匣舟
2024-06-18 20:20:11
7228文字
Public WB
 

かんたんなねがいごと

流れ星が話題になった時に思いついたネタです。流れ星に三回同じ願い事を言ったら叶うって迷信を桜は昔はやってたけどそんなことないと周りの環境から悟ってしまって願い事なんかクソ喰らえって思ってそうだな…と思ってできたネタです。
願い事が叶わないと思っている桜の話。 うめさく


ん、いまなんじ……って、もう夜じゃねーか。」

 桜が次に目を覚ましたのは星がキラキラと輝く夜だった。夜だったことに驚いて飛び起きると、自分の体に何かが掛けられていた。

「こ、れは……?」

 自分が来ている上着より、裾が長い特徴的な上着が桜に掛けられており、こんな特徴的な上着を着ている人物は桜が知っている中でひとりしかいない。風林高校の三年生で防風林の総代である梅宮だ。自分の頭の横らへんに置いてあったはずの携帯を探し出して、取って時間を見てみると時刻は十九時頃を指していた。

「ま、ぶし……ぃ」

 ずっと寝ていたからか桜の瞳は携帯の液晶の光に慣れていないのか目を細めながら画面を見ている。通知センターには百に近いチャットが来ている。ほぼクラスメイトからのメッセージで楡井や蘇芳を筆頭としたいつも一緒にいるメンバーに関しては着信も来ていた。心配されていることは分かるが多すぎだろと思っている桜の顔は少し顔が赤くなっている。
 気を取り直して立ち上がった桜は明日も学校があるし、早く帰らねぇーと。と梯子に手をかけると、夜空から何か煌めく。

「あ、ながれ、ぼし……。」

 キラキラと輝いて瞬きするうちに消えていく流れ星を見ていると、今朝ことはと会話した内容が思い浮かんだ。願い事かと考えてみたが、少し考えたあとやはり願い事なんか叶うはずないと馬鹿馬鹿しくなって梯子を降りて、屋上のドアノブに手をかけるとさーくら!と桜よりでかい手が桜の肩を掴む。

うおッ!なんだ、梅宮かよ。」

「も〜そんな顔するなんて失礼だなあ〜!」

 寝起きの桜の頭に劈くようなでかい声が突き刺さる。しかめっ面をしている桜を他所に、梅宮はよく眠れたか〜?と呑気に桜の顔を覗き込んでいる。

眠れた……けど、」

「そうかそうか!ならよかった!」

これ、上着。おまえのだろ

 あり、がと。と下を向きながら発言しているが、梅宮には顔の赤い桜が見えている。かわいいなあ。と思いながら桜のことを抱きしめると桜も最初は急に抱きつくな!と反抗していたものの、周りが誰もいないことに気づき、抵抗をやめて梅宮の背に手を回した。
 いつもなら周りにスキンシップを取られることに対して抵抗する桜だが、梅宮ひとりの前だけならばいつもフシャーッと威嚇する猫が、人間に撫でられてゴロゴロと喉を鳴らす猫みたいになってしまうのだ。なぜ、桜がそんなふうになってしまうのかというと理由は単純明快だ。なんたって梅宮は桜の恋人だから。

「桜、好きだ。」

……は?」
 
 梅宮から告白されたのは、いつもと同じように親睦会が終わりつつあるときで、たまたま周りに誰もいない時だったと思う。桜は最初、梅宮から告白された時どうすればいいか分からなかった。自分のことを好いてくれる人間などこの世界に居るのか?なんて思っていたから、好きだと言われても自分のことを好きだから何かありますか?という考えを持っていたからだ。
 そんな桜の考えを知っているのか梅宮は、これからお前が嫌だってほど好きって言って気づかせてやるからな〜。と笑ったかと思えば覚悟しろよ。と真顔になるもんだから数ヶ月経った今も桜の脳内によく残っている。

「桜、好きだ。」

「桜!好きだぞ〜!」

 梅宮は宣言通り、いつどこにいたって桜に伝わるようにどストレートに気持ちを桜に伝えてくれた。大体はふたりっきりの時が多かったが、外堀を埋めるようにみんなの前で言ったこともあったため、毎回、顔がみるみる赤くなって何言ってんだ!と言っていた桜だったけれど、いつしかいつでもストレートに自分に想いを伝えてくれる梅宮に根負けするのにも時間は掛からず、震える声でおれ、も。と勇気を振り絞って言ったときの梅宮の顔といったら。もうそれは今まで見た中でいちばん優しい顔をしていたので、告白された時と同じように桜の脳内に深く刻まれている。

「まあ、でもちゃんと危機感は持って欲しいところだなあ〜。」

危機感?」

 おやすみ。という恋人の声を偶然拾って声がした方に向かってみれば恋人である桜が無防備に寝ていた時の梅宮の心情を知らずに桜は首を傾げていると、梅宮の背の後ろに広がっている夜空がキラキラと輝き出す。

「あ、また流れ星。」

 そんな桜の無意識なつぶやきを拾った梅宮も、桜と同じように夜空を見上げるとキラキラと流れ星が数え切れないほど流れていた。綺麗だなあと見つめていると不意に梅宮が願い事はしないのか?と桜に聞いた。桜はことはに聞かれた時と同じようにそんなもので叶うなら何万回も祈ってる。と回答した。ことはと同じような「そっか。」みたいな返答が返ってくるのだろうと思っていた桜だったが、梅宮から返ってきた言葉は予想外の言葉だった。
 
「桜が願い事をしないのなら、俺はお前に向かって願い事しようかな〜!」
 
「は?なんでそうなる?」
 
「桜の目がそこにキラキラ輝いてる星のようなモンだからかな〜。よーし願い事言うぞ〜!」

 そんなこと、今まで言われたことのなかった桜はピシリと固まった。いつも片方の目が違うことで他人から投げかけられる言葉は気持ち悪いという一言が圧倒的に多かったからだ。
 物心ついた時からそれを言われ続け、桜も自分の瞳がオッドアイで良かったなど生まれてからずっとよく思っていない。
 他人と容姿が違うだけで徹底的に排除、拒絶される世界。自分も在り来りな髪色や瞳の色が良かったと何回思ったことか。
 そんな自己嫌悪になる対象の桜のオッドアイの瞳、片割れの黄色の瞳のことを目の前にいる梅宮は星のようで綺麗だと言ったのだ。
 
「ちょ、ちょっとまてって」

 困惑する桜を他所に梅宮はつらつらと願い事を時たま流れている流れ星にではなく、桜に向かって言い続けた。後ろでキラキラと瞬きの間に消えてゆく綺麗な流れ星を無視して。
 
野菜の苗がでかくなりますよーに!」

 そんなもの、オレに言ったってなにもねーのに。というか流れ星に願わなくてもいいことばっかじゃねーか。と桜が思うようなことばかりを梅宮は口にした。
 ことはがお兄ちゃんって呼んでくれますよーに!とか、柊の胃薬の服用が減りますよーに!だとかどれも梅宮が主に原因で引き起こしているばかり桜に向かって言い放っている。
 さんざん色んな願い事を桜に向かって述べて、なんでこんなことを聞かなきゃいけないのかなんて思っている桜に、梅宮は一つ笑みを零して彼の瞳に向かって最後にこう言い放った。
 
桜がこれからも俺のそばで笑って、幸せでいて、ずっと一緒にいてくれますように。」

 その言葉には、梅宮の桜に対する想いと願いがぎっしり詰まっているように聞こえた。願いごとなどしても無駄だとずっと思っていた。だって叶わないから。
 桜が願い事が叶わないと知っているのは幼い頃、キラキラと輝いている流れ星に願い事をしたことがあったからだ。
 そのとき、なにを願ったのかは曖昧だ。多分、もういじめられませんように。とか、友達と一緒に遊ぶことが出来ますように。とかだったような気がする。子どもにしては残酷な願いごとだと思う。
 普通の子どもならば欲しいものをお願いするだろう。欲しいものなど桜にはなかった。ただ、自分のことを普通だと認めてくれる存在が欲しかったのだと思う。
 普通ならばこうして仲間はずれにされることもないし、大人から冷ややかな目で見つめられることもないと思っていたから、そう願ったのだと思う。
 まだ力で自分の存在を示すことが出来なくて、ただ悪口などを言われるだけの日々を過ごしていた時に願ったが、いつまで経ってもそんな願いが叶うことはなく、願い事などする方が無駄だとその時に理解した。
 理解した頃にはもう力で自分の存在を示していたときで、ああ、願い事などに頼らなくとも自分で叶えていけばいいのだと思ったのだ。

「願いごとなんざ、叶わねぇだろ。」

 桜は吐き捨てるようにそう呟いた。自分でも酷いことを言っているのは分かっているが、認めたくなかったのだ。頑なに叶うはずがないという意志を持っているのは、幼い頃の自分を否定したくない桜のエゴだ。あのとき願いが叶わなかったから今自分がここにいるわけで、抑制からも解放されて、こうしてひとりで生きていけるようになったわけで。そんな桜の考えを見透かしているのか、叶うよ。と梅宮は桜の瞳を見つめる。
 桜にはどうしてそんなに梅宮が自信満々に叶うだなんて言えるのかが分からなかった。

「なんで、そんなに叶うなんて信じられんだよ。」

 梅宮の顔を見られずに下を見ながら呟くと、そんなの簡単な答えだ。と梅宮の笑い声が聞こえる。

「叶う!って信じてるからな。ただ、それだけだよ。」

 あまりにも予想外な簡単な答えに桜はぽかんとした顔で梅宮の顔を見つめた。その顔を見て、梅宮はあはは。と大きく笑った後、それにな。と続きを話し出した。
 
「俺は桜を離す気なんて微塵もないし。」

 だから、俺の願い事は必ず叶うぞ〜?と笑いながら自分を抱きしめる梅宮に、桜はなんだよ、それ。と言いながらも照れている。
 願い事なんて言っても無駄だと思っていた。だって叶わないから。だけど、目の前の彼と一緒なら自分の胸の内に秘めた願い事も叶うのだろうなと思う。
 そんな事を思っていると、キラキラと瞬きの間に流れ星が夜空を覆い尽くすほど煌めく。

「うめ、みや。」

 すこし震える声で自分を抱きしめている彼の名前を呼ぶ。なんだ?とこっちを向いて笑う彼が自分の瞳の中に映ると同時に、意を決して言葉を紡いだ。

「オレも、ずっと、ぅめみやの隣にいたい。」

 恥ずかしさで声が小さくなる。なんて幼稚な願い事なんだと自分で思ってしまう程、か細く弱々しい声だ。しかし、その声を聞いて梅宮は嬉しそうに笑って桜の額に彼の額をコツンとくっつけた。
 額から伝わる互いの熱に愛おしさが募って、そしてどちらともなく目を閉じて触れるだけのキスをした。桜は照れながらキスを受けいれ、梅宮はそんな桜を見ながら笑っていた。
 唇が離れてもまだ足りなくてもう一度だけキスをする。そんなふたりの頭上では流れ星がキラキラと煌めいている。

「さ、流れ星もたくさん見たところだし帰ろうか。桜、家まで送ってくぞ。」

 梅宮にそう言われたので、ポケットに入っている携帯を取りだして画面をタップすると、携帯の液晶には先程の時間から三十分ほど経過している時刻が表示されていた。
 梅宮から差し出された手を桜は無視して、彼の服の袖を掴んで、送るだけでいいのかよ。と呟く。そんな桜の発言に梅宮はビクッと肩を揺らして彼の方を見ると暗闇でも分かるくらいに桜は茹でダコのように真っ赤になっていた。ああ、触れるだけのキスで我慢してやったのになぁ。と思いながらこちらの返答を待つようにまじまじと自分を見つめる桜の耳元でこう告げる。

煽ったのは、桜だからな。今日何されても、明日ぜっったい文句言うなよ?」

 ギラギラと獣のような瞳を宿した目の前の男に、桜は挑発するように笑って口を開いた。

言ってろ。」

 桜の煽る姿を見て、梅宮の脳内でプツンと何かが切れた音がした。それから桜は梅宮に急かされるように桜の家へと帰り、その日、梅宮が桜の家から出てくることは無かった。翌日、いつもより元気な梅宮と、対照的に声がガラガラで背中を擦りながら登校するふたりを見たとか見てないとか。

(君の願い事なら、星より早く叶えてあげるよ)



おわり