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無窓居室
2024-03-31 18:00:03
6154文字
Public
Pixv投稿企画
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言えなかった言葉(Pixiv執筆応援プロジェクト二月)
Pixivの執筆応援プロジェクト応募作。
さとひめとさと→ひめの間くらい。
捏造だらけの中学生設定で、卒業式にひめへ告白できなかったさとしの話です。お題に沿って応募したので、普段の自作と少し雰囲気が違うかもしれません。
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「予備校の1限目って思ったより早いのね。ひめのレッスンと同じくらいかぁ」
「どうして俺がこの時間に出かけるって知ってたの?」
「昨日うちのママがスーパーで偶然さとしくんのママと会ってね。今日から春季講習でこのくらいの時刻に家を出るって聞いてきたの。ちょうど卒業式でのことが気になってたし、ひめのダンススクールも駅前だから、会えたらいいな、くらいだったんだけど
……
」
俺の一昨日の有り様、お母さん達の間でも噂になってたのかよ
……
。ひめちゃんと二人、駅への道を急ぎながら俺は泣きそうになった。
ただ早歩きしてるだけでも俺とひめちゃんは全然違う。重い参考書の詰まった鞄を抱えてへいこら歩く俺と、可愛いキーホルダーの付いたスポーツバッグを軽々と肩にかけて、鳥やチョウチョみたいに先へ先へと進んでいくひめちゃんと。
「じゃあ、これから毎朝一緒になれるってこと?」
「ごめん。火曜はボイストレーニング、木曜はお芝居の練習で、他の曜日はひめも学習塾なの。春休み明けは当然学校が始まるしね」
「あらら
…
」
がっくりきているうちに、もうじき駅前へ着いてしまう。大通りを渡るところで俺は決心して言った。
「俺さ、ちゃんと勉強するよ。ここなら頑張れるって学校に合格して、資格とかも取って、お父さんお母さんに心配や迷惑かけないようにする。でも、もう一つやりたい事があってさ」
「何?」
「コンテストに出した動画、落ちちゃったけど、俺のチャンネルで公開したらTV番組の制作会社の人が連絡くれたんだ。中学を卒業したらうちでアルバイトしてみないかって。しなくても仕事場を見に来ていいってさ」
「行くつもりなの?」
「もう行ったよ。すっごく勉強になったし良さそうな所だった。春休みが終わったら予備校のない日はシフト入れてもらう予定なんだ」
「ふぅん
……
どっちつかずにならないかなぁ」
「ならない!頑張るって!!そりゃ最初は倉庫の掃除とか、かかってくる電話取ってメモするとか、雑用しかさせてもらえないけど
…
」
疑わしそうな目をしてたひめちゃんが、不意にふっと微笑む。
「なら、いいんじゃない。ひめの最初のお仕事もそんな感じだったし」
「えっ、ひめちゃんが!?」
「スタッフさんが人気モデルさんのご機嫌取るのを手伝ったり、重い機材を運んだり
……
大人の仕事って大変なんだなって思ったわ」
「そういえば
…
」
小学生の頃にブラックチャンネルの企画で撮影した、ひめちゃんがモデルになったときの話だ。あれはブラックが契約でひめちゃんを大人にして
……
懐かしいなぁ。
「ブラックも、しばらく一緒に撮影できる機会が減るのは仕方ないって言ってくれたんだ。今は自分のことに集中した方がいいだろうって」
「そっか、いい友達だね。大事にしなきゃだめだよ」
「それが
…
俺がトンチンカンな努力してるところを撮影するのが目的みたい
……
」
「あはは!ブラックらしいじゃない」
楽しそうに笑うひめちゃんは、このときばかりは俺と同い年の普通の女の子に見えて、俺も精一杯の勇気を奮い起こすことができた。
「あのさ
…
高校に合格して、アルバイトで仕事覚えて、作った動画で賞を取れたらさ。俺、このままトップYouTuberを目指そうと思うんだ。三つのうちどれか一つでもできなかったら諦める。でも、夢のために頑張り続けることができて、いつかそれを叶えられたら
……
」
大通りの信号が青になり、どっと人が流れ出す。横断歩道を渡りきると予備校の看板が近づいてきた。憧れと現実、期待と落胆、未来と今が、見慣れた景色にぎゅうぎゅうに詰まって迫ってくる。
すぐ隣にいるひめちゃんに、今の俺は全然届かない。手を伸ばすチャンスを、今度こそ俺は掴み取れるんだろうか。その前に、何としてでももらわなくちゃね。チャンス。
「そのときは言わせてね、あのとき言えなかった──」
2024/03/31
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