに柔らかくて醜い部分。自分の弱さや汚いものを晒すことは他のどんな苦痛よりも耐え難いだろう。人の目に触れた分だけ自分もそれに向き合わなきゃならなくなるし、見つめ直すほどに自分のことがどんどん嫌いになるから。
 そんな心の弱い部分すら剥き出しになったあいつを、俺たちは全力でこちら側へ引き戻した。それが答え……とまでは言い切れないけどさ、ここにいる奴はみんな、お前のことが大事だよ。少なくとも俺は、お前が素直で心の優しいやつだってことを知ってる。ヒースクリフがこれを読むことになるかは分からないけど、またとない機会ってやつだから書いておくよ。