無窓居室
2024-05-16 00:24:12
4083文字
Public Pixv投稿企画
 

出会いと別れ(Pixiv執筆応援プロジェクト三月)

Pixiv執筆応援プロジェクト応募作。#出会い #別れ #新生活 で参加しました。
時間がなくて殴り書きになってしまったのですが、お題を見てアカネの青鬼ちゃんの新生活風景をどうしても文章にしたくなったので書きました。妄想だらけなので真面目に読まないで下さい。
アカネ→ブラックにアカネと父の関係を絡めて書くのが好きです。



 朝、アカネはキッチンで油のはぜる音で目を覚ました。何が焼けているのか香ばしい匂いがする。昨日は色々あってなかなか寝付けず、普段より目が覚めるのが遅くなってしまったようだ。
 キッチンから出て来た青鬼ちゃんが朝ご飯ができたと知らせてくれる。フライパンを使っているのを見てアカネは肩を竦めた。昨夜、ハムを焼こうとして焦がしてしまったのを青鬼ちゃんはきちんと綺麗にしておいてくれたらしい。自分の不器用さに落ち込んでいたことも、お見通しなのだろうか。
 居間の床に食器を並べて朝食が始まる。白いご飯と季節の野菜が入った温かい味噌汁に、アカネには目玉焼きが二つ、青鬼ちゃんは一つ。

「え、アタシは目が二つの鬼で青鬼ちゃんは一つ目鬼だからって?じゃあ百々目鬼に朝ご飯を作ったら大変なことになっちゃうな!」

 すっかり憂鬱を忘れたアカネは、快活な笑い声を上げた。



 それからしばらく経って生活も落ち着き始めた頃、アカネと青鬼ちゃんは人間界の優中部町へやって来た。人間達の家々が立ち並ぶ中に急にぽっかりと空いた区画。それが人の言葉で公園と呼ばれる場所であることすらアカネはまだ知らない。
 ここ数日で下調べをしてくれていた青鬼ちゃんが、よくブラックチャンネルの動画に映り込んでいる背景はここで間違いないだろうと案内してくれた場所だ。しかし探しているのはブラックだというのにいつの間にか人間達に取り囲まれてしまい、しかもその中の一人と諍いになってしまった。
 地獄や魔界ではこういう場合、実力で勝る方が全てにおいて正しい。当然アカネもその流儀で解決しようとした。投げ飛ばした人間を指の先で持ち上げ、ボコボコにしようとした時──

「それ以上やると、動画が削除されちゃいますよ」

 よく知った声が、初めて直接アカネの耳に流れ込んできた。ずっと探していたのに、同時にずっと自分の中にあった声。

「キミもYouTuberでしょう?」

 その声の主を見たときアカネが感じたことを、本人は認めようとしなかった。格闘系YouTuberとして名が通るようになっても、彼と友人になってからも、認めることはきっと無いだろう。
 地獄を出るときいつか会える予感のあったもう一人の自分が、ブラックの姿をしてそこに居た。一蓮托生だと思ってきた相棒の青鬼ちゃんとは違う意味での自分の半身を、ブラックの中に見たような気がした。
 今ここに居るアカネを作ったものが地獄と親から受け継いだ血であるなら、アカネの中でいつの間にか育っていたもう一人のアカネを作ったのは彼であり、彼の作った動画だった。それを全く預かり知らず、なぜこんな所で撮影しているのかなどと尋ねられることが無性にもどかしい。

「知り合いなの!?」
「いえ全然」
 
 ブラックと助手がよく連れている小柄な人間が何か叫んでいる。ブラックの撮影仲間ということは、この人間もまたアカネの〝親〟と呼ぶべき存在なのかもしれない。
 しかしアカネに、それら一気に押し寄せてきた複雑な感動を処理する余裕はなかった。

「アタシはアンタのことよく知ってるよ!」

 昂る心のままに叫ぶ。切実な声の響きは、初めて見る世界でどうにか息をしようとする嬰児の産声に似ていた。


 2024/04/30