めぐみ
2024-06-25 20:13:48
13598文字
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ままならない男と女の噺(章秋)

背スピンおもしろかったな〜





それから2ヶ月が経った頃、あたしと章は少し仕事の休みを貰って地元へ戻っていた。
理由はもちろん、リオ先輩たちの式へ参加するためだ。


「秋子せんぱーい!!」

最近出来たらしいカフェの前で立っていると、聞こえてくる懐かしい声。
今日はせっかく地元に帰ってきたからということで、リオ先輩と、わたりちゃん、ひらりんと、鹿高ダンス部1~3期生女子会の予定なのだ。
みんながこうして揃うのはかなり久しぶりで、とても楽しみにしていた。

「久しぶりね、ひらりん、わたりちゃん!元気そうで良かったわ」

「秋子先輩も! リオ先輩はまだなんですか?」

「うん、ちょっと遅れるってさ。先入ってようか」

亘理英里と藤田ひらり、あたしのひとつ下の後輩である。今は葉澄コーチが経営する教室に入って、趣味としてダンスを続けている。
この子たちのダンスからは楽しいって気持ちが溢れていて、プロとなった今でも後輩たちから学ぶことは多い。

「秋子先輩、八巻パイセンも一緒に帰ってきてるんですよね?」

テーブルについて、早速章について聞いてきたのはひらりんだ。章とペアを組んでいたこともあるから気になるのかもしれない。

「うん、今日は幼なじみと会うとかなんとか言ってたわよ。みんなによろしくってさ」

「よろしくって、もうすぐ会うのに」

ふふふ、と可愛らしく笑うのはわたりちゃん。入部したてのころは小さくて正直頼りなかったこの子だけど、いつの間にか大人の女性になっていた。

「そういえば、土屋とは今も仲良くやってんの?わたりちゃん」

「はい、ずっとカップル組んでます。ここまで長い付き合いになるなんて思ってなかったです」

「あはは、それ分かるわ〜」

久しぶりに女3人集まれば、思い出話や近況報告に花が咲く。最近のお互いのことやペアのことから始まって、葉澄コーチが再婚を考えているらしいとか、みちるちゃん先生の子どもがめちゃめちゃ可愛いとか、話題は尽きない。


「遅れてごめんっ!お待たせ〜」

そうして暫く3人でワイワイと話していると、本日の主役・リオ先輩が現れた。

「いえいえ、結婚式前でお忙しいでしょう?お時間作ってくださってありがとうございます」

「もう直前の確認だけだから大したことないよ!それに私だってみんなと会えるの楽しみにしてたんだから」

久しぶりに会ったリオ先輩は以前よりも幸せオーラが増して、ますます綺麗だ。やっぱりこの人はあたしの永遠の憧れである。

「それでは改めまして、リオ先輩、ご結婚おめでとうございま〜す!」

ひらりんの音頭に合わせてみんなで紅茶で乾杯する。式は明後日だけど、前祝いってことでいいかな。

「ふふ、みんなありがとう!鹿高の子たちに祝って貰えるってなんだか特別だわ」

「いや〜、私たちも先輩たちの式に出れて光栄です!なんてったって鹿高ダンス部の創設者にしてレジェンドですからねっ!」

ひらりんがおどけたふうに言うけれど、これは本当だ。金ツバ企画効果も手伝って、我が鹿高ダンス部は今や全国的な知名度を誇る。ゾノめぐペアだけじゃなく、競技ダンスは多くの人を惹き付け、あの大会で優勝した土井垣・綾辻ペアの所属する我が部は大いに有名になったのだ。
今も彼らが日本の大会に出るときには、鹿高ダンス部総出で観に行っている(あたしたちの競技会にも来てくれたりして、嬉しいやら恥ずかしいやらだ)。

「レジェンドだなんて言い過ぎよ〜。私たちがやりたいようにやってただけなんだから」

「かあ〜!この夫婦感!!いや実際夫婦になるんですけど!!」

本当に羨ましい。どこからどう見たってお似合いのふたりだ。


「で、リオ先輩。おふたりが結婚する仲に発展した話聞かせてくださいよ〜!」

「私も気になります」

ひらりんが早速今日のメイン議題に突っ込んでいって、わたりちゃんがのっかる。昔もこんなかんじで葉澄コーチやみちるちゃん先生に切り込んでたな、と懐かしくなってしまった。

「ええ〜っ、わたりちゃんまで。う〜〜ん、
話すようなことないんだけどなあ

「リオ先輩、聞かせてくださいよ。あたしも気になります!いつからそういう仲になったんですか?」

あたしだって今日はとことんリオ先輩の話を聞きたい。高校時代から夫婦のような空気を醸し出していたけれど、いつの間に本当に結婚するような仲になったのだろう。

(まあ、聞いたところであたしと章の参考には全くならないんだけど)

「え〜っ、でも、そうだなあ。はっきりといつからって訳じゃないのよ」

「「「と、言いますと?」」」

鹿高ダンス部2期生3期生の息はぴったりだ。リオ先輩の困ったような、照れたような顔がめちゃくちゃ可愛い。

「なんとなーく、両想いになって……、そろそろ結婚する?みたいな」

「え〜、なんかこう、『愛してるわ、リオ!』みたいな愛の告白なかったんですか!?」

ひらりんがさらに食いつく。今のは土井垣部長のモノマネかしら?なかなか上手い。

「あはは。勿論そういうの言ってくれたことはあるけど、告白とかプロポーズとか、そんなかんじじゃなかったかなあ」

「じゃあ、どうやって付き合ったとか分かったんですか?」

「うーん。なんとなく、かな。言わなくても分かっちゃうんだよねえ」

リオ先輩はそう言って不満ひとつなさそうに、ニコニコと笑う。なんていうか


「素敵ですね、そういうの!」

そう、それ。キラキラとした目であたしが言いたかったことをわたりちゃんが代弁してくれた。

「うんうん。なんていうか、お互いのことを解りあってる先輩たちならではですよねえ」

やっぱりふたりに憧れる。それと共に、あたしと章はこんなふうには間違ってもなれないなと今まで何百万回と思ったことを再確認した。

「ありがとう。でもね、実を言うと私は秋子ちゃんと八巻くんみたいなカップルに憧れてたのよ?」

「ええっ、いやいやあたしたちはそんな、おふたりみたいな関係じゃないですよ!?」

いきなり何を言い出すのか、リオ先輩は。思わず紅茶を吹きこぼしそうになった。カップルはカップルでも、あたしたちはそういうカップルじゃないし、憧れられるようなものでもない。

「あー分かります〜!私も八巻パイセンと少しだけカップル組んでましたけど、秋子先輩たちみたいには絶対なれないなって思いましたもん」


「私も、秋子先輩と八巻先輩の関係っていいなってずっと思ってました!」

「いやいやいや、ひらりんもわたりちゃんも、あたしたちみたいなケンカばっかりのカップルになんかならなくていいのよ?」

突然始まった告白ラッシュに驚く。
いつの間に話の矛先があたしたちになってしまったのか。しかも、どう考えたってあたしと章よりも他のカップルの方が仲も良くていい関係だったと思うけど。

「あのね、秋子ちゃん。私はケンカ出来るふたりがずーっと羨ましかったのよ。私と真澄くんは言わなくても分かるって思っちゃって言葉足らずだったから」

「ケンカなんて、しない方が良いですよ?それに、リオ先輩だって土井垣部長としっかり話し合えてるでしょう?」


「ふふ、それ実は秋子ちゃんのおかげなのよ?引退前最後の大会で私たち初めてケンカして、ぶつかり合ったの。あのとき、秋子ちゃんが私に憧れてくれてるって言ってくれて、勇気をくれたお陰なんだから」


「えなんかその、すみません」

なんてことだ。顔に熱が集まってくるのが分かる。きっと今あたしの顔は真っ赤だろう。
まさかあの気迫溢れるダンスは本当にケンカしていたとは。そしてそれがあたしの影響だったとは。

「あはは、謝らないで!感謝してるのよ、本当に。だってそれがなかったら今頃私たちカップル解消してたもの」

(やっぱり、あのときの話本当だったんだ)

『最後の試合』という発言をたまたま立ち聞きしてしまって、あたしが右往左往したことが懐かしい。結局あたしの早とちりだとばかり思っていた。

「ええ〜!リオ先輩、そうだったんですか?おふたりでも解消の危機があったんですね!」

と、ひらりん。あのときは初舞台でいっぱいいっぱいだったのに、相方を連れ出したりして悪いことしちゃったな。

「言いたいこと言い合えるって、すごいですよね。全力でぶつかり合うって、なかなか出来ることじゃないと思うんです」

「そうかなあ。ありがとう」

どうしよう、すごく照れる。こんなふうに周りから思われていたなんて。あたしたちふたりは全然お似合いじゃないと思っていたけれど、そう悪くない関係なのかもしれない。

「で、秋子先輩。八巻・椿組は何か進展ありましたか?」

にやにやとひらりんが聞いてくる。本当にこの子はこの手の話が好きだなあ。

「ひらりん。昔から言ってるけど、あたしと章はそんなんじゃないわよ」

高校時代からひらりんのみならず多くの人にされるこの質問に、こう答えるのがあたしたちの暗黙のルールだ。

「でも〜、明らかにお互いに特別ってかんじじゃないですか!それに男と女がふたりで上京したんですよ!?何もないわけないじゃないですかっ」

「そりゃあ、パートナーだもん。特別っちゃあ特別よ。皆だってそうでしょう?あたしたちは男と女と言うより、ライバルだから」

内心ひやりとしながら答える。あたしの気持ち、バレてないよね?

「確かにパートナーは特別ですけど、それだけじゃないって思いませんか?」

と、ひらりん。控え目な口調だけど、なかなか核心を付いたことを聞いてくれる。

「いやいやいやいや、ないないないない。もうほんと、あたしと章はダンスの上だけのパートナーだから!!」


「秋子ちゃん、本当にそう思ってるならいいけれど、少しでも引っかかるところがあるなら自分に素直にならなきゃだめよ?」

「素直にですか。」

あたしには無縁の言葉だ。


「秋子先輩と八巻先輩、お似合いだと思いますよ?」

「わたりちゃんまで、何言ってんのよ!そんなこと言ったらつちわたカップルの方がお似合いなんだからねっ」

ええ〜〜っ、と赤くなるわたりちゃんを、今度はひらりんが質問攻めにしていく。

話題を変えるためとはいえ、悪いことしちゃったかしら?

こうして鹿高ダンス部女子会は恋バナに花を咲かせていった。



リオ先輩たちの結婚式が執り行われたのは、ホテルの大きな会場だった。
ふたりとも名の知れたダンサーであるのに加え、良家の出身だから、式にはたくさんの人が参列していた。その中にはもちろんあたしたちが知る顔もたくさん。
広いスペースをダンスフロアに見立ててみんなで1曲踊ったりもして、すごく盛り上がった。(新郎新婦までウェディング姿で踊ってみせたのには驚いた。部長曰く、血が騒いだらしい)


「あー、たぁのしかった!すてきな式だったね、しょー!」

アルコールで火照った身体に当たる夜風が気持ちいい。結局3次会まで参加して、まだ頭がふわふわしてる。帰り道はなんとなく、ダンスのペアで一緒になるのがあたしたち鹿高ダンス部のお決まりだ。

「おい秋子、まっすぐ歩け」

「あるいてるわよお」

「ったく、強くもねーのに飲み過ぎだっつの」

ぐいっと章に腕を引っ張られると、すぐに秋子の横を自転車が通っていった。ああ、なんだかんだ優しいんだから。そんなこと、ずっと前から知ってるけれど。

「えへへ、ありがとー」

今日くらい、いいかな。じぶんの腕を章のそれに絡めてみる。普段からパーソナルスペースが近いあたしたちだけど、ダンス以外でこうして近寄ることなんてないから、少しドキドキする。

「ったく、あした朝イチで東京戻って選考会にむけて練習すんだぞ。起きれんのか?」

「ええ〜、しょーが起こしてくれるんでしょ?」

「はいはい分かりましたよ」

章もあたしも朝は弱い。そんなことは高校生の頃からお互い知ってる。それでも上京してから、いや正しくは最初の選考会の後からだが、遅刻は全くしなくなった。
それは、お互い毎朝起きたら連絡するという努力によって支えられていて、章に彼女がいるとき以外専らあたしから連絡して章を起こしてるけど、たまには甘えたっていいだろう。


「はー、リオ先輩たちほんっとにしあわせそーだったなあ」

「おまえさっきからそれ5回くらい言ってんの気づいてるか?酔っ払い」

「だあって本当のことなんだもん!何回言ったっていーじゃない。あー、あたしもいつかあんなふうにしあわせになれるのかなあ」

出来れば章と一緒に、というのは胸の中だけにしまっておく。だって言ってしまったら、きっと章は困るでしょう?

「お前、結婚願望とかあったのかよ」

「そのくらいあるわよお。そーいう章はどーなの?」

ある。ついでに言うと結婚したいと思う女もいる」

「ええっ!?でもアンタ、今彼女いないじゃん。しょっちゅー家来るし」

これは驚いた。だって最近の章はダンスばっかり、あたしと過ごしてばっかりじゃないか。そんな女の子がいるなら、練習のとき以外あたしと一緒にいないほうがいいんじゃないの。

「片想いなんだよ。相手はぜんっぜん気づいてねーけど」

………そっかぁ」

そうだったんだ。 知らないうちに何度目かの失恋をしていたらしい。こんなに近くにいるのに、あたしは章について知らないことばかり。やっぱり、あたしと章はダンスだけのパートナーで、リオ先輩たちみたいな好い仲にはなれないのかな。

あ、やばい。なんだか視界が歪んできた。それもこれもアルコールのせいね。


「おま、なんてぶっさいくな顔してんだよ」

「ぶっさいくってなによー!」

なんでそういうこと言うかなあ!ほんっとムカつく!勢いをつけてそれまで組んでいた腕を離す。
こっちの気もしらないで。本当、他の女の子には気の利いたこと言うくせに、なんであたしに対してだけ出来ないのかしらコイツは。
そしてなんであたしはこんな男のことが好きなのかしら。

「だって、だってアンタに好きな人いるんだったら、この腕離さなきゃなんないじゃないっ!ぶさいくにもなるわよ、ばかー!」

「情緒不安定かよ落ち着け秋子」

「言っとっくけどねえ!あたしにだって好きなひとくらい、いるんだからね!」

「はあ?」

「だーかーらー!好きなひといるっつってんの!あたしだって結婚したいなって思う人、いるんだからねっ!」

こうなったらもうヤケクソだ。告白しないかわりに、このくらい言ったっていいでしょう?

どこの誰だよ」

そんな急に怖い顔したって、だめ。本当に鈍いのね。いや、バレないようにしてるのはあたしなんだけどさ。

「アンタにだけはぜっっったい言わない」

「咲本さんか?それともこの間お前のこと誘ってた男か?」

「どっちも違うわよばか!」

「おい秋子」

さっき離した腕をぐんっと強く引かれる。勢い余って章の胸にふらついた身体がぶつかった。

「悪いけど、お前がどこのどいつを好きだろーが譲ってやれねえ。お前の隣は俺のもんだろ」

はあ?なんで章がこんなくっさいセリフあたしに言ってんの?意味が分からない。

「ふざけないでよ。アンタはいっつも、隣にあたし以外の女の子置くくせに!今度もまた、その片想い中の女の子のとこ行っちゃうんでしょ!?あとそのセリフくっさいわよ!」

「くさくてもなんでもいーだろ、本当に思ったんだから!あとなあ、その片想い中の女ってのがお前なんだよ、ばか秋子!」

「はあ!?」

ちょっと待ってこいつ今なんて言った?

「あんたが好きなのがあたしだって聞こえたんですけど!?冗談やめてよね!」

「だからそうだっつってんだよ!!あーもう、今言うつもりなかったのにくそ!」

「嘘でしょ、だってありえない」

あたしが章のこと好きなのよ?

「ありえなくねーよ、俺が隣に居て欲しいと思うのは秋子だけだ」

「だってアンタ、あたしのこと全く好みじゃないって

「ああそーだよ、お前みてーなやかましい女全くタイプじゃねえ。けど、好きになっちまったもんはしょーがねーだろ」


「しょー

暗がりでよく分からないけれど、見上げた章の表情はいつもより赤い気がする。ねえ、お酒のせいじゃないって思ってもいい?

「あたしもすき、」

やっとの思いで口にした何年分もの想いは、章の唇に飲み込まれた。




ごろり、と寝返りをうつと腕にあたたかい、少しごつごつとした感触を感じた。
この温もりは知っている。なにかしら?あたしの好きな温度。もっと近くに感じたくってすり寄ってみると、よく知った腕が優しくあたしを抱きしめてくれた。


ああ、そうだ。これは――

「しょ、う?」

「ん、起きたか?」

起きた。完全に目が覚めた。

だって、起きたら目の前に、章。いやいや、章とならこのくらいの距離感なんてしょっちゅうだけど、問題は場所だ。ここはダンスフロアでもレッスン教室でも何でもない。ふとんの中である。あたしの実家じゃないけれど。

しかも章があたし相手に優しく微笑んでる。やだ全然タイプの顔じゃない筈なのに格好いいし、心なしか声も甘く聞こえる。なんていうか色気すごい。それルンバのときに出しなさいよ。

いやいや待て、これは夢かもしれない。リオ先輩たちの結婚式にあてられて、あたしも章といつかなんて思ってしまったわたしが見ているイタイ夢だ。そう、きっと、そう。

こういうときは、そう、ぐにっと思いきり頬をつねってみる。

…………いたい……

「何やってんだおまえ」

目の前、ほぼゼロ距離の章の表情が歪む。あ、やばい。これはちょっと機嫌悪くなってきてるときの顔だ。

「んん、夢の中でくらいもうちょっといい思いさせてくれてもいーのに

「おいばか秋子、夢じゃねーっつの。また寝ぼけてんのか?俺先シャワー浴びてくっけど、二度寝すんじゃねーぞ」

そう言って章はぽんとあたしの頭を撫でてベッドを抜け出す。
え、ちょっと待って。なんで全裸なのよ!
思わずばっと目をそらす。

やばい。これはやばい。夢じゃないのか。どんどん冷静になって頭がぐるぐるとすごいスピードで回転していく。
昨日は先輩たちの結婚式に出て、その後みんなで呑んでそれからなんとなくふたりで帰って……そういえば心なしか下腹部が痛い。

「や、っちゃった?」

ああ、思い出した。もうまるっきり全部思い出した。こういうとき漫画では全部忘れているけど、現実はそう甘くなかった。

そろり、とベッドの周りを見ると、散乱するあたしと章の衣服たち。せっかく式のために新調したのに、きっとシワになっているだろうな。

おっといけない、現実を受け止めきれなくて思考が飛んでしまった。

「おい秋子、お前もシャワー浴びてこいよ」

背後から突然章の声がして、思わず肩がビクリと揺れる。いつの間にかシャワーを浴び終えていたらしい。早くない?
下は履いてくれてるけど上半身は裸で直視できない。おかしいな、見慣れてるはずなんだけど。

ていうか、なんでコイツはこんなに平然としていられるの!?

「ね、ねえ章。あたしたちってさ、」

「うん?」

「その、ええっと

……おい秋子お前まさか、何にも覚えてませんとか言わねえよな?」

「いやいや違う違う!覚えてるわよ!覚えてるからこそ、その、混乱してるっていうか

「どう接したらいいか分かんねーとかそういうことか?」

あ、珍しく察しがいい。そういう甲斐性があるところ、いつもはちょっとムカつくけど今はすごくありがたいわ。

「そうそれよ!章はなんで平気なのよ

ばか、平気なわけねーだろ。けど、今までだってお前のこと好きだったんだからいきなり態度変わったりしねーよ」

「そ、そっか

やばい。章があたしのこと好きって。当たり前だろみたいな感じで言ってるけれど、ちょっと照れてる章に不覚にも少しときめいてしまう。想像を遥かに超える破壊力だ。


……もう1回」

「は?」

「だって、信じられそうにないんだもん。もう1回、好きって言って?」

「はああ?? ったく………好きだ、秋子」

「う………うそだあ〜〜〜」

ぼろぼろと涙が溢れてくる。だって全然信じられない。章がわたしのこと、好き?あんなに彼女とっかえひっかえしてた章が?

「お前、言わせといて信じねーのかよ!嘘じゃねーっつの。おら秋子、顔上げろ」

言われたとおりに顔を上げると章の顔が近づいてきて、唇に、熱。

「っはは、泣き止んだな」

………くっさ」

「くさくねーよ!」


【儘ならない、けれど前進】


(ねえ、あたしたちって付き合ってるの?)
(まあ、そーだな)