こゆ
2024-06-28 11:58:38
5788文字
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ホスパロまとめリンク

「主体的ストックホルム症候群」のペンシャチの軟禁ホスパロの世界をたくさん書いたのですが散らばってたのでまとめました


主体的ストックホルム症候群



頬に冷たい感触。
ペンギンの掌だ、そう思った時、視界が徐々にクリアになった。
「起きた?」
「んん、寝てねェし
「寝てたって」
優しい苦笑が落ちてきて、綺麗に手入れをされた長い指が俺の顎を優しく持ち上げた。求められるまま視線を合わせるとソファに座ったままの俺をペンギンが見下ろしていた。
「ペンギン?」
呼びかけて、やっと置かれている状況を理解した。
ソファでスマホ片手にペンギンの帰りを待っていたら、いつの間にか寝ていたようだ。時刻は午前二時半。

「また掲示板見てたのか?」
手元のスマホのロックが解除されて、スレッド形式のページが浮かび上がる。今日も今日とて、ホスラブのペンギンのスレは荒れていた。それはもう目も当てられない程に。
そこそこ有名なホストクラブに所属するペンギン。ナンバー常連、アドトラックが走ればそこかしこで黄色い悲鳴が上がるぐらいには知名度がある。億越えプレーヤーなのに、無理な掛けはさせないし、枕もしないし、それどころか気がきくし、女心がわかるし、LINEの返事もマメだし、デリカシーがあるし、メインの担当の相談にくるサブ担も多い。それにつけて売掛けの回収率100%で、他店とのトラブルも起こさないとくると、自店他店問わず業界の信頼も厚い。荒らされる要素なんてないじゃんって思う、ぱっと見は。
でも、すっごく荒れる。
びっくりするくらい荒れている。
穏やかな外面とは打って変わって、蓋を開ければ当事者ですら自覚のない倫理観ドブ捨てのガチ色恋営業で、自称本カノが量産されていく。計算に計算を重ねたその手口は洗練されていて、新手のDV営業かと思われるほどだ。甘さに甘さを重ねた後にちょっとだけ冷たくされる度に、女はどんど勝手に病んで堕ちて沼っていく。

「あはは、ペンギンんとこ、また荒れてたよ」
「あんましそういうの見ンなよ」
「えー、だっておもしれェし。ペンギン、昨日はどこぞの姫を高級ホテルで激しく抱いたらしい」
「勘弁してくれ」

ペンギンがへなへなと力なく呟いて寄りかかってくる。そうだな、勘弁して欲しい。ペンギンが昨日抱いたのは俺だ。前も後ろもぐずぐずに弄ばれてやめてといってもやめてくれず意地悪く笑ったペンギンに何回もイかされて、腰が砕けてペンギンの出勤の時間が来てもベッドの上から動けなかった。そんな情景を思い出せば下腹部にドクドクと血流が集まってナカが切なく脈打つ。
そんなことは露知らず、ペンギンは胸のあたりに顔を埋めてどんどん体重をかけてきて仕舞いには膝の上に頭をコテンと乗せた。先程とは逆に俺がペンギンの頬を撫でながら、虚言だとか自演だとか、虚勢だとか、ネットの虚構に向けた攻撃的な煽り言葉と、自尊心が満たされるのか嘘のマウントを取り合う掲示板をスクロールし続けた。

「ぷぷ、ペンギン鬼枕だってェ」
「毎日この部屋と店で直行直帰だっつの」
「ラブホのポイント貯めてるとかセコくない?」
「TとDのポイントしか貯めてねェな」
「やり過ぎてちんこが赤黒いらしいぞ、あははっどぎついこと書く姫もいるな」
「それは見て確かめる?」
「ふっ、くははっ、昨日も見たしお腹いっぱいですー。あ、でもやり過ぎは当たってんな」
そんな軽口にペンギンも釣られて、ふははって笑った。別に、浮気調査をしているわけではない。不安も不満もない、その逆だ。


俺は半年前からペンギンのマンションに住んでいる。きっかけは勤めていた接客するタイプのBARで客に刺されて、意識がトンでてペンギンに連絡するまでに一日半かかっちまったから。病院からこの部屋に問答無用で運ばれて、住んでいるというか、出られないというか、まあ、もともと恋人同士なのでポジティブに言って囲われている。世間一般的には監禁とも言う。なので、毎日コイツが直行直帰なのは俺が一番良く知っている。

セキュリティのしっかりした都心のタワーマンションで、この中で大体が完結する要塞になっている。そして、色々しっかりし過ぎていて、皮肉なことに俺は一人では自由にマンションの外に出られやしない。外出します、なんてコンシェルジェだかなんだか知らないがロビーの能面野郎に言おうもんなら即ペンギンに連絡が行く完璧な“セキュリティ”だ。
監禁されている現状に「恋人」なんて都合が良すぎる名前が付いて回れば、いつのまにか純愛に仕立て上げられてしまう。監禁は同棲に、独占欲は一途な思いにに、狂気は深い愛情に。


「シャチはさ、なぁんでそんな楽しそうなんだ?」
スマホ片手ににやにやしている俺のシャツの襟元を引き、体を起こしたペンギンは、ただ一瞬唇が触れ合っただけのキスをした。
「ん……ぁ、みんな、本当のペンギンのこと、知らないなぁって」
「優越感?」
「そうだな。ちょう気持ちいい」
「そりゃ良かったナ」

満足そうに口角を上げたペンギンに今度は真面目に唇を食べられる。顎を掴まれて唇を開かされ、すかさずペンギンのそれが重なる。ぴったり隙間なく唇が合わさったまま、ペンギンは俺をじっとりと見つめた。角度も変えず、あぐあぐと食むこともせず、深く唇を重ねたまま反応を観察されている。もじりと身を捩り視線を逸らしてしまった。ふっ、ってペンギンが鼻息だけで笑った音がする。
「だめ、シャチ、こっち見て」
「ッ……む、むり、
「顔、俺のシャチの顔をちゃんと見たい」
唇を触れ合わせたまま、ペンギンは睦言を紡ぐ。俺のシャチ、って、なんて甘美な響き。くらりと揺れた瞳もペンギンにはお見通しのようで、数分間、唇を合わせるだけのぬるま湯のようなキスが続いた。ペンギンは気まぐれに俺の身体を両腕で抱いて、ぎゅって抱きしめたり、そのまま優しく腕を撫でたり、頬を撫でたり、頭を撫でなそたり。決定的な快楽は与えられていないにも関わらず、俺の思考はみるみるうちにふやけて蕩けて、ペンギンのこと以外考えられなくなってしまう。

掲示板も店の中も夜の世界はウソばっかりでたまに嫌気がさす。勘違い、思い込み、虚言、自演、匂わせ、脅迫、その他もろもろ、たくさん生まれる。本気で優しいのと本気で愛してるのはまったくの別ものだ。向けられたそれを、判断出来ないなら人をお金で買うべきじゃないけど、それがわからない人がいるおかげで俺たちの生活は成り立っている。

「ペンギンは本営ガチ恋製造機だな」
「おまえ程じゃねェぞ。ここにくる前ストーカー規制法に何度守られたから数えてみろ」
「えー?覚えてねェな。ペンギン以外に興味ねェもん」
あと、法に守られているのはストーカー共の方だと俺は思う。俺の恋人は嫉妬深いうえに意外と暴力で解決しがちだから。
「店、来たいのか?」
「んーん別に。来月のペンギンのバーイベでラスソンとってそのまま結婚式してくれるなら行ってもいいけど」
もちろん、リアルバースデーではない。お店的なバースデーだ。でも、その日はきっと帰ってこれないだろうからそれは寂しい。
「いいな、それ。寿退職」
「今までで一番売り上げ立ててやるよ、それからマイクで言うからペンギンと結婚しまーす!って」
「ははっ、全部俺の金だけど」
「ひとのこと閉じ込めておいてそれ云う?」
ペンギンはそれには答えずに、よしよしって宥めるみたいに頭を撫でられる。宝物を扱うような手つきなのに、何故か昼間の猛った姿を思い出す。荒々しく何度も最奥を暴かれた記憶がフラッシュバックして反射でひくんと腰が揺れるた。そのとき、ペンギンの瞳の奥に火が灯った。

そう、その顔。

「悪い男」
「そりゃあ、ホストだからなァ」
ペンギンが俺に向けるその顔が、堪らなく好き。優しい笑顔が張り付いた画面で見る他所の顔じゃなくって、雄の顔。俺以外、誰にも見せないで。
「バーイベ行ったらペンギンの金でリシャール飲みたいなァ」
「カラダで払ってくれるならいいぞ」
終始軽口は忘れない。でも、囁かれる声が少し掠れて低くなる。囁かれて見上げると、雄臭い顔で笑うペンギンは間違いなく獲物を前に涎を垂らす捕食者で、ぐうっと俺の喉が鳴った。この視線から、声から逃れたくても、重い身体にのしかかられて、逞しい両腕にがっちり身も心も囲われてしまってはどうしようもない。