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匣舟
2024-06-18 20:20:11
7228文字
Public
WB
かんたんなねがいごと
流れ星が話題になった時に思いついたネタです。流れ星に三回同じ願い事を言ったら叶うって迷信を桜は昔はやってたけどそんなことないと周りの環境から悟ってしまって願い事なんかクソ喰らえって思ってそうだな…と思ってできたネタです。
願い事が叶わないと思っている桜の話。 うめさく
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かんたんなねがいごと
「ねぇ、桜。もうすぐ流れ星が見られるの知ってる?」
「
…
はあ?」
フウリンに来てから毎朝の日課でありつつあるポトスでのモーニングに来てことはから出されたサンドイッチを頬張っている桜に、彼が頼んだコーヒーを抽出している最中のことはが桜に会話を投げかけた。
サンドイッチを頬張っている最中だった桜はことはから投げかけられた会話が聞こえず、はあ?と返すがことははそんな桜も気にすることもなく、もうすぐね、流れ星が見られるのよ。ともう一度言った。
「
…
流れ星だあ?」
「そう、流れ星。ここらは高い建物なんて無いから綺麗に見られるのよ。」
アンタらが通ってる風鈴高校の屋上なんて絶対綺麗にみられるわよ。羨ましいわ。とコーヒーを抽出し終えたことはが告げると、桜はさっきまでことはに目線を向けていたのをやめて、サンドイッチに視線を戻した。
「知らねーし、興味ねぇ。」
本当に興味が無いのかサンドイッチを頬張る桜に、もう一度めげずに話題を振ることは。
「え〜勿体ないなあ、絶対綺麗なのに。流れ星にもお願いできるよ?」
”お願い“という言葉を告げた途端、桜はサンドイッチを頬張るのをやめて、独り言のようにぼそっと呟く。
「
…
どーでもいい。そんなモンで叶うならとっくに何万回も祈ってる。」
そんな桜の独り言のような呟きに、ことははそっか。と返した。ことはは桜の生い立ちを知らないけれど、彼の人生が今までどんなに壮絶だったなどまこち町に初めて来た時の桜を見ればわかる。
人から拒絶され、異質に見られてひとりで生きていくという選択肢しかなかった桜。
ずっとひとりで生きてきた彼は、自分のやりたいことを全部自分で叶えてきたからだ。孤独を強いられて生きていくために必死で頑張ってきた彼が、今更誰かに、何かに願うことなんてしないのは分かっていた。
「でも、願うことは悪いことじゃないと思うけどなあ。」
ことはがそう呟いてキッチンへと消えていったのを見た桜は、その返答に返事をしないままサンドイッチにかぶりついた。
ポトスで朝食を摂って学校に向かった桜は、何となく授業を受ける気にならなくて屋上へ上り、さらにハシゴを昇った所にある給水タンクが置かれている高台へと寝そべった。
ここからは学校全体を見渡せることもできるし、ことはのポトスがあるまこち町や、獅子頭連のシマであるオリなどのほかの街の風景を一望できる絶景スポットだ。ここは入学当初から桜のお気に入りのお昼寝スポットとして使用されており、一人になりたい時とかこうして授業を受ける気になれない時にいつもここに昇って昼寝をするのがルーティンになりつつあった。
入学してからいつも桜の隣には級長を支えようと副級長の楡井と蘇芳が居て、そのふたりが揃えば後から桐生や柘浦が来て、それで終わりかと思えばオレも!とでも言うようにだんだんと桜の周りには人が集まる。周りに人がいるのは変な気持ちだ。
ずっと周りから拒絶と排除を繰り返されてきた桜だから人が自分という存在に歩み寄ってくれること自体が初めてに近いので、要はどうすればいいのか分からないのである。
この屋上にある給水タンクが置かれている高台は人に囲まれることに慣れていない桜にとって唯一のひとりきりになれる場所だ。
別に、彼らに囲まれるのが嫌いなわけじゃないし、煩わしいなどと思ったことは無い。むしろこんな自分と関わってくれるのかとさえ思っている。
だけど、誰かとよりずっと一人でいる時間の方が長かった桜は自ずとひとりでいる時間が必要になってくる。誰にも邪魔されずに、ボーッとひとりでゆっくり過ごしたい気分の時が一定時間必要なのだ。
その場所にひとりで寝転んで青空を眺めていると、授業開始五分前のチャイムが鳴った。
「行かねーといけねーけどなあ
…
。」
そろそろクラスメイトが待っている教室へと向かわないといけないが、なんとなくあの空間に行く気になれなかった。決してクラスメイトたちが嫌になったとかじゃない。
最近の桜は、学校に行くことを密かに楽しみにしている節がある。それを当の本人は知らないが、いつも週の最後の学校の日になると心做しか悲しそうな桜が居るし、月曜日に学校に登校している時はなんだか嬉しそうな桜が居る。
そのことを本人に言ってしまったらはあ!?と言いながら警戒されてしまうし、その桜を見られなくなるのは嫌なのでみんな黙っているのだが。
ただ、今日はなんとなく一人になる時間が欲しいだけだ。ただそれだけ。桜は一つ伸びをしてどこからかやってきた睡魔に身を任せて寝ることにした。
桜の携帯がポコポコと鳴っている気がするが、マナーモードにして睡眠を妨げないようにした。多分教室に来ない桜を心配してクラスメイトたちがメッセージを送っているだけだから。案の定、桜の通知欄はクラスメイトのメッセージで埋め尽くされている。主に多いのはフリック入力が早い桐生と、ただ単に教室に来ない桜を心配している楡井を筆頭にメッセージが桜宛に届いている。段々と通知欄がクラスメイトで埋め尽くされていることも知らずに桜は寝る準備をせっせと始める。
「おやすみ
……
」
扉がキィーと音を立てて開いたことを知らずに、誰もいないはずの屋上で桜の独り言が呟かれた。そのまま桜は寝息を立て始めた。
桜の声が聞こえた方向へ誰かが給水塔が置かれているハシゴへと手を伸ばし登って桜のことを見るやいなやふはっ、と笑みをこぼす。
「
…
本当に猫みたいだなあ、おまえは。」
桜が起きないように慣れた手つきで桜の頭を撫でる男は、穏やかな顔で寝ている桜を見て独り言をこぼした。
「安心してくれるのはいい兆候かもしんないけどなあ
…
。流石に無防備だなあ。桜。」
そう呟いた男は自分が着ていた上着を桜に着せ、給水塔の梯子を降りたのだった。
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