MN*B
2024-06-20 22:11:55
27839文字
Public 蠱毒な夢術廻戦:pixivバックアップ
 

E.8 破鏡 ―結―

シリーズ中第22話になります。
注意書きは1ページ目、もしくはシリーズ概要の方にあります。
このシリーズの閲覧、ブックマーク、いいね、コメントやスタンプなど…ありがとうございます。
お待たせしました。
 今回、明確な原作キャラの設定改変があります。気になるという方は、下に書いてますのでどうぞ。ある意味、今回のネタバレです…とはいえ、察している方もいらっしゃるかと思います。そのさらに下には、その対象がわかりやすい文を書いてます。一応、小説形式。
 それとは別の、設定改変じみたこともありますが…まぁ正直、そちらは今さらなので…わかりやすく言えば、番外編『寿司と供物と生き字引』『在り方接し方』辺りの事情です。


以下、詳しい注意書き。地雷が気になるという方向け。


・原作キャラとの血縁関係があります。

※さらにわかりやすいオマケ+
記憶_決断。
 きっと両親は、この話が自分たちに届いているとまでは考えていなかった。
でも自分には聞こえていたし、兄も察していた。
 「あなたと離婚はしません。吉野さんとの子は…彼女の意思に任せます」
「産むなと言う権利は、私たちにはありません。それに、産まれる子に罪はないのですから」
そんな母親の声が、はっきりと耳に届いた。
【終】 

 今回、想定よりめっちゃ文字数増えました。
テンポ悪い部分がありますが…ほかに突っ込む場所もないし入れとけ!って感じで入れときました。
 次回、閑話的な話になります。2週間以内を目途にあげるかと思います。
追記:2022.5.10
11Pが描写不足だったので少し加筆しました。

#オリ主 #夢術廻戦 #真人(呪術廻戦) #虎杖悠仁 #七海建人 #宿儺(呪術廻戦)
2021年5月25日 07:13



 私が彼と出会った頃。
彼は音を聞き、それ以外は決められた通りに過ごしていた。



 高専内、運動場近く。
移動中たまたま通りかかり、目にとまった。何をするでもなく、芝生の上で座っているそんな少年。

「君は

学生にしては、こんな少年がいただろうか。
彼は私の言葉に反応して、ぺこりと少し頭を下げた。

「俺は青嶺、衛です」

「あ、あぁどうも。七海建人です」

とっさに自己紹介を返した。
そのときは、それで会話が終了した。




 またしばらくして。
初めて会ったときと似た風体で、彼は猪野くんに絡まれていた。

 自販機前で、二人は立ち話をしている様子というか、一方的に猪野くんが喋って、それを聞いている彼。
お互いの手の中には、そばの自販機で買ったのであろう飲み物が握られていた。

……何やってるんですか、猪野くん」

私の声に、二人は揃ってこちらを向く。

「あっ!七海さん、お疲れさまです!ホラ、この人がそうだぞ」

後半は小声で、彼に向けて話す猪野くん。それに対して、軽く頷きを返している彼。
何を吹き込んで、吹き込まれたんだ。

お疲れさま、です

彼はそう言いながら、前と同じように少し頭を下げた。
その横で、猪野くんが口を開く。

「今この後輩ちゃんに、呪術の基礎なんかを教えたりとか、なんたりを話してて

その"なんたり"に、私についてが含まれていないといいが
そんなことを考えながらしばらくの間、彼らの会話に巻きこまれた。


 彼と別れたあと、猪野くんとともに高専の敷地を移動していく。
その途中でも、猪野くんの喋りは続いていた。

「あの後輩ちゃん、ちょーっと変わってて自販機の音聞いてた、なんて言ってたんです。聞いてたイメージと違うし」

聞いてた、とは?」

「あー、噂とか、五条さんから。俺、てっきり同年代かと思って可愛いって聞いたのに、男子

しかもどっちかと言えば美形ってカンジと、肩を落としている。

「あの人の話を鵜呑みにするからです。揶揄われたんでしょう」

話のネタにされた側、それを聞いた側どちらにとっても迷惑な話だった。

猪野くんは複雑そうに唸ったあと、プラマイしたら同じ歳くらいってどーいう意味なんだっ!と叫んだ。

精神年齢じゃないですか。どちらの、とは言いませんが。
あと、プラスマイナスがある時点で同年代ではない

そんな言葉を呑みこんで、代わりにため息をついた。



 次に彼を見かけたのは、高専内の通路でだ。
彼はじっと天井付近を見上げて、でもどこか意識が曖昧な雰囲気。

「青嶺くん」

私が声をかければ、彼はこちらを向く。

「七海、さんこんにちは」

「こんにちは。何をしているんです」

……音、聞いてます」

「音ですか」

猪野くんが言っていたのは、こういうことか。
しかし今は何の音だと言うのだろう。

「わかんね、んスけどたぶんなんかの機械音

電線とか配線みたいなと、補足を付け加える彼。
猫か何かのような挙動だ。

「ほかに何かすることがないんですか」

私が思わずそんなことを言えば、彼は眉を寄せ、首を少し傾げた。

「今日は休み、なんで。特には」

一つ頷いてから、そう話した彼。それ以上に言うことがない、といった感じだ。
彼は入学予定者だと聞いているが学外に出ることが禁じられているわけでもないだろう。休みの日なら、この年頃はもっと……

いけない。思考が移りかけてしまった。一気に歳をとった気分にもなる。
それを取り繕うように、私は口を開いた。

「時間は有意義に使うべきです。限られたものを最大限、活用する……

こちらをじっと見つめて、話を聞いている彼。
たまに頷いている辺り全く人と関わる気がない、というわけでもなさそうだった。



 ある日、また通路で彼のことを見かけた。
通路の壁に身体を預けて、地べたに座りこむような形の彼。

「青嶺くん!?」

私は驚きながら、彼に駆け寄る。

七海さん、っスか」

彼はなんでもなさそうに、目を開け顔を上げた。

「どうしたんです、そんなところで調子が悪いんですか?」

私の言葉に彼はきょとんとした顔をする。
そして何かに気がついたように、一つ頷いて喋り出す。

「音、聞いてました。ここが一番聞こえる位置なんで」

「一番聞こえる位置?」

そこで一体何が
そんな私の困惑が伝わったのだろう彼はいつものように補足を付け加える。

「水道管の音、です」

「すいどうかん

壁越しにそんなものを聞いてなんのためなのか、趣味なのか。やっと見つけた趣味がそれなのか
とりあえず、指摘しておいたほうがいいことがある。

「それは構いませんけど事情を知らない人間が見れば驚くので、場所と姿勢を選んでください」

わかりました」

納得したように、数回頷く彼。本当に理解したのだろうか。



 曜日、時間いつものならこの辺りにいるはずの彼がいない。
そういうこともあるだろうと思って過ごしたのが、何回か続いていた。
何度もそれが続くと気になるそう思って訪ねた医務室からも、彼の姿が消えていた。

「家入さん、彼は?」

「ん?ああ青嶺は入学してるから、寮に入ったよ」

そういえばそんな季節だったか。
むしろその季節すらも終わりかけている。気がつくのが遅すぎると、自分でも思ってしまった。

「何か彼に用でもあったのか?」

「いえ。最近は姿を見ないと思っただけです」

「そうか。それもそうだろうな彼は早々、こっちに来る用もないだろうし」

それは怪我をしないという意味だろうか。この辺りで学生でも用がありそうなのは、ここ医務室くらいではあるし。

補助監督志望でしたか」

「いや?呪術師、今は4級だな」

4級単独で任務には当たらず、難しいものもまだ当てられないだろう。それなら確かに、怪我をしたりだとかで家入さんの世話になることもないか。
私はそう納得し、緩く息を吐いた。


それからは、彼と関わることがなかった。
その流れが変わったのは


 出張先北海道。
相対したのは人形に呑まれた、どうしようもない人間。
そんな任務を片付けて、私と五条さんはバーにいた。

「お前に預けてみたい生徒たちがいるんだよ」

「生徒"たち"?」

「そ。虎杖悠仁。そして、青嶺衛」

二人分の名前、それぞれに別の動揺が走る。
は、とりあえず置いておいて、虎杖悠仁?

亡くなったと、聞いていますが」

「呪いの王を宿してるんだ。その辺のインチキとは、格が違う」

「それと青嶺衛、彼もちょっと複雑な事情があってね。信用できるヤツじゃないと頼むにも頼めないんだ」


私は言葉を挟まないまま、語られることを聞いていた。
私が訊かず、彼も特に話さなかった事柄それをこの人の口から聞くことになるとは。

「詳しくは夜蛾学長に許可もらって資料みてよ」

そんな言葉で、彼についての話は一旦、打ち切られた。


「精神的なケアまで手が回らなくてね一度あの子たちをお前に預ける機会が欲しい。お前みたいに、人の痛みがわかる大人に預けたいからさ」

「そんなことを言うために来たんですか」

「まぁね。特に衛は向いてなさそうなんだ。そもそも事件に巻きこまれななければ、こっちに来ることもなかっただろうし」

その辺は悠仁も同じなんだけどねと、五条さんは呟いている。

「不安要素は多いけど、ぶっちゃけ弱いから彼頑張っても準2級倒せるくらいの実力しかない」

それは私でも"対応"できる、という意味合いだろうか。
そもそも私としては、ぼんやりとしがちな彼しか知らない彼が戦えているのかも疑問だ。

「ま宿儺の指取りこんだ特級と、元特級仮想怨霊祓ってるんだけど」

グッと飲み物が変なところへ行きかけた。
彼が?特級を?4級のはず、というのは表向きか。でも実力がないって言ったばかりでこれだ。

「もう少し話し方を考えてください」

「そんなこと言われてもさ~事実だし。あ、名前は偽名だし、実は性別も違うよ」

「ふざけないでください」

猪野くんが誤解していたのは、確実に、この人のせいだ

ため息と共に、グラスの中身を飲み干した。



 本当だった。
資料を読めば読むほど目を疑うというか、頭が痛くなるというか本当に、矛盾があるようでない、複雑な事情だ。
そして彼は特級を祓える呪法を、誤って友人へ向けたと思っているわけか。しかもその友人が別件で死んで生き返っている

 頭の中でそれらの情報を整理していれば、あの人が件の二人を引き連れてやってきた。
彼はかけているサングラス以外に、変わった様子があるようには一見思えなかった。
イメージとズレたのは。

「ってか出せたらいいねってレベルのまんまだしね~!結局、呪力も全然扱えてないしもしかして衛ってセンスない?」

教師とは思えない態度で話す五条さん。
複雑な事情があろうとも、彼もあなたが受け持っている学生でしょう
虎杖くんと話終わった私は、そう思いながら彼らのことを眺めていた。

今まで神妙に話を聞いていた彼は唐突、且つ凄まじい速度で、あの人の足を踏みにかかった!?
当然、あの人の術式で留められている。それを確認した彼は、さらに舌打ちをした。正直、目と耳を疑った。

無言のまま足をどかした彼は、しばらくして「八つ当たりだから気にするな」と話す。
八つ当たり?というには、理由が明確だったが。
それに彼だって、あの人に対して無駄だということは知っているはず……

 話の流れに乗りながら、私は考えを巡らす。
彼が無言で、私へ意見を求めるようにこちらを見てくる。それに返事をして

それに舌打ちはガラが悪いですよ」

納得した様子で、頷いてくる青嶺くん。
あの日の焼き直しのようでもあったが、きっと違う。

 彼もあの人のことを尊敬はしていない。だが、信頼が透けたような気がした。

 わざと、ハイスピードで踏みつけた。不満を表するために。
怪我をさせるためではない、相手の靴を汚すためでもない。だから、踏みつけることがないようにあの人の術式を確実に発動させるため、わざと凄まじい勢いで挑んだ。
 その上、わかりやすい形として、舌打ちをしたのだろう。それか、踏みつけられなかったのが不本意のフリをした。

 この人が彼のことを子ども扱いするのも納得してしまう自分がいた。
信頼している相手への、わかりにくい甘えがそこにはあった。