MN*B
2024-06-21 02:00:46
17543文字
Public 蠱毒な夢術廻戦:pixivバックアップ
 

E.18 耳目一手の慾

シリーズ中第35話になります。
注意書きは1ページ目、もしくはシリーズ概要の方にあります。
このシリーズの閲覧、ブックマーク、いいねなどを、いつもありがとうございます!
お待たせしました。ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございます…。
今回、【鏡裏不照編】最終回です。
これにてアニメ一期の範囲が終了となりました。
ちょっとだけドラマCDネタありです。
次回以降の予定については、これとは別であげますので、気になる方は宜しければそちらをご覧ください。
リンク先は後で貼ります。貼りました。
これです→【 novel/16436230 】
【おまけ】の部分についてですが、実際の内容は変更になる場合が考えられます。ご了承ください。
【耳目一手の慾】ジモクイッテのヨク
造語。

【あとがき】
 『蠱毒の夢術廻戦』シリーズは、また一つの山場を越えることができました。
ここまで読んでくださっている方へ、まずは感謝いたします。
ありがとうございました!
 一話で多くの方を振り落としてしまった小説を、ここまで読んでくださっている方がいるというのも…書き手としては驚きであり、嬉しさがあります。閲覧していただき、本当にありがとうございます…。
ブックマークやいいねだけでなく、コメントやスタンプもいただけて嬉しかったです。というかほんと、読んで頂けるだけで嬉しかったです。
 ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました!
まだ続きは書く予定ですが…詳しくは『今後の予定について』をご覧ください。
今後も見かけましたら、どうぞよろしくお願いします。

追記:2022.11.25 3ページ目、虎杖の独白を加筆修正しました。
 元々しっくりきていなかった部分を、ようやっと落としこむことができた感じです。

#オリ主 #夢術廻戦 #虎杖悠仁 #釘崎野薔薇 #伏黒恵 #夜蛾正道 #家入硝子 #パンダ(呪術廻戦) #狗巻棘 #禪院真希
2021年11月17日 18:03



 面接のときにも言った言葉を、彼が呟く。
それを改めて聞いて私は、少しばかり感慨に耽ってしまう。
あの頃聞いたのは、どこか断言するような、強さのある声だった。今聞いたのは、自信なさげな、弱々しさの滲む声だ。
後者のほうが、人間味のある響きに聞こえたのはそれこそが、彼の殺してきた"人間らしさ"だったからかもしれない。

 そう思いながら、私はまた、彼へ選択肢を言い渡す。

「今さらだが道は一つだけじゃない。高専に通った学生が、必ずしも呪術師になるわけじゃない」

卒業生の一人である伊地知は補助監督であり、七海も一度は就職しているこのことは青嶺も知っているだろう。
彼は元々、自らでも言っていたように、呪術師になるのは手段でしかなかった。
我々 ヒトにとって無害であること"役に立つこと"が、彼の生きる術になってしまっている。そうさせたのは、呪術師 わたしだ。
そうだとしても。できる限り、生き易いようにしてやりたいと思うのはエゴだろうか。

「君のカリキュラムに、補助監督のものとあと、医療についても加えよう。反転術式を使えるのも貴重な存在だ」

術式での治療にも、知識はあった方がいいだろう。
そんな私の意図を汲んだのか、一緒に話を聞いていた硝子が口を挟んでくる。

「時間があれば、私からも指導しますよ。入学前にも似たようなことはやってましたし」

そう言うと、彼女はその目線を青嶺のほうにも向けた。

「やるならそれよりも、"みっちり"やらせて貰うけどね。実践的に手伝ってくれてもいいくらいだ」

割と本気な声色で話した彼女からの圧に、青嶺が思わずといった様子でたじろぐ。
将来的に見れば、彼女の負担も減るのだから、力も入るだろう。

「任務もこれまで通りこなしてもらう。だが任務の等級は、今の階級に合った、低い物のままでいく」

「君の血筋も、呪術界において微妙なものだとわかった今目立つことは避けたい」

喋りながらつくづく悟のやつも、凄いところから引き当てて来たものだと思う。
乙骨のときといい、あいつが拾ってくる学生は並外れているな"並外れているから"こそ、拾われているのは否めないが。
本人の気質や事情はともかく、才能に満ちているのは確かだ。

「わかりました。よろしくお願いします」

彼は頷くと、頭を下げる。
そこには、きっと様々な意味合いが籠められていた。
その中に含まれる言葉に、『短い間』というものがなければいいと柄にもなく、そう願った。







 態度に躊躇 ためらいを残しながら、青嶺が喋り出す。

「夜蛾学長。……獣鉤手、のことで少し

「ここでは駄目か」

小さく首を振り、口を開く様子のない青嶺。ここではそれ以上、話す気はないらしい。
そのことを汲み取った夜蛾学長は頷くと、私のほうを振り返る。

「わかった。硝子、処理は任せた」

「わかりました」

そのやり取りを経て夜蛾学長と青嶺は、その場から去っていった。


 生きた者は一人。
そんな場所で私は、フゥっと息を吐いた。
彼が話した言葉を思い返し私の口からも、ぽつりと言葉が零れる。

「呪術師失格、ねぇ

そう言う彼だったが、むしろそれで良いのではないだろうか。
彼はまるで、己のことを人でなしのように話すがそれは間違いだと感じる。

「人間失格より、よっぽどいいんじゃない」

こんな場で意気揚々とする己こそ、"人でなし"だと言われそうだ。

そう思いつつも淡々と、その手にゴム手袋を嵌めた。








 少しばかりザワつく音を背景にした歌姫の声が、電話越しに耳へ届く。

「どうする?学生にも声かけてみる?」

「そうしてよ。僕に連絡がつかないときは、衛にしてくれてもいいけど」

彼は参加確定枠だからさと、付け加えておく。

 僕らが話している、"飲み会の幹事について"。それの目星がついたかの連絡だったが未だに見つからないのだと言う。
僕は話しているケータイを片手にして、もう片手でコーヒーをかき混ぜる。

「大丈夫なの?強制じゃないでしょうね」

学生へのアルハラとか最低よと、ドン引いた声を出す歌姫。
その言葉の裏に隠された意味。それを正しく受け取って尚、僕は心底心外だといった態度をとる。

「え~!僕がそんなことするような教師だって言いたいの~?歌姫ったらヒドーい!」

いっそアンタへの連絡は、その子経由にしたいくらいね」

これ以上アンタに連絡したくない気持ちを強くさせないでくれる?と、歌姫はキレ気味に話した。
そこまで怒んなくてもよくない?

「僕、下戸だし、ノンアルあるとこ行く予定だからさその辺の心配は無用だよ。じゃ、引き続き、声かけよろしく~」

話し終え、通話を切る。

 歌姫のそばは何が聞いてるか分からないからな
その点、衛も下手なことは口に出さないし。嘘をつかれたらすぐ分かるってのも、内通者を探すのには有利に働くだろう。

 問題は彼が起こしたっていう、受肉体のことに関してだけど。言い訳もせず、全部を馬鹿正直に言っちゃってるのは、実に彼らしいと言えた。
本人は今回引き起こした事柄を、信頼されるに値しない行動だと思ってるみたいだけどそれは真逆だ。
そんな思いが、思わず零れ落ちる。

「会ったばかりの頃なら、殺してただろうね」

必要なことならば、やってみせる。自分のことは二の次で。そんな彼が恐れていたのは、己の力であり、それを知られることだ。
その頃と比べれば、今の彼のほうが信頼できる僕にはそう思えた。


 ケータイを操作して、振り込みを完了させる。
依頼内容であり、その"対象"から外されてしまった彼。
実力を鑑みても、勿体ないな。そう考えずにはいられない。

 彼が毒にも対応できるようになったのは僥倖だし、それを踏まえて"相手を殺さない"という選択を取るのは納得できる。
生け捕りにできたなら、それならそれで、情報が欲しかったのも確かだからだ。彼本人に、その考えが浮かんでいなかったとしても。

 そうなってしまった後なら、どうとでもできただろうに。そんな風に考えられるのは、彼の言う『大人の狡さ』なのだろう。
だとしても相手を無力化・捕縛するだけの力我を通せるだけの力が、彼にはある。それを自覚して欲しいところだった。

「間違いじゃないんだけどな、その欲は」

いくらだって言い訳して、生かしたい奴を生かせばいいのに。
後悔は、その後で知ればいい。

 僕はそう考えながら、コーヒーカップを傾ける。
角砂糖の溶けた、甘ったるくも苦味のあるコーヒーを呷った。