MN*B
2024-06-21 01:27:22
21205文字
Public 蠱毒な夢術廻戦:pixivバックアップ
 

E.10 山椒魚に水

シリーズ中第24話になります。
注意書きは1ページ目、もしくはシリーズ概要の方にあります。
このシリーズの閲覧、ブックマーク、いいねなどを、いつもありがとうございます。
お待たせしました。
いつまでも推敲しそうになったんで勢いであげます。
今回、交流会第一話目です。原作でいう団体戦⓪辺りになります。
オールキャラな展開ですが、原作と同じ展開のとこはダイジェスト気味に描写してます。
割と前から仄めかしていた(?)ラッキースケベ描写あります。ラッキーかと言われると…トラウマものな気がしますけど。

次回、団体戦に入ります。
たぶん文字数も落ち着いて、短めになるかと。
2週間以内であげる予定です。
三人称での人物表記が基本的に苗字なのに対して、歌姫先生も名前なのは…なんとなく苗字表記がしっくりこなかったからです。
今回はさすがに、青嶺のことが可哀そうだと思いました…。
東堂がこんな対応するかな…と一瞬迷いましたが、公式FBに「友達はちらほら(片思い)」ってあったんで、やっぱ有りだなと思い直しました。
それにしてもディスコミュニケーションが酷い…。
伏黒が頭を抱えた理由は…覚えてる方いますかね……。
実は夜蛾学長に青嶺が喋っちゃった件については、E.4にいれる予定でしたが、地の文が多いと感じたのでE.5に移動しました。結局E.5も長くなったんで失敗でしたけど…。
本来なら、E.4に含まれる『秘密』がもう一つあったわけです。悔しい…今となっては気にせずいれときゃ良かったと思います。

#オリ主 #夢術廻戦 #五条悟 #虎杖悠仁 #東堂葵
2021年6月20日 22:30



 給湯室。狭いそこで、お湯が沸くのを待っていた。
各々が壁やカウンターにもたれかかる体勢で、向かい合っているような、いないようなそんな微妙な立ち位置だ。

俺は黙ったままになった彼のことを、チラリと覗き見た。
相変わらずの目隠しのせいで、無言の状態だと何を思ってるのかが、さっぱり分からない。
大体、俺から話を切り出すのが筋か

そう考えた俺は、言葉をまとめながら、ゆっくりと息を吐いた。そしてやっとのことで、口を開く。

……悪かったな。こんなことになるまで黙ってて」

「違うよね、謝るとこ」

半ば、言葉を被せるように彼は喋った。
しかも違うと言われたので俺は思考を回す。
ほかに心当たりと言えるのは、七海さんの指示を無視した件についてだが

そんな俺を見た彼は呆れたように肩を竦める。

「まず心配させてごめんなさいでしょ。2週間だよ、2週間そんくらい寝こむとか無茶しすぎ」

「それはごめん」

俺は言い訳もせず、そう言うだけに留めた。

「事情は聞いたよ、硝子とかから。できることなら、君から直接聞きたいもんだけどね」

そうだな」

頷いた俺は懐に手を入れて、今回支給されたばかりの"お守り"を取り出す。そして、それを彼に投げ渡した。
彼はそれを難なく受け取ると、黙ったままこちらを見てくる。

「学長や家入さんには、もう説明しておいた」

そう話しながら、俺は両手を顔の横へ上げてみせた。その両手には呪力を纏わせておく。
こちらの様子を視ていた彼が、参ったふうに頭に手をやった。

「いつから扱えるようになってたんだか」

君って秘密主義?と、呆れた声で言われ、ついでにお守りが投げ返される。
別にそういうつもりはねぇよと言い返しながら、手から呪力を消し、それを受け取った。

「眠りこける前からだ。実のところ本来なら扱えてるはずのものを、自分で拒絶していただけだった」

自分で使えなくしてたってことで、いいのかな」

「まぁそうなる。それに目を背けたままじゃ、見つけることはできないだろ」

今までの俺はつまり、そういうことだった。


 彼は、盲点だったと言わんばかりの態度で呟く。

「呪力を使う使わないで悩む呪術師がいるとはね」

「言うだろ?大いなる力には」

「大いなる責任が伴う」

声が重なる。
虎杖の訓練用のDVDのなかにあったからな、やっぱ知ってたか。

 この場合の『責任』とは、その言葉通りの意味合いだけじゃない。
それから目を背けたところで、その力を持ち得ている事実は変わらない。
力を持っているその自覚を持つという話だった。

「逃げるのも違った。抑えたところでなくなりはしない。なら、すべきことは決まってる」

この力で誰かを助けられるのなら、俺はもう逃げない。


「ずいぶんと呪術師らしくなってきたじゃない」

楽しげにそう言って、笑いかけてくる五条さん。
俺はそれを否定することもなく目を瞑った。

……そうだな」

  「じゃあなんで僕の母さんは死んだのっ?」

今の俺が抱えているのは、きっとこれが『悔い』というものだった。


 頭を緩く振って、思考を切り替える。そして説明へと戻った。

「俺は、呪いで阿古屋あいという人間の、魂の一欠けらだ。ほかは死んでる」

敵から教えてもらったってのは、情けない話だけどな。
最初に俺の正体を教えてくれてたのも、こっちを道具として扱ってくるような奴だった。ツイてるのか、ないのか微妙なとこだ。

「呪法は術式を応用したものでおそらく術式は、魂に干渉する類いのもの」

似たような術式だったから、俺と"アイツ"の戦いは決定打に欠けていた。
そしてだからこそ、俺は順平を治すことができた。
俺の今の姿が本来のものと違うのも、俺という魂の形に身体が変形してしまっているからだろう。あんまり納得していないが。

これらのことを、正直に話す。
今まで黙っていた分、話すべきであり俺もそうしたかった。


 五条さんは、腕を組みながら考えている仕草をして、俺の話を聞いていた。
そして情報のすり合わせが終わったのだろう彼は真剣な空気を纏って話し出す。

「こっちで考えてたのと殆ど相違なさそうだ。身の振り方を考えたほうがいいのは、わかってるよね」

「これからどうするの?」

これから。
それに関して俺はすぐには答えが出てこなかった。


 夜蛾学長からは、交流会が終わったあとで、改めてその意思を問うと言われている。

  「今の君はまだ呪術高専の学生だ。準備をしてきなさい」

俺にそう促した学長は、俺へ"お守り"を渡してくれた。
『健康祈願』と刺繍された緑色のもの。今回の交流会ために必要だと、予め準備されていた。
長らく持ち得ていなかったが、それは俺の事情を隠すためのものであり俺を守るためのものだった。



俺、」

言葉に詰まる。視線が下を向く。
どうすればいいのか、その指針もない。


記憶_ゆく末。
 「いつまでイイ子でいるつもりだ。それだと、自分の意思で生きることもままならない」
命や生き方すら望まれる通りにしたところで、きっとそれは間違いだ。
わかっていても、それ以外の生き方ができない。だから、死に方を決めた。


 俺の脳裏に、そんな記憶が思い返される。
思わず目を閉じて、息を吐く。

いつかの誰かが決めた期限はとっくに過ぎていた。


 これから。それは、今までの誰もが到達していない地点。
そこに今、俺は立っていた。


「俺は周りに生かされたし、生かされてる。今までも、そうやって生きてきた」

人の言葉と、それに乗せられた想い。それを無下にしきれなかった。
でも、それは言い訳だ。

「俺が生きたいとか考えてなくともそれを受け容れたときに、もう決まってるようなもんだと思う」

拒絶もせず、受け容れたのならそれもまた俺の選択だと思うから。
それに

……俺はまだここにいたい

なぜか震えそうになる声を抑えつけて、俺はそれを口にした。

呪いだとか関係なしに、俺はそう望んでいる。
未練がましく、だがそれも本心でだからあのときも、俺の手から拳銃 アレはかき消え死に損なった。


 言い切った俺は、顔を上げることもできないままでいた。
身動きしてしまえば、何かが崩れてしまいそうなそんな心地だった。

そんな俺とは逆に、五条さんが身動きをした気配。
俯いた俺の、その視界へ入る目の前にやってきた一揃いの靴。

「小難しいこと言わないで、最初からそう言えばいいのに」

声が降ってくる。そして彼の手が視界に掠めたと思えば、額にちょっとした衝撃デコピンされた。
そこを押さえながら顔を上げると、零れた一粒が置いてけぼりにされ、重力に従い落ちていった。

「君ってさバカだよね」

世間話のような軽々しさで、そんなことを言われる。

「知り合ってすぐの頃、そう思ったかな。いや~改めて思ったけど、やっぱバカだね」

追い打ちをかけるかのように、重ねて言われた。
うんうん。と頷いている彼は、悪びれる様子もなければ、悪気も一切ない。

「悠仁のことも夜蛾学長にバラしたみたいだし、またいつの間にか起きてるし君ってやつはさー、も~」

秘密だって言ったのになんで言っちゃうかなー?と、さらに小馬鹿にされた。
さすがの俺もそれにはムッとして、反論を試みる。

「不可抗力だ。そもそも学長が知らないと思うわけないだろ

むしろなんで話してないんだ。てっきり知ってるものと思って会話しちゃったんだからな。

「それこそ、勝手に学長の呪骸を持ち出すな。俺が使ってるんだと学長が思ってたから起こったことだぞ」

情報のすれ違いが起こった結果、お互いがその事実を知ることになったのだ。
つまり身から出た錆ってヤツになる。そんなんだから仕返しされることになったわけで

「しかも今日、生存サプライズなんてことをするって話を聞けば、まぁ夜蛾学長がな

俺は両手の人差し指を立て、つんつんと天井を指して見せる。
本来なら学長だって知らない状態で、ソレをするつもりだというのだからつまりそういうことだ。

五条さんは、信じられないとばかりに口を歪めた。

「はだから君が起きたことも僕には連絡されないで、君は上から登場したってこと!?」

「ちゃんと連絡しないヤツがされるわけねぇだろ」

「うっそマジで!?ひどくない!!?」

非難の声をあげはじめる五条さんだが自業自得だと、俺は小さく首を横に振った。

 俺が目覚めたことは、五条さんへ連絡されずそんな彼のすぐそばに居たらしい七海さんには連絡がされたのだ。笑い話でしかない。
そして、虎杖の生存サプライズなどというものを行うことが発覚し『これはちょうどいい』とばかりに、それをやり返すことになった。夜蛾学長もストレス溜まってんのかな。
ちなみに、俺が上から落ちたのは急ぎ過ぎて、勢い余った結果だった。

しかし、この件で五条さんもちょっとは反省してねぇなこれ。まず反省をする性格じゃないから仕方ねぇか


 俺は呆れた目を彼に向けながら、思わず短い息を吐く。
それで自分が今、どんな表情をしているのか自覚して天井を仰ぎ見た。

「君の気が済むまで、ここに居ればいいよ」

そんなことを言われて、俺は視線を元に戻す。
彼もまた、俺と似たような表情をしていた。

「一人は寂しいからね」

その言葉と表情は正反対にも思えたが今の俺らは一人じゃないから、そんな顔ができるのかもしれなかった。


 それにしても寂しい、か

それは別にそうとは思わねぇけど」

俺がここに居たいのは、一人が寂しいからというわけではない。
比較したのではなく、ただ"今"が好ましかった。それだけだ。

「えー?強がり?」

いつか言われたのと同じことを言われる。
乙骨先輩といい、なんでそうなるんだ。

「違う。もしそうだとしても、それは俺じゃない俺を必要としていた、奴

 俺の、最初の役割それは話し相手。
何かを埋めるために、数多くの"誰か"が生まれた。
一人称で分けられ、話しかけられたら答えるその程度の存在だった。俺以外は。

なんで、俺は生まれた?」

そもそもの話、何を埋めるためだ。
疑問。それを持つこともなく、そこで思考が止まっていた
その感覚は、

「衛?」

ハッと我に返る。
こちらを覗きこむ五条さんの顔が目に入った。

「大丈夫?病み上がりみたいなもんだし、まだ本調子じゃないんじゃ

「問題ない。ってか近いんだよ」

俺はそう返しながら、彼の顔を押しのける。
心配してるのに~と、不満を漏らす五条さん。
だとしても距離感考えろ。目隠しのせいでしくじってんのか?


 一息ついてほかに話しておくことはないかと記憶を探る。
あの日は思い出したことが多い。しかも、それどころじゃなかった上に、あれから寝てたしな
そのせいか、思い出していても、また忘れてそうな気分だ。

思い返せば、あの存在についての記憶もみたな。
そのことを思い出し、俺はそれについても話すことにした。

「そういえば、俺の町にいたあの存在についてだが俺で会うのは二度目だったと思う」

五条さんは俺の言葉を聞いて、不可解そうにする。

「二度目?三度目じゃなくて?」

彼がそんな反応をするのもわかる。前に電話で話した内容では、そう考えてもおかしくはないからだ。
あの時点では、その可能性もあったのだが俺がみた記憶からして、違うことが判明した。

「小学生のころは手前で引き返してる。次の記憶にあるのが高3で話しぶりからして、おそらく初対面だった」

そう」

その後については、記憶にないが……行くはずがない。
そのことが記憶から抜け落ちていた上に、聞く能力すらも失っていたのがその証明だ。関わらないことを選択したからだろう。

きっと深く関わることになった結果が、今の俺の状況に違いなかった。
でも結局のところ、水が合ってるのだろう。俺の本質としては。


 なぜか所望されていたお茶を淹れつつ、五条さんとの会話は続いた。

「ってか君さぁ、自分がどういう状態だったか理解してんの?」

交流会マジで参加?と、肩をすくめてみせる五条さん。
俺は手を止めて、少し考える仕草をとった。
体感としては……

「万全とは言い難いな。でもまぁ久しぶりによく寝たって感じだ」

話によると、術式を延々と使い続けてたみたいだが俺としては何も問題はない。呪力をある程度、消費した状態だと感じるくらいだった。
呪術師同士の交流会で、俺の呪法を使うようなことにはならないはず。というか、人に使ったら下手すると死ぬのは変わってねぇ。

 俺が自分の感覚に頷いていると、不満げにする五条さんが目に入った。
なんだと思って視線を向ける。

「冗談だったのに、本当にするのって意地が悪いよ」

「どれだよ」

「君と久しぶりに会ったときに言ったヤツ」

ほら春休み前と、付け加えられた説明で、俺は該当するものに思い当たった。

ああ、あれか。全然違う詐欺まがいな最悪の表現」

そんなふうに思ってたの?とショックを受けたような五条さんの声が届く。
俺はそれを無視し、止まっていた作業を再開しながら、話を続けた。

「だったら口にしないことだ。『嘘から出た まこと』って言うだろ」

「口は災いの元、とも言うね。そういえば、君ってそういうタイプだった」

「は?」

後半は独り言としての言葉だったろうが、思わず声が出た。
どういう意味かと思い、彼のことを横目で見る。彼は悪びれる様子もなく軽く話す。

「根っからの呪術師だよね、君。意外と向いてるんじゃない?」

「嬉しくねぇな

俺は作業を終わらせて、ため息をついた。
誰に出すつもりのお茶を、俺は淹れさせられたんだろうな。

「褒めたつもりなんだけどな~」

「アンタそれ言われて嬉しいか?」

そんなやり取りを交わしながら、俺たちは給湯室を出た。



 廊下を歩き、皆のところへ向かう。
結構話し込んでしまったが、まだミーティングはあってるだろうか
そう考えていたとき、隣を歩いていた五条さんが唐突に話をし出した。

「僕のこと試したでしょ。久しぶりにあったとき」

その言葉が示すのは獣鉤手をわざと出したときのことだろう。
バレてたか。
この際だから話しておけと言わんばかりの意図を感じる。

俺たちは足を止めずに、そのまま話を続けた。

「アンタが生かしたんだ。改めて、そのまま生かすか、殺すか最後の判断を任せた」

あの頃からしても、手から刃が生えるなんていうのは、彼らの想定よりも化け物じみた存在だったはずだ。扱いに困ってそうな雰囲気を感じてたのもある。
そんな俺を本当に生かすつもりなのか、それを確かめたかった。だから、刃を出した姿をわざわざ見せた。

「で、殺さなかったから踏ん切りついたってワケ?」

まぁ。それ以上ゴネる意味もなかった」

でも正直、笑えねぇ冗談をこれ以上言うなよって気持ちもあったのも確かだ。
迷惑なこと、この上ねぇからな

「変なとこで強情というか往生際が悪いね~」

「そりゃ見ての通りだろ」

ブラックジョーク過ぎない?」

これも笑えねぇ冗談か。





 しかし。
この獣鉤手呪具だったときから、状態がだいぶ変わっているらしい。

 呪具として籠手の形をしていたころで、指先と一体化するなんて現象は起こりえていない。記録上、ヒイラギさんを除いて。夜蛾学長からはそう言われた。

考えうるのは元々獣鉤手は、籠手の中に刃となる部分が収納されていた。今では、その籠手に値するのが、俺の身体だという推測。
使えば使うほど、身体に馴染んでいるという可能性もある。それこそ、成長しているのだと。

 ちなみに、目が覚めたときに受けた軽い診察それで出した獣鉤手は、四枚刃だった。素知らぬ顔で、己は呪具ですと言わんばかりの気配をしているのだという。
そして俺が"俺の姿"で起きたことで、その獣鉤手の本体部分は見えなくなってしまった。
つまり、摘出するなら、俺が元の姿で起きておく必要があるということで

いやどうすりゃいいんだ。