Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
沁月
Public
ウ教×ハ♀ 両片想い 読み切り
酒は百薬の長
MHRウ教×ハ♀。両片想い。
ウの母故人設定につきご注意。
長らくエルガドに滞在していた愛弟子が明日、ようやく戻ってくる。
そのことに興奮して眠れないウ教を、里長が飲みに誘った末に。
1
2
3
こんなに深く心地良いのは久しぶりだと、ウツシは目を閉じたまま、暗闇の中を揺蕩っていた。
母の傍ら、揺りかごの中、約束された安全の元、ゆらゆらと揺れて、何も恐れず、ただ笑っていられた赤子の頃に似ている。
──いい子だねぇ、ウツシ。よしよし
……
(
……
ああ
……
。
……
かあ、さん
……
?)
数十年ぶりの温もり、心地良い懐かしい母の声。
暗闇の中で目を閉じたまま、ウツシがふわりと微笑む。
けれど、少しずつ声は遠ざかり、その笑顔は瞬く間に悲しみを帯びた。
(いやだ、かあさん、逝かないで──
……
!!)
呼び止めたい、姿が見たい。
その衝動に駆られているのに、ウツシは目を開けることも、声を出すことも、体を動かすこともできなかった。
できるのは、ただ目を閉じて、声もなく、動かず、闇を揺蕩うことだけ。
──ウツシ。本当の気持ちは、ちゃんと言葉にして伝えなきゃ、分からないよ。
耳に届いた母の言葉は、
空音
ソラネ
か、夢か。
ウツシは何も分からないまま、声はますます遠ざかる。
──伝えておけば良かった、って。そう思っても、遅いこともあるんだよ。
(分かってる、そんなこと
……
! 分かってるよ!!)
叫びたくても声が出ないというのは、こんなにも、全身が
千切
ちぎ
れそうなほどに、もどかしいものかと、闇を揺蕩いながら、ウツシは初めて知った。
伝えておけば良かったという後悔が、どれほど辛く、苦しく、心を切り刻むものか、彼は痛いほどに、誰よりもよく分かっている。
(だって俺は、あなたにも
……
今は、あの子にも──!)
閉じたままの目頭が炎のように熱くなったことを感じながら、ウツシは強く唇を噛み締める。
母の声の聞こえなくなった暗闇の、耳が痛むほどの静寂の中で、どく、どく、どく、と心臓が激しく脈打つ音が、自分の体の血が巡る音だけが聞こえた。
あの子、と胸の奥で呟いた途端に脳裏に過ぎった、密かに想いを焦がれ続ける最愛の人、可愛い愛弟子の姿。
(──愛弟子、会いたいよ
……
! キミに会いたい
……
早く、会いたい! 会いたいよぉ!)
幼子のように、また胸の奥で叫んだウツシの目尻から、痛切なほどの想いの雫が熱く、はらはらと零れ落ちる。
──
……
教官?
暗闇の奥から響く、澄んだ
余声
よせい
。
ウツシの全身が、ぴくりと震えて反応した。
母の声とは全く異なる、とても、とても愛おしい声に、体が何とか動こうともがき始める。
──珍しいですね、ウツシ教官
……
また、声がして、温かい気配を、傍らに感じて。
その全てを見たいがあまり、涙に濡れたウツシの瞼が、はっと勢い良く開かれる。
「
……
あ
……
」
先程の声の主が、微かに
驚声
きょうせい
を漏らした。
その声を聞きながら、ウツシは自分は仰向けに寝ていたのだと自覚する。
彼の開かれた景色はまだ暗く、蒼を帯びた月明かりの白光が、柔らかに射し込んでいた。
ウツシにとっては見慣れた我が家の天井の景色を背に、彼の顔を覗き込んでいるのは、彼が待ち焦がれていた最愛の人。
密かに、情熱的に想いを募らせ続けている、愛弟子である娘。
『本当の気持ちは、ちゃんと、伝えなきゃ──
……
』
先ほどまで聞こえていた母の声が、ウツシの脳裏で閃光のように弾ける。
彼は涙が止まった金色の双眸を、今宵の月のように見開き、ぱち、と一度だけ、大きく瞬きをした。
(──まだ、暗い
……
夜
……
。だから
……
これは
……
)
ぼんやりと
霞
かすみ
がかったウツシの思考が導き出したのは、夢、という結論。
その途端、彼は眉を下げて切なげに、嬉しそうに、瞳に揺らめく光を
湛
たた
え、弾かれたように両腕を伸ばして強く娘を抱きしめた。
「愛弟子ッ
……
! 愛弟子、愛弟子! 嬉しい
……
! 嬉しいよぉ
……
! 夢に出てきてくれるなんてッ
……
!」
「き、きょう、かんッ
……
!?」
もだもだと動いて逃れようとする娘を離すまいと、ウツシは更に彼女を強く抱きしめた。
ずっとずっと待ち焦がれていた柔らかさ、温かさは、どこまでも彼の心を安堵させる。
これほどの心地良さはやはり夢だと確信したウツシの双眸からは、また、はらはらと熱い涙が、
光糸
こうし
のように溢れた。
「愛弟子、俺ね。俺、早く、キミに会いたくて。怪我してないかとか、お腹空いてないかとか、いじめられてないかとか、確かめたくて。俺、キミの力を誰よりも信じているけど、本当、に、キミが、心配で、ッ
……
!」
「
……
教、官
……
?」
ふと、娘が抵抗を止めた。
自分を抱きしめるウツシが言葉の末尾でしゃくりあげ、ひどく震えていることに気付いてしまったから。
涙を流し続けたまま、ウツシは娘を抱きしめ続け、
滾々
こんこん
と込み上げる想いをそのまま、言の葉に乗せていく。
「愛弟子。俺、本当は凄く
……
凄く寂しいよ。怖いよ。キミを、見送る度に、キミが、いなくなってしまうんじゃないかって。キミが、誰かと一緒に、仲良く里に帰ってきて、恋人ができたんです、なんて、言われたりしないだろうかって」
「
……
ウツシ教官
……
泣いて、るんですか
……
?」
切なげに囁きながら、娘が、そっとウツシの頭を包み込むように抱きしめる。
震えていた彼の体はほんの少し鎮まったが、溢れる涙はまだ止まらない。
「俺、キミのことが、本当に、大切で。本当は、ずっと、キミのいちばん近くにいたい。
……
でも俺は、ウツシにぃにだから。教官、だから。いつも寂しいの我慢して、気を付けて頑張ってほしくて、寂しいけれど笑って見送ってるんだ。キミを縛るのは、違うから。キミの意思を、大切にしたいから
……
!」
「
……
わたしも。あなたに会えないのは、寂しい、です」
「ほんと? ほんとに? 嬉しい、嬉しいよぉ
……
! 俺、キミのためなら、何も惜しくない。俺にできることなら、何でもするよ。だから、だから。お願いだから、無理を、しないで
……
! つらい時は、ちゃんと教えて
……
俺を、頼って
……
! キミは、キミだけは
……
絶対に、失いたくない
……
! 俺が俺でいられるのは、キミがいてくれるからだ。俺
……
俺は、ずっとずっと、キミ
……
をッ
……
!」
相変わらずしゃくりあげながら、
堰
せき
を切ったように言葉を溢れさせるウツシの腕の中で、娘は微かに、また「わたしも」と告げたのだが、その声は彼の耳には届いていない。
ウツシは涙を拭うこともなく、娘を抱きしめ続けながら不意に「ふふ」と、自嘲気味に口角を上げた。
「
……
ごめんね、俺、かっこ悪いね。夢で良かったなあ。明日、目が覚めたら
……
キミが、帰って来たら。ちゃんと、伝えるんだ
……
俺
……
キミに
……
」
高ぶった心を鎮め、落ち着きを取り戻そうとするように、ウツシが「ふー
……
」と深く、一度だけ息を吐く。
娘はされるがまま、彼に身を委ねなから、その頭を優しく撫でている。
その表情は月明かりの中でも分かるほど赤く、瞳は歓喜の光に潤んでいたが、強く彼女を抱きしめ続けるウツシがそれに気付くことはない。
娘の、ハンターとして武器を握っているはずの柔らかな小さな手で、規則的に、優しく髪を梳くように撫でられる感覚は、ウツシにはあまりにも心地好かった。
次第に涙を止めながら、彼は目尻を下げて、とろりと眠そうに微笑む。
「きもちいい
……
愛弟子
……
ねえ
……
ずっと
……
ずっと
……
いっ、しょ
……
に
……
。
……
」
ゆっくりと瞼を閉じながら、ウツシがまた、緩やかに、意識を彼方へ手放していく。
直前、彼は『愛弟子』ではなく、ぽつりと微声で娘の名前を呼んだのだが、それは言葉にならなかった。
静かな寝息を立てるウツシの頬には涙の痕が残っていたが、その表情は霧が晴れたように澄爽としたもの。
そんな彼の腕の中で、もぞりと、娘が動く。
「──教官
……
ずるいな
……
わたしだって、ずっと
……
寂しくて
……
。伝えたら
……
変わるかもしれないのが、怖くて
……
でも
……
」
腕に囚われたままだが、やっと少し動けるうになった娘はウツシの頭から両手を解いた。
一度言葉を止めて、月明かりよりも優しく、静かに微笑む。
瞳の中には、今にも零れ落ちそうな星の光が溢れていた。
「ふふ
……
これは、夢
……
。夢、ですよ
……
」
ウツシの顔を間近に見つめながら、娘が小さく笑う。
その笑顔を作る柔らかに細められた瞳からは、先ほどの彼と同じく、熱く、澄んだ涙が細く流れていて。
「
……
夢、ですから。
……
私、も
……
」
柔らかに微笑んだ娘が、ゆっくりとウツシに顔を近付ける。
彼女は濡れた瞳を閉じ、自分の唇で、そっとウツシの唇に触れた。
その触れ方は、触れたのか触れなかったのか、当人たちでさえ曖昧になるほどで。
「
……
私も、ずるいですね
……
ごめんなさい
……
。目が覚めたら
……
明日
……
私も、あなたに
……
」
酒の味しかしなかったことに安堵しながら、娘はウツシに抱きしめられ、彼の熱に包まれたまま、ゆっくりと目を閉じる。
(無理して、夜に帰って来て
……
良かった
……
)
ずっと、ずっと密かに想いを寄せ続けているウツシに、一刻も早く会いたくて。
夜に着き、彼の家を訪れるか迷っていた時、ちょうどフゲンと鉢合わせた彼女は、彼から事情を聞いて家を訪れた。
お節介だと思いつつ、風邪を引かないように寝ているかどうか、心配になったから。
──というのは、
建前
たてまえ
で。
「おやすみなさい
……
ウツシ教官
……
」
柔らかに囁いた娘の
澄声
すみごえ
は、静かに、
夢現
ゆめうつつ
の月明かりの中へと溶けていった。
1
2
3
@acadine
広告非表示プランのご案内