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君とワルツを 3

幼いヒースクリフをケアする囚人たち。
メインストーリー6章の内容を含みますのでご注意ください。


 
 
 ヒースクリフを抱いたダンテが座席へ続く扉を開けると、向こう側から安堵の声が次々に上がった。その内の何人かは座席を立ち、ヒースクリフのもとへと駆け寄っていく。
 中でもドンキホーテはいの一番に立ち上がり、ダンテの腕に抱かれたヒースクリフが拒否する間もなく色とりどりの銀紙で包まれたチョコレートを幾つも渡していた。曰く、一番近くでヒースクリフの顔を見ていたのにも関わらず、ホンルに言われるまで気が付けなかったからと。
 他の囚人たちは丁度昼食を取っていたようで、各々で買い込んだらしい食べ物を持ち寄っていた。それらに興味を示したヒースクリフと、その様子にいち早く気が付いたロージャが共に食事を始める。ダンテは初め彼の体調を案じていたが、ファウストが何も言及しないことを理由に見守ることとしたのだった。

 そんなヒースクリフは襲い来る眠気に堪えかねたのか、今はロージャの肩に頭を預けて舟をこいでいる。ロージャはというと、うたた寝をするヒースクリフの隣で黙々と記録を取り続けていた。
 二人の様子を遠巻きに眺めていたのはウーティスだ。ダンテはスープの感謝を伝えるべく彼女へ話しかける。
〈ありがとう、ウーティス。スープを作ったのは君だろう?〉
 ウーティスは謙遜を示すようにかぶりを振ったが、すぐに視線を床へと落とした。
「いえ。その……心当たりがあったもので」
 彼女にしては珍しく歯切れの悪い物言いだ。どこか苦い表情をするウーティスにかける言葉に迷っていると、背後にいるロージャから声がかかる。
「ねえ、ダンテ。本当にヒースをワザリング・ハイツへ送り届けるの?」
 ダンテが振り返ると、ロージャは用箋挟から視線を外してこちらを伺っていた。彼女もまた珍しく、普段とは打って変わって陰りのある表情を見せている。
〈ロージャ、あのね……
「分かってる。けど……私はどんな形であれ、ヒースのこと返したくないって思ってる」
 その傍ら、わざとらしく紫煙をくゆらせるのは良秀だった。ウーティスの言葉を借りるのなら、彼女もまた心当たりがあるのだろう。バスの中がしんと静まり返る。
「平気だよ」
 その沈黙を破ったのは渦中のヒースクリフだった。彼はつい先ほどまで微睡んでいたとは思えないほどまっすぐな視線をロージャへ向けている。ヒース、とロージャが彼の名前を口にすると、ヒースクリフは僅かに眉をひそめた。
「戻っても痛いことされるのに? あんなの……平気なわけないでしょ」
 ロージャは諭すようにヒースクリフへ語りかける。あんなの、と彼女が形容したものの正体を知る囚人は皆一様に表情を曇らせた。それはヒースクリフ自身も例外ではない。だが彼は毅然とした口調で言葉を返した。
「痛くていい。あいつらが同じ目に遭ってるざまを思い浮かべられるから」
 だから平気。そう呟くと、ヒースクリフは感情の抜け落ちた瞳でロージャを見つめる。あ、とロージャが小さく声を上げた。

 ぽつぽつと雨が降り始める。それは次第に酷い土砂降りへと代わっていき、ガラス窓を激しく打ち立てる。メフィストフェレスは人気の少ない路上で停止した。