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柚子子
2022-10-03 13:48:14
159251文字
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単発夢小説
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陀宰と忘れられてる幼馴染
サイトに掲載している陀宰夢です。
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08
◆◆◆
クリスマスが終われば、新学期になるまで特に誰と会うこともないだろう
――
と思っていた陀宰だったが、ヒヨリから「みんなで初詣とかどう?」と招集がかかり、急遽年明け早々に馴染みのメンバーと顔を合わせることとなった。
ここで言う『みんな』とは、異世界配信をともに乗り越えたメンバーを指す。従って今回、
名前
は不在だ。さすがにまだ
名前
と顔を合わせるのは気まずい。ヒヨリに『久し振りにみんなに会いたい』という以外の他意がないとは分かっていつつも、陀宰はほっと胸を撫でおろした。
人でごった返す神社でさっさと参詣を済ませると、ぞろぞろと近くの公園に場所を移した。暖冬だというのは嘘だったのかというほどの寒さだ。剥き出しの耳が、あまりの寒さに千切れそうなほど痛い。ヒヨリの顔も寒さで赤くなっており、そばにいる萬城がしきりと防寒をすすめている。
今日の参加メンバーはヒヨリに萬城、射落、明瀬、それに凝部と獲端と陀宰。ヒヨリの肩にはアステルも同伴している。残るふたりと未だ連絡をとれていないのは今更だ。
(
苗字
に言わせれば『界隈』のメンバーなわけだが)
ずいぶんと
長閑
のどか
な界隈だ。しみじみとそう思った。
移動した先の公園も、やはり芋洗い状態だった。神社内は数年前から屋台の出店が禁止になっており、それに伴い
出店
でみせ
のたぐいはすべて、神社の隣の公園に移動している。
広い園内では初詣に
託
かこつ
けて、年明け早々商売に精を出す屋台が軒を連ねている。それらをぶらぶら冷やかして、
各々
おのおの
目ぼしい食べ物を買い込んだ。
「それにしても、獲端が来るとは思わなかった」
陀宰が隣を歩く獲端に声を掛ける。買ったばかりのイカ焼きを食んだ獲端は、「あ?」と不機嫌そうに応答した。
「別に。正月なんて用事もねーし」
「人混みとか嫌いだと思ってた」
「嫌いだよ。すげー嫌い」
だったらなんで来たんだよ、とは思うものの、それを言うと獲端は確実に拗ねる。それに人数が集まった方がヒヨリが喜ぶわけで、陀宰としても、獲端に対しては何の文句もなかった。
「獲端、ほかに何か食いたいものはあるか?」
「なんで」
「いや、そういやクリスマスのとき、美味いケーキ食わせてもらったなと思って。その礼に」
「別にいい。凝部からなら礼を言われるべきだと思ってるがな」
「なになにー、僕がなんだってー?」
少し離れた場所で明瀬と射落と話していた凝部が、首だけ巡らせ、陀宰たちに振り向き叫ぶ。冬のあわい日差しをきらきらと銀糸で反射させた凝部は、妙に見る者の胸がざわつく笑顔を振りまいている。
「あいつ、めちゃくちゃ地獄耳だな
……
」
「メイちゃんそれも聞こえてるから」
「凝部はもうちょっとどうにかなんねーのかって話だよ」
「ケイちゃんは三つ子の魂百までって言葉知らない?」
「百までそのままとか終わってんな」
言葉でじゃれ合う凝部と獲端を陀宰が横目に見ていると、びゅっとひときわ強い寒風が吹き抜けた。あちこちで寒い寒いと悲鳴が聞こえ、陀宰も首を縮こまらせる。
指先が冷たくかじかんでいた。空いた手を上着のポケットの中にもぐりこませると、ふと指先に何か固いものがこつんと当たる。何かと思って取り出してみれば、クリスマスの日に
名前
からもらった限定パッケージのガムだった。
(そういえばあの日は気が動転していて、帰ってから上着のポケットを確認することすら忘れてたんだっけ)
取り出したガムを束の間ぼんやりと陀宰は眺めた。けれど直後、明瀬に「はぐれるぞー!」と声を掛けられて、はっと我にかえる。ポケットにガムをそのまま戻してから、陀宰は先を歩く仲間たちのもとへ駆け寄った。
個人主義なメンバーが多いとはいえ、一時に七人も集まっているのだから、まぎれもなく大所帯の大集団だ。ヒヨリの肩にはアステルまで載っている。移動したり食事の場所を探すだけでも一大事。仮設の飲食スペースに空きを見つけると、どうにかそこに腰を落ち着けた。
陀宰が買ってきたばかりのたこ焼きをつまんでいると、はす向かいに座ったヒヨリと目が合った。にこりと可憐に微笑まれ、心がほっと優しく和む。寒さでかじかむ指先まで温かくなったようで、新年早々得をした気分になる。
(冬休み中に瀬名の顔が見られてよかった)
陀宰がひとりひっそり喜んでいると、ヒヨリの隣を断固として死守する萬城にじろりと睨まれた。せっかくの幸福がみるみる萎む。げんなりした気分になって、陀宰はヒヨリから視線を外す。
そうしてお腹も落ち着いてきた頃、陀宰はいつになく楽しげに辺りを眺めている凝部を捕まえて、こっそりと彼を人の輪の外に連れ出した。できれば人に聞かれたくない話
――
特に、ヒヨリには絶対に聞かせたくない話だ。
「凝部、なあ、ちょっと」
上着をつまんで軽く引くと、凝部はほとんど抵抗することなく陀宰についてきた。こういうとき、凝部の察しのよさには舌を巻くのと同時に、ありがたさも感じる。
しかしながら、そこは凝部だった。ずるずると引き摺られるようなふりを細かく挟みながら「やだもうメイちゃん乱暴ー」などと哀れっぽい声を出し、陀宰をうんざりさせる。
「声がでかい。騒ぐな」
「それもう完全に暴漢のセリフ。おまわりさーん」
「呼ぶな!」
こめかみをひくつかせながら、陀宰は凝部を引きずった。黙ってついてきてくれれば感謝もするのに、凝部はわざわざその感謝を自分で台無しにしていく。そういうところが、凝部の凝部たるゆえんでもある。
「なんだい、クラスメイト同士で仲良く密談かな?」
「俺らの前じゃ話せないことかよ?」
射落と明瀬が目ざとく言うが、特に咎めるわけでもなさそうだった。凝部と陀宰は同じクラスだということもあり、つるんでいてもほとんど不審がられることはない。ヒヨリはヒヨリでアステルの質問攻めに答えるのに忙しく、ほかの面々もだいたいは似たり寄ったりの反応だ。
(基本的に協調性の薄いメンバーだよな)
特に協調性があってまとめ役にもなっていた、年長のふたりを今は欠いていた。射落は基本的には悪ノリする側だ。遊びの場でまで無理にまとめようとはしない。集団としてのまとまりはほとんどないと言える。
これ幸いと、陀宰は凝部を人混みの外まで一気に連れ出した。
ヒヨリたちから十分に距離をとってから、ようやく陀宰は凝部の上着を離した。第一関門を突破したことで気が抜けて、はーっと長く息を吐き出す。それほど遠くまで歩いてきたわけではないが、屋台の列から遠ざかるように歩いてきたこともあり、人影はかなりまばらになっていた。
凝部は特段訝しがることもなく、いつも通りの食えない笑みを浮かべて陀宰を見ている。
「なーに、メイちゃん内緒の話? ヒヨリちゃんたちを避けるってことは、
……
ハッ、分かった猥談だ?」
「違う!」
「正月早々、メイちゃんはお盛んで、いや結構結構」
「だから違うっつーの!」
陀宰が声を荒げても、
暖簾
のれん
に腕押し糠に釘、凝部にはまったく堪えた様子が見当たらない。陀宰はがくりと肩を落とした。寒風が吹き抜けて、陀宰の心をまた
挫
くじ
く。
こういう飄然とした態度こそが、凝部流の駆け引きや処世術だとは知っている。それでも巻き込まれる側の疲労感は尋常ではない。真面目な話をしようとした自分が、だんだん馬鹿らしくなってくる。
(クリスマスの晩のこと、一応凝部には話しておこうかと思ったんだが
……
)
あくまで陀宰の推測だが、凝部はおそらく
名前
の気持ちを知っているのだろう。それも多分、それなりに深いところまで事情を理解している。そうでなければ納得のいかない言動も、凝部にはちらほらと見られた。
となれば、陀宰の方からも一言は凝部に話を通しておくのが筋。
名前
がいないこの場ならば、話をするのにもうってつけだ
――
と、陀宰は思っていたのだが。
「あ、待ってメイちゃんが言いたいこと、僕が当ててあげる。
……
うーん、分かった。
名前
ちゃんに告白された?」
「
……
お前、なんで分かるんだよ」
自分から話題を切り出す前に、あっさりと本題を言い当てられてしまう。陀宰が眉間をつまんで顔を俯けると、凝部は「えっ、うそマジで?」と軽い調子で驚きをあらわした。
「絶対それだけはないって思って言ったのに。だって
名前
ちゃん、あんなに頑固に告白しないって言ってたじゃん。あっ、もしかしてメイちゃん、昔のこと思い出した?」
「ちょっと待て。凝部、お前どこからどこまで知ってるんだ
……
!?」
『思い出す』というワードは、
名前
と陀宰の過去の話を知っていなければ出てこない。そのうえ
名前
の気持ちを知っているとなれば、過去に陀宰たちが交わし、そして今では
反故
ほご
になった約束についてまで知っているということだろうか。
顔色を悪くする陀宰に、凝部はてへっとお茶目に舌出しウィンクまでつけて、止めを刺した。
「うーん。多分、メイちゃんが知ってることは大体全部知ってる、かなっ☆」
「最悪
……
」
がっくりと項垂れた陀宰の肩を、凝部が「まあまあ、そう落ち込みなさんな」と気安くぽんぽん叩いた。そう言われたところで、陀宰を項垂れさせているのは他でもない凝部だ。
「ていうかそんなに落ち込むことかなぁ。メイちゃんの立場で知られて困ることなんて、そんなのほとんどないと思うんだけど」
「そんなわけあるかよ」
「だって全部過去の話じゃん。今現在の問題なんて
名前
ちゃんの気持ちくらいで、それだって言ってみれば
名前
ちゃんの問題というか、メイちゃんには何の責任も非もない話だし。
名前
ちゃんの心情を慮ってっていうなら話は別だけど、そもそも僕、その
名前
ちゃんから全部聞いてる立場だよ?」
「
…………
」
そう言われると、たしかにそれもそうかという気持ちになってくる。だが、だからといっていきなり割り切れる問題でもない。陀宰はそこまであけすけな性格にはなれない。
打ちひしがれる陀宰を放置して、凝部は手近な木の幹に背をあずけた。真冬とあって葉はすべて枯れ落ちてしまっているが、園内にはそれでもいたるところに木々や草花が植えられている。
そうしてリラックスした体勢をとった凝部は「でもすごいね、メイちゃん」と、唐突に陀宰に褒め言葉をかけた。意味が分からず、陀宰は顔を上げて首を捻る。
「すごいって、何が」
「だって
名前
ちゃん、さっきも言ったけど、メイちゃんに気持ちを打ち明けないって、かなりしっかり決意キメちゃってたんだよ。その
名前
ちゃんに告白させるなんて、並大抵の衝撃では無理。一体何を
名前
ちゃんに言ったの?」
凝部に聞かれ、陀宰は口ごもった。さすがにクリスマスの晩のやりとりを、何から何まで凝部に明かすつもりはない。とはいえ凝部は
名前
と陀宰の過去の話も知っているようだったし、
名前
からもかなり色々と聞いているのだと
頻
しき
りににおわせてくる。
「今更隠し事しなくてもいいのに。メイちゃんが言わないなら、
名前
ちゃんから聞き出すだけだし。
名前
ちゃんは多分、ぺろっと話しちゃうだろうね。一番知られたくなかったところを、もう全部僕に知られちゃった後だから。あとはもう、何を話しても恥の上塗りにもなんないっていうか」
「
……
っ」
あの晩のことを
名前
の口から語りなおさせるのは、いくらなんでもさすがに酷だ。しかも相手は凝部。凝部は多分、
名前
相手にも容赦なく追求するだろう。自分の知りたいことは何が何でも暴きたい、凝部の強みはそこにある。
「どーすんの。話が終わりなら僕、もうヒヨリちゃんたちのとこ戻るけど」
「
……
分かった。話す」
「そういうことなら聞いてあげる」
結局、陀宰はあの晩のことをほとんどすべて、洗いざらいぶちまけた。そんなつもりはなかったのに、凝部の巧みな話術にすっかり乗せられて。
あまりにもすべてをぶちまけたために、話し終えるのに思った以上の時間がかかった。凝部は途中で自販機に飲み物を買いに行き、ヒヨリたちには所用でちょっと抜けるから、先に帰ってもらって構わないという連絡まで入れた。
買ったばかりのホットカフェオレの缶を、手のひらで転がしながら聞いていた凝部は、一通りの事情を聞き終えると「なるほどねぇ」とやけにしみじみした調子で呟いた。
「ていうか
名前
ちゃん、よっぽどメイちゃんのことが好きだったんだねー」
「
…………
」
「ていうか
名前
ちゃん、よっぽどメイちゃんのことが好きだったんだねー」
「二回言われなくても聞こえてるし知ってる!」
陀宰の
咆哮
ほうこう
を、凝部がくっくっくと笑って退ける。
「で? そんな健気で一途な
名前
ちゃんの告白を? メイちゃんは冷淡に切り捨て、フっちゃったわけだ? 十年来の
名前
ちゃんの思い出を
……
」
「なんで傷口抉るような言い方をする」
「あれ、メイちゃんに傷口なんかあるの? 傷口があるなら、それは
名前
ちゃんの方じゃないの?」
痛いところを鋭く突かれ、陀宰はぐっと押し黙った。凝部は飄飄として気にした様子もなく、「ま、僕には関係ないことだけどねー」と平然と
嘯
うそぶ
く。
そして落ちる、互いに腹の内を探り合うような沈黙。凝部はやはり平然としてカフェオレを飲んでいた。陀宰だけが、ただただ気まずい気持ちにさせられている。
(だが、凝部は間違ったことは言ってない)
だからこそ、返事のしようがなかった。
名前
からの告白を受け、陀宰は困惑したし驚きもしたが、傷ついたりはしていない。傷口などと言ったのは完全に失言で、もしもこの場に
名前
がいたのなら、さぞや彼女を傷つけていたことだろう。
凝部は情に薄いところがあるが、だからといって情を理解していないわけではない。むしろ理解しているからこそ、意図的に酷薄にもなれるのだ。
そして陀宰の見立てが正しければ、凝部は彼にしては意外なほど
――
それこそ凝部本人も自覚していないかもしれないくらい、
名前
を気にかけ、肩入れしている。
今更ながらに、凝部がいてよかったと思った。この話に限っては、
名前
はヒヨリには相談できないはずだ。だから凝部がいてくれて、
名前
の感情を適度に聞き流す人間がいてよかった。
(まあ、俺が言えることじゃないんだろうが
……
)
と、陀宰が自分の思考に自嘲ぎみな気分に陥ったところで。
「メイちゃん」
凝部がふいに陀宰を呼ぶ。ぼんやりと遠景に投げていた視線を凝部に向けた陀宰は、凝部のその顔つきにはっとした。凝部の顔にはおよそ普段の彼らしくもない、真面目な表情が貼り付いている。
視線は合わない。凝部が意図的に、陀宰から目を逸らしていた。
「俺はメイちゃんの覚悟も諦めの悪さも、向こうの世界で全部見てきたからさ。そういう意味では、なんだかんだいっても心の底から
名前
ちゃんの味方にはなれないんだよね。メイちゃんに幸せになってほしいかもーなんて、俺らしくないことを考えてるのも本当だし」
「凝部
……
」
そこで凝部が、ゆるりと陀宰に視線を向ける。そして凝部はおもむろに、にやりと人の悪そうな笑顔をつくり言った。
「あと、ぶっちゃけ誰が誰を選ぼうがどうでもよくない? っていうのもある。高校生で付き合っただのなんだの言ったって、別に結婚の約束するわけでもあるまいし。呆気なく別れる可能性ぜんぜんあるよね」
「台無しにしやがって」
真剣になって損した、と溜息を吐く陀宰に、凝部はわざとらしくあっはっはと笑う。ばしばしと陀宰の背を叩く腕は男子にしては細っこく、叩かれたところでちっとも痛くない。激励したりからかっているというよりは、背中を押されている。そんな感じだった。
「ま、いいんじゃない? メイちゃんだって指名されるのを待ってるだけじゃ退屈でしょ。たまには選ぶ側に回ってみれば?」
あまりにも無責任なアドバイスだ。けれど
名前
とのことでずっと気を張っていた陀宰には、その気楽さ心地よく、そして何よりありがたいものだった。
「異世界配信の最後の一回、俺は選ぶ側だったけどな」
「そういえばそうでした」
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