こゆ
2024-06-28 11:58:38
5788文字
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ホスパロまとめリンク

「主体的ストックホルム症候群」のペンシャチの軟禁ホスパロの世界をたくさん書いたのですが散らばってたのでまとめました


蛇足


「お席にご案内します」
店に顔を出せば暗黙の了解で奥の席に案内される。
だってアタシは特別な客だから。
「ペンギンさんから伺ってます」
いつもの黒服が意味ありげに微笑んでくれたので気分も上がる。あぁ、アタシが本命だって話通ってるんだなって。黒服曰く、担当はまだ店に出勤してないらしい。

アタシの彼氏のペンギンは所謂ホストだ。しかも、かなり売れてる。何回か通っているうちに、そういう関係を望まれてるってわかった。彼にとってアタシは客じゃなくてそういう対象なんだって。でも、公に出来る関係ではないから。今はまだちゃんと言葉で約束を交わさないけど、アタシ達はわかりあってる。彼は、はっきりとは言えない立場だから。
「長くプレーヤーでいるつもりはない」と、アタシにだけ特別って話してくれた。それで充分。だから、今は彼を支えなきゃって思っている。だって彼女が頑張るのがきっと彼だって一番嬉しいはず。二人の未来のために。


「待たせてごめんな」
お気に入りのクマの飾りボトルを入れて、ヘルプの子と穏やかに喋っていたら彼がやって来た。アタシにだけ見せる、素の顔。心底心配してくれている顔。
「あ、またそんなの飾って。無理はさせたくないんだけど。でも……正直助かる、ありがとう」
困ったように優しく笑い、ヘルプの子に何か小声で指示をして私の隣に座った。だって、今日はすでにヴーヴを頼んでいた被りの女が居たから。牽制しとかないと。でも、そんな醜い嫉妬の塊は見せたくないから話題を変えた。くちびるを尖らせて、拗ねてるポーズ。
「ペンギン、なんでこの時間?」
そう、今日はオープンから居るって言ってたのに。すでに時計は21時を回っている。

「あー、ごめんな? ちょっと出掛けにペットが逃げようとしてさ」
眉間にシワを刻んで彼が言う。そう言えば良く溺愛している飼い犬の話をしているけど……、室内犬だったよね? 猫ならわかるけど。
「ええ!? 大丈夫だったのぉ?」
大袈裟に高い声で応える。とりあえず、彼の目に可愛く映る様に、さすっと太腿に手を添えて目を見開いて除き込む。暗がりの店内では瞳を大きく見せてくれて、黒コンで盛ったうるうるの上目遣いにさらにかわいいが加点されることだろう。
彼はちょっとはにかんで、アタシの手をぎゅっと握って続けた。
「可哀想だとは思ったんだけど、今日は繋いで来ちゃったんだよね」
「そっかぁ。興奮して部屋メチャメチャにされたら困るしね〜。それは心配だね!」
彼が悲しそうな顔するので、私も部屋に一匹残されたワンちゃんを想像して切なくなる。きっと長めのリードを脱走防止に付けてきたのかな? そう言えば実家のトイプーも子犬の頃はスリッパ噛んだり鉢植え倒したりしてゲージで隔離されたりしてたっけ。
「うん、心配。あんまり煩くないてないといいけど」
彼が小さく、アタシじゃなかったら見逃すくらい微かに、愛おしそうに笑った。アタシが「あのさ、」そう言うのと、黒服が「失礼します」と言うのが、ほぼ同時だった。
「ごめん、ちょっと行ってくるね」
「うん、いってら!こっちは気にしないで」
どうやら被りの客が呼んでるらしい。本カノの余裕を見せて笑顔で手を振る。ここでゴネたりヘルプに当たったりするなんてダサいことはしない。念の為、彼の好きなエンジェルイエローを頼んでおこうかなと、ぶん殴る伝票の強度を高める。
それにしても、ワンちゃんよっぽど大切なんだなって。あの、さっきの表情。初めて見た、あんな顔。漠然とした不安と、ちょっとだけ沸き起こった妬み。その醜い独占欲にかぶりを振る。犬相手に私ったら、そう心を落ち着かせる、実家のコロもきゃんきゃん吠える子だったから、わかる。ご近所迷惑とか考えちゃって、心配だし可哀想だしできっと残してきたワンちゃん心配しちゃったんだよね。


「そういえば、ペンギンの飼ってる犬種わかる?」
そう聞くと、ヘルプの子は「いや、知らないっス」と即答する。そうよね、アタシだって知らないんだもの、たかだか同僚が知るわけないか。馴染みのヘルプだったので話も弾みそこそこの時間が経ったが彼はついぞ戻って来なかった。ちょっと寂しかったけど、明日も仕事だし今日はもう帰ろうと店を出る。こういう時もキチンと解ってあげるのが、彼女の仕事だから。焦った彼からお詫びのLINEが来たら「気にしないで」って返事をしよう。
いつものアタシならそうしていただろう。

でも、魔が刺したというか。なんだか喉に刺さった魚の骨のように、ジクジクと痛痒く気持ちが悪い。
深夜2時半。彼からお詫びのLINEが来た。でも、いつもより心なしか素っ気ない文面にすぐに通話をタップする。いつもならこんなことしないのに。コール音が十回を超えて留守電になる。それを数回繰り返した。迅る心臓の音、何が不安なのか自分でもわからない。もはや、ストーカーのようだと自分でも可笑しいと笑う。25回目の発信。


………………なに? 』
スマホの向こうから全てを見透かしたような彼の冷めた声と、フーッ、フーッ……と言う、くぐもった獣の息遣いのような音が微かに聞こえた。