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mishiadd
2024-06-26 00:31:10
7682文字
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宮本伊織に人生をメチャメチャにされたいコレクション:お気に召すまま/ボディ・カウント
伊織くんが(特に女体化とかせずに)キャバ嬢をやっている胡乱な現パロ。2部構成。(DLC3の感想文です)
【表面】お店のNo.1キャバ嬢いおりんに会いに行こう
【裏面】キャバ嬢稼業で『誰も彼もを斬る』疑似体験を楽しむいおりんに全財産を吸い取られて破滅しよう
1
2
【表面】お気に召すまま
「いい子がいるから」と半ば強引に引っ張っていかれた先の店だった。
連日の残業続きで精根尽き果て、それでもなんとかぎりぎり納期に間に合わせて久々の解放感を味わっていたところ、プロジェクトメンバーで同期の男が「打ち上げにいかないか」と言い出したのだった。
正直すぐにでも帰って寝たかったが、こいつにはそこそこ無理をしてもらった。その埋め合わせというわけでもなかったが、一軒くらい付き合ってもいいか、という気になった。
「いやいい店なんだよ」
同期と俺、それから三つ下の後輩を伴って、夜の街を歩く。ひっきりなしに声をかけてくる客引きのいずれも無視して、断固たる歩調で一軒の店に辿り着く。「CLUBあたらよ」。古風な字体の看板で、ぱっと見キャバクラというよりはスナックという雰囲気に近かった。
「いい
娘
こ
がいるんだよ」
早くも鼻の下を伸ばしながら同期が言う。今年三十路になるかならないかの我々だ。正直キャバクラ遊びというのはもうひとつ上の世代で途絶えたと思っていた。こんなところに継承者がいたとは
……
と驚きつつ、初めての経験に興味深さが勝る。
歩道から下る階段を降り、半地下にある店舗の入り口に辿り着く。からん、と音を立てて開いた扉はまるで喫茶店の入り口のようで、ぎらつくミラーボールでも回っているのかと思った店内は意外にも薄暗く、バーのような落ち着いた雰囲気だった。
同期に促されて中に入る。ボーイらしき男に同期が何かを告げると、すぐに席に案内されるようだった。奥まった場所にある半円型のソファに座らされる。同期がボーイに目配せすると、すぐに頷いてその場を立ち去る。恐らく『指名』、というものが通ったのだろう。同期のお気に入りの『嬢』がすぐにやってくるようだった。
「いい娘なんだよねえ」
しみじみと言い、お冷で喉を潤す。惜しみなく入れられたウィスキー用の氷がカラカラと鳴る。
「初めてこの店に来た時にさ、たまたまついてくれたの。今のプロジェクト
……
正直炎上案件じゃない? 身も心も参ってたときにさ、優しく包み込んでくれて
……
」
うっとりと目を閉じる同期に気色の悪さを感じないといえば嘘になるが、こいつをそこまで追い詰めた原因がプロジェクトにあるのだと言われてしまえば何を言える立場でもない。炎上は俺のせいではないが。
「へえ、」と気のない返事をすると、恐らくこちらの反応など見てもいないのだろう同期が続けた。「イオリちゃんっていうの。俺はいおりんって呼んでるけど」。
源氏名らしい、古風でお淑やかな響きにこの店らしさを感じる。二十代後半に入ったばかりの後輩が、「なんか地下アイドルみたいっすね。いおりんって」と調子を合わせる。
待ち時間に居心地の悪さを感じながら唇をお冷で湿していると、「お待たせいたしました」と頭上から声がした。顔を上げる。「ああ、いおりんー!」と同期がはしゃいだ声をあげる。
――
いや、いやいやいや。いや。
言っていいのか悪いのかわからない。が。
――
これは、
どうみても成人男性では
?
横の後輩を見遣る。彼も言葉に窮しているようで、現れた『嬢』と俺を交互に見ている。泣きそうな顔をしていた。
――
だよな? 俺の目、おかしくなってなんかないよな?
すっかりのぼせ上がってひとりで騒いでいる同期と俺の間に『嬢』が腰を下ろす。
――
でかい。いや、でかくはないがでかい。女性としてはでかすぎる。男性としては普通だが。
女性としては骨太過ぎる肩を惜しげもなく晒したオフショルダーのスレンダーなドレスに、長く伸ばした濃い栗色の癖毛をアップスタイルにして百合の花飾りで留めている。横顔は鼻筋が通っておりひどく端正
――
だが男だ。どう見ても男だ。二十代前半か、もしかしたらぎりぎり十代かもしれない。だが男だ。
「いおりん、元気してた? 俺が来なくて寂しかった?」
「そうだな。おまえが来るのは一週間ぶりだな」
いや口調も完全に男だ。声も男だし。いい声だけど。
「ごめんねいおりん。本当は一昨日来たかったんだけど、また案件が炎上しちゃってさあ」
「気にするな。おまえは仕事を優先してくれ」
「いおりーん! いおりんって本当に優しいよねえ
……
」
めろめろとその場に溶けそうな勢いで同期がでれでれと『いおりん』に話しかけている。ボーイが用意したウィスキーのセットを『いおりん』が受け取り、グラスに氷を入れて手慣れた調子でロックを作る。
――
手がでかい。男の手であることは勿論だが、剣道でもやっているのだろうか。やたらごつい。
カラカラと涼し気な音を立てて掻き混ぜ、『いおりん』がグラスを同期に手渡す。「ありがとう、いおりん」と目尻が垂れ過ぎてもはや目がなくなってしまったような顔をした同期が受け取った。
『いおりん』がこちらを見る。眼光の鋭いような、それでいてどこか夢見るようにうっとりとした、不思議な色の瞳だった。
「おまえもウィスキーでいいか。もし他に飲みたいものがあったら言ってくれ」
「いや
……
ウィスキーでいいよ」
「そうか」
カラカラと音を立てながら、先程同様に慣れた手つきでロックを作る。すっと両手でグラスを手渡され、「
……
ありがとう」と受け取る。『いおりん』が僅かに口の端を持ち上げて笑った。ように見えた。
「いおりん聞いてよー。また理不尽なリテイク食らっちゃってさあ。金曜日の23時にね、『月曜の朝イチまでで全然いいんで、よろです』って」
「そうか」
「そうなの。修正指示もね、なんかふわっとしてて全然よくわかんなくて。ページいっぱいのでっかいバッテンの横に赤字で『なんかいい感じによろ』って書いてあって」
「そうなのか」
『いおりん』が考え込むように顎に手を触れる。小さく首を傾げてから、「大変だったのだな
……
」と感慨深げに言った。
――
その声があまりにも真摯で、あまりにも真に迫っていたので、俺の方が「おや」と思う。
言われた同期は今にもぶわっと泣きそうな顔になっていた。実際少しだけ泣きながら、「いおりん~!」と両腕を上げ下げしている。「嬢におさわりは厳禁」と張り紙がしてあるため、泣きつきたいのを堪えているのだろう。その様子を察した『いおりん』が、大きなごつい手を伸ばして同期の頭をぽんぽんと撫でた。嬢から触れるのは問題ないらしい。よしよし、と何度も同期の薄くなり始めた頭を撫でている。
「偉かったな。
……
たったひとりでよく理不尽に耐えたな。よく、頑張ったな」
「い、いおりん~~!」
「うわあああん」といよいよ本格的に声をあげて泣き始めてしまった同期にドン引きすることもなく、『いおりん』は穏やかな笑みを浮かべたまま、何度も何度も彼の頭を撫でている。むしろ俺の横でカシスオレンジを啜りながら様子を見ていた後輩の方がいたたまれない顔をしていた。
我を失ってオギャり倒している同期から目を逸らし、ウィスキーに口をつける。すんすんと泣いている同期の相手をするのもひと段落したのか、『いおりん』が今度は体ごとこちら側に向いてきた。
「貴殿も同じ会社に勤めているのか」
「『貴殿』? えっと
……
うん。同期だよ」
「そうか。どんな仕事をしている?」
「設計の仕事。わかりにくいかもだけど、ダムとかについてる水力発電機をデザインしているんだ」
「そうなのか」
『いおりん』が少しだけ目を丸くする。表情に乏しいと思ったが、こうしてみるとそんなことはないような気がした。長い睫毛がけぶって重そうに見える瞼がやや持ちあがると、ひどく幼いようにも見えた。
「それは
……
偉大な仕事だな。『いんふらすとらくちゃー』と言うのだろう」
「はは。そういってもらえると、嬉しいけど。地味な仕事だからね」
「とても立派な仕事だ。
……
ほら」
テーブルの上に置かれた、キャンドルを模して揺れるLEDライトを指さして、『いおりん』が言った。
「これが貴殿の仕事の証だろう。貴殿の為したことが、こうしてここで灯っている。
――
立派な仕事だ」
――
なんだかひどく泣きたくなった。それはその言葉のせいかもしれないし、『いおりん』の落ち着いた穏やかな優しい声のせいかもしれない。もしかしたら、ふっと微笑んで細められた、その不思議な色の瞳のせいだったかもしれない。
でも、これで俺も同期のことを笑えなくなったなあ、などと思った。
――
なんだかすごく、『いおりん』が綺麗に見える。
「『いおりん』。
……
ええと」
「無理にそう呼ぶ必要はない。伊織でいい」
「『伊織』。
……
さん。ええと」
――
とりあえずドンペリを入れれば、いいのかな。
そう告げると、『伊織』はくすりと笑い、「無理をする必要はないが、もしそうしてくれるなら嬉しい」と控えめに言った。
了
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