【ミスライ】それは無くしたままでいい【シスライ】

他共通癖にて同じシチュネタ特別枠。王子様のキスでお姫様は目覚める(要約)なお話とあなたが抱くクッションポジになりたいお話二本立て。ミスライ&シスライ編。
キス関連がミスライ、クッションポジがシスライ。


上位互換




貢物は自国の名産品や自慢の品、そして相手が最も欲しがる物がいいと相場は決まっている。
聞き馴染みのない国名はメリニの近隣諸国でありながら記憶に残らないくらい小さな国からだったか。鉱脈や豊かな土地があまりなく、かと言って他のものが栄えているわけでもない取るに足らない弱々しい国が属国ならまだしも生意気にメリニの庇護下に入りたくライオスが好きそうな物を恭しく献上してきた。
その貢物を見た瞬間、玉座に座っているライオスの隣に佇むカブルーが顔には出していないもののあからさまに嫌悪感と警戒心を最大限にまで引き上げた。というか相手はライオスの事を舐めすぎだろっていう感情がライオスを挟んだ隣にいるぼくにまで伝わってくる。
「(まあ、ぼくも”多寡が”これだけでメリニの庇護下に入ろうだなんて烏滸がましいにも程があるって思ってるけど)」
余計な口を挟まない約束を無理くりヤアドと交わしたのと引き換えにライオスがどれだけ王としての役目を果たしているのか見定めに来たが拍子抜けもいいところだ。
こんな交渉、つかまり立ちを卒業した幼子だって駄目だと分かる。もっと一筋縄ではいかないやつや、難しい判断を下すのが良かったのに。これじゃあ、ライオスを王と認める判断材料があまりにも少な──。

「分かった。あなたの国を庇護しよう」
「ばっ!?」
「はあっ!?」

意見を仰がず独断したライオスにカブルーとぼくの驚愕に満ちた声が重なる。
まさかの展開にカブルーの人当たりのよい仮面が勢いよく剥がれ落ちる寸前、プロ根性というのだろうか即座に被り直してその場を収める文言を言い放つべく貢物を携えた従者に顔を向けるも、相手も相手で捨て身の覚悟だったようで言質取ったぞーっと顔に出したまま早口で感謝の言葉を告げ謁見の間から早々に立ち去ってしまった。
元気よく閉められた扉の音が謁見の間に響き渡るのを横目にライオスが意気揚々と残された貢物に歩み寄り殊更嬉しそうに抱き抱えた。

刹那、人当たりのよい仮面を遠投したカブルーと青筋を立てまくっているぼくがライオスに詰め寄る。

「あんたって人は如何して魔物に関して見境がないんですかっ!?」
「だってー、すっごく困ってるみたいだったしー」
「それがあちら側の作戦だって分かりませんかっ!? 同情を誘い甘い汁を啜る汚い奴らが使う常套手段ですよっ!!」
「だけど、ほらっ。これすっごいふかふかのふわふわで」
「シェイプシフターなんて珍しくもなんともないだろっ!! 寒い地域なら何処にだっている魔物じゃんっ!! お前ぼくの迷宮で狩ったときの尻尾特に気にせず破棄してたよなっ!?」
「あれは持ち帰りたかったけど、嵩張るから置いてっただけでー」
「だとしても複数本じゃなくて、たった一本で庇護下にいれるバカが何処にいる?!」

身長がぼく等より高いってのにシェイプシフターの尻尾を抱え上目遣いで宣うライオスにカブルーの血管が切れた音がした、気がした。ぼくも一本くらい切れたかもしれない。
そのあと、カブルーとヤアドがあの手この手を使い奮闘したお陰で追加の貢物を献上させる事でこの話は終わった。
ライオスが王に相応しいか見たいだけなのに、なにこれすっごい疲れる。よき国王陛下であられたデルガル様の爪の垢を煎じて飲ませたい。そもそも爪の垢だけで足りる? 足りないよな?
あとでヤアドに相談しようそうしよう。

そんなカブルーとヤアドの気苦労を知った日を境にライオスの機嫌は分かり易いくらい良くなっていった。

公の場を除き、執務室での公務や風呂に入る時まで文字通りシェイプシフターの尻尾と寝食を共にする姿に辟易する。
この前なんか楽しげに笑うファリンから「兄さんあの尻尾とても気に入っているみたいで夜寝かしつけて一緒に寝てるんだって」という心底どうでもいい話を聞いたカブルーの瞳から光が消え、ぼくはかなり引いた声を漏らしていた。

「尻尾を寝かしつけるとか意味が分からない、理解に苦しむ……

痛くなりつつある頭を押さえ、ライオスの執務室前に来たぼくは一応ノックをして返事を待つ。
程なくして扉一枚隔てた向こうから了承の声が聞こえ扉を開けた。いつもだったら書類業務で草臥れたライオスが出迎えるってのに、無駄に生き生きしているライオスがぼくを見るなり微笑んだ。
視線を逸らさず扉を閉め、手に持っていた紙をペラペラ揺らし見せる。

「新しい魔術書購入許可のハンコ押して」
「もちろん」

重厚感溢れる執務机越しに面と向かい合う。ぼくが差し出した紙を受け取り目を通し判を押すライオス。もう一度不備がないか確認してぼくに返してくれたけど、ライオスの膝の上を独占している毛の塊に目が行ってしまい、それが無性に腹立たしくてどうしようもなかった。

「シスル?」

ライオスがぼくを見て気に掛けて声を掛けている間も視界に入り込む忌々しさ。空に留まっているライオスの手を無視して、回り込み彼の膝の上から尻尾を取り上げ仮眠できるサイズのソファに向かって投げ飛ばした。
途端、吃驚するライオスの空いた膝の上にすかさずぼくが座る。違う驚嘆の声を上げたライオスがぼくを見下ろす気配に首だけ振り返った。

「えっと……?」

顔を顰め目で訴え続ければ、果たしてこれが正解だろうかと確かめつつライオスがぼくをやんわり抱き寄せ、恐る恐る頭を撫でる。眉間に寄っていた力を抜き、頭を撫でる大きな手に正解だとぼく自ら頭を押し当てた。
何も言わない答えないぼくを咎める事無く、ライオスはぼくを膝の上に乗せたまま書類業務を再開する。時折ぼくが後頭部でライオスの鎖骨付近をぐりぐりすれば、作業の手を止め彼の安心する手が頭を優しく撫でてくれた。危害を一切加える気のない手に撫でられるのは心地よい。
その日はライオスの書類業務が終わるまで膝の上を独占し、翌日もライオスがぼくを見かけるなりハグしてくれる機会がめいいっぱい増え、ぼくもぼくで特に用事が無いにも拘わらず執務室に入り浸るようになった。