mishiadd
2024-06-26 00:31:10
7682文字
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宮本伊織に人生をメチャメチャにされたいコレクション:お気に召すまま/ボディ・カウント

伊織くんが(特に女体化とかせずに)キャバ嬢をやっている胡乱な現パロ。2部構成。(DLC3の感想文です)
【表面】お店のNo.1キャバ嬢いおりんに会いに行こう
【裏面】キャバ嬢稼業で『誰も彼もを斬る』疑似体験を楽しむいおりんに全財産を吸い取られて破滅しよう


【裏面】ボディ・カウント

――数字は、わかりやすくていい。







太客のひとりが更にふたりを伴って来てくれた。身なりから同じ会社の同僚であることはすぐにわかった。であれば、類推される懐具合も。
金額そのものに興味はない。ただ、そうやって自分の中で目標を定めるだけだ。目指すべき標的ターゲット。そこに至れれば、伊織の勝ち

標的は得難ければ得難い程よい。でなければ、そもそもこんなところでこんな格好をしてキャバ嬢などしていない。――これは、ハンデだ。

「今日のいおりんの売上は~~……

レジを締めたボーイがドラムロールを口ずさみながら札束をめくっている。他の『嬢』――皆、愛らしい女性だ――が、きゃあきゃあと盛り上がっている。
嫉妬のひとつも湧くべきところだが、端正な顔立ちとはいえ普通の成人男性が格好だけの似合わぬ女装をして夜毎異次元の売上を叩き出している。もはや「そういう現象」として面白がる他ない。そもそも同じ土俵に立っていないのだ。

「さすがドンペリ4本の追い上げは堅いね~! もうちょっとで一晩8桁かな。はい、皆いおりんに拍手~!」

きゃはは、と甲高い歓声と共にパチパチとおどけた拍手が鳴り響く。伊織はうっすらと口許に笑みを浮かべ、その場で一礼した。
不思議なもので、まったく体格に合っておらず、むしろ男性としては細身の体格をごつく見せているオフショルダーのドレスも、とってつけたようなアップスタイルと百合の花飾りも――見慣れてくると、まるでそういう生き物のように見えてくる。そういう生き物として、美しい
それをそう思い込ませるに至るまでもまた、伊織の手腕でありゲームだった。――これが美しいのだと、相手に思い込ませるのだ。
ちょっとした仕草、首の傾げ方、目配せ、前髪の揺れ方やあえかな息遣いに至るまで――知らぬ間に、少しずつ、五感を通して脳髄に刷りこまれる。これが魅力的なのだと、思い込まされる。――美に対する好意は、相手の心の裡へと伊織を侵入させる『隙』だ。するりと、音もなく、それこそ当人に気付く暇も与えずに。

「イオリ」

ボーイの――黒服のひとりが声をかける。そろそろ着替えて上がろうかと思っていたところだった。だが、その声の主の顔をみて伊織は考えを変えた。自分の方が余程このドレスの似合いそうな顔をしていながら、黒一色に身を包み、伊織を見ている。心配しているようにも、嫌悪しているようにも見えた。――だから、敢えて着替えるのをやめた。
この顔色を変えることができたならそれこそが伊織にとっての真の勝利なのだろう

「セイバー。少し、話さないか? ――そこのブース席が、空いている」







何枚も折り重なった色とりどりの半透明の布に遮られ、店の奥まった場所にあるブース席は半個室のような風情だった。無論、安全上の理由からそう見せかけられているだけの一区画に過ぎなかったが、伊織はそういった趣向も嫌いではなかった。単純に勉強になると思った。ちょっとした工夫、ちょっとした視線の誘導だけでそうでないものをあたかもそうであるかのように見せかける――学べるところが多い、と思う。

ソファに座り、長い脚を組む。スリットの入ったドレスの裾から脚が露わになるのを、セイバーが眉根を寄せて見る。まあ、見苦しいのだろうと思う。この表情を変えられるようになる頃にはきっと自分はこの場所にも飽いている

ソファの柔らかい背もたれに肘をつき、手の甲に顎を乗せた。こういう仕草が好きな客もいることを知っている。セイバーが好きかはわからない。だから、とりあえず試してみる。

「俺が上がるのを待っててくれたのか、セイバー」
――もう、夜も遅いからな」

ははは、と声をあげて伊織が笑う。

「まるで本物の嬢みたいに扱ってくれるんだな。それだけは心配いらない。おまえが案じなくとも、夜の街くらいひとりで帰れるよ」
「ああ。そうかもな……

セイバーが押し黙る。

そもそも、伊織がこの仕事をすると伝えてすぐに、後を追うように同じ店に就職してきたのだった。そして、ただ黙ってずっとそこにいる。「嬢をやらないか」、と何度か声をかけられているのを見た。だが、やがて誰も声をかけなくなった。伊織がシフトに入っている間、ただ扉の横に佇んで、客の荷物やジャケットを黙って預かっている。

――この仕事は」

伊織が言った。

「わかりやすくていい。全部、数字になって却ってくる。数字はいい。――ああ確かに俺は勝ったのだと、実感させてくれるだろう」

首を傾げてセイバーの顔を覗き込む。この仕草を好む客もいた。セイバーと目が合わない。「これもダメか」と身を起こし、そうでなくては、とほくそ笑む。

「今日の客も興味深かったよ。ひとりはもう――だいぶ前に斬ってしまったあとだから、少し簡単すぎたけれども。
あの彼――もうずっと通ってきてくれているあの彼――彼は、能力を褒めたり、おだてたりするのはダメだ。だから、そういうことを口にしてはいけない。
彼の能力は高い。服装や口振りから察するに、恐らく社内での地位も高い。きっとなにかと周囲に頼られる存在なのだろう。――だから、能力を褒めるのは逆効果なんだ。言われ慣れているし、なによりそうされることに疲れている。だから、ただ『認めてやる』だけでいい。彼自身の『頑張り』を認めてやる。彼という人格を認めてやるんだ。それだけで充分。もしかしたら本人はまだ気付いていないのかもしれないが。
顔をよく見て観察するんだよ。少しずつ言葉を変えながら、ひとつずつ試すんだ。どの言葉が一番反応がいいのか。どの言葉に悦ぶのか。なにを隠していて、なにを求めていて、なにを望んでここに居るのか――それを、探り当てる。それが、弱点。そこを、斬る―― 一人目」

伊織が目を閉じる。空想の中で何かを振るい、何かを斬る――目を開ける。

「それから、彼の同期――彼は逆だ。最初の彼程自信がない。認められたいのは同じだが、求めているのは自分自身の『社会的意義』――自分のやっていることに本当に意味があるのかに懐疑的になっている。……最初の彼が、『プロジェクトが炎上している』と言ったろう。それを横で聞いている顔がひどく心許なげだった。――ということは、あのふたりは同じプロジェクトのメンバーなのだろうな。話を聞く限り理不尽と残業が多い。そしてあの表情――それほどの労力を費やして、今やっていることに意味があるのか疑っている――いや、意味を求めている――だから、与えてやる。指し示してやる。ここにあるのだと。そうやって、斬る――二人目」

伊織がまた、目を閉じる。その横顔をセイバーが見る。伊織が目を開けて、セイバーを見る。伊織と目が合う前に、セイバーが目を逸らす。

「彼らふたりよりも若い彼――きっと、後輩なのだろう。彼は――少し、時間がかかった。警戒心が強い。――でも、難解ではなかったな。もう少し骨があってもよかった」

ぽつりと言い、少しつまらなそうに唇を尖らせる。それは、もしかしたら「誰かが好むから」した表情ではないのかもしれなかった。それでも、きっとその表情を好む客もいるのだろう。そうだと知れば、伊織はその表情を新たにレパートリーに加える。それだけの話だ。

「あまり――やりがいはなかったな。でもまあ、いいよ。――彼は、率直に褒められることに飢えていた。おだてられることに飢えていた。大げさにはしゃがれて、下手したてに出られて、なんだったら早口でまくしたてられることにすら飢えていた。――少し、テンポがズレている相手に安心するんだ。会話のワンテンポ遅い相手。少しだけ、自分より受け答えの下手な相手に心を開く――だから、そうする。相手の言葉に少し大げさに驚いて、たまにわからないふりをして――それで相手につれないそぶりをされても真に受けてはいけない。相手の言葉を聞いてはいけない。逸らした目線の揺らぎを見なければ。追われているのは自分だと、求められているのは自分であると――そう錯覚させる。そうやって安心させる。そうやって入り込む。そうやって、斬る――三人目」

伊織の、けぶる睫毛がそっと閉じられる。開かれる。どこか夢見るようにうっとりとした、それでいて眼光の鋭いような瞳。――夢想の中で剣を振るい続けている
その瞳が、今度こそセイバーを見た。セイバーも、今度は目を逸らさなかった。

「数字はいい。売上自体には興味がないが、だがその数字は――俺が斬った数になるだろう。俺が誰も彼もに勝って斬った骸を積み上げた数に」
「イオリ」
本当に斬ったわけではないから、だからいいだろう?」

「そうだろう、セイバー?」と、伊織が甘えたように問いかける。きっとそれは、他のどの客にも聞かせたことのない、伊織がセイバーのためだけに調節した声だった。――はあ、とセイバーが深く溜息をつく。

……いちいち破産させていては、本当に斬っているのと同じようなものだ」
「だから、そうなる前におまえがいつも割って入ってきて、追い返しているじゃないか」
「きみ、わかってやっているのか……

セイバーはほとほと嫌気が差す。伊織にではない。まんまといいように手玉にとられている自分にだ。
頭を抱えて蹲るセイバーに、伊織がいささかも悪びれた様子のない口調で言った。

「それに、ここの給料は悪くないだろう。食うに困らない。おまえだって、それに越したことはないだろう?」
――もういいよ、わかったよ……

前髪を掻きあげながら、セイバーが根負けする。――結局、いつもこうなっている気がする。

自分と客との間に、一体どれ程の違いがあるのだろうと自嘲しながら――『惚れた弱み』は彼の数字に入るのだろうかなどと、益体のないことを思った。