【ミスライ】それは無くしたままでいい【シスライ】

他共通癖にて同じシチュネタ特別枠。王子様のキスでお姫様は目覚める(要約)なお話とあなたが抱くクッションポジになりたいお話二本立て。ミスライ&シスライ編。
キス関連がミスライ、クッションポジがシスライ。

それは無くしたままでいい




仰向けで見た見慣れない落ち着いた色合いの天井。なめらかで肌触りの良いシーツと沈み過ぎず硬すぎないベッドは貴族や王族御用達の質感に懐かしさを覚えた。
微かに開いた窓の隙間から流れ込む煌めく朝日を受けた風が隣で眠る男の淡い香りを舞い上がらせる。夜色に染まり欠けた視界が緩慢な動きで此方側に体を向け寝入っている端正な顔付きを至近距離で捉えた。
引く手あまたな寝心地の良い高級バジリスク羽毛枕使用者 ライオスの眠りの質は推して知るべし。対して弛緩した筋肉と最近付き始めた脂肪、骨と三拍子揃った弾力性のあるライオスの腕枕で寝ていたミスルンの眠りは浅かった、という事は無かった。
むしろ普段よりもよく眠れたまである。しかし、単純な寝心地だけで比べるのならば軍配は断然羽毛枕。頭全体を包み込む柔らかさか、はたまた寝返りを打つたび後頭部に腕の骨が当たる硬い感触が無いからか。
「(だが、不思議と此方の方が好ましい)」
靄が掛かり朧気だった思考が時間経過と共に晴れ渡る。借りたサイズ違いの寝間着とシーツが擦れあう音をさせミスルンが半身を起こし片膝を立てた。未だ寝入っているベッド所有者並びに寝室の主であるライオスの周りを取り囲む魔物関連の書物が乱雑に散らばっている光景にミスルンは昨晩の出来事を思い出す。
たしか──……



新しく発見した迷宮に赴き其処に住まう魔物を調査した話が予想以上に長引き、滲み出ている苛立ちををひた隠しアルカイックスマイルをかましているカブルーに「続きは明日にしましょうか」と提案され自室に戻るべく気落ちしたライオスの傍を通り過ぎようとした矢先、彼の厚みのあるしっかりした手が結構な力で手首を掴んできた。
足を止め椅子に腰かけ項垂れる相手の頭頂部を見下ろしていれば小さくぼそぼそ喋る声を耳が拾い、やおら体ごとメリニの国王に向き直し短く問い掛けた。

「どうした」
……ない」
「なんだ」
「頼むっ!! 話の続きが気になって今夜眠れそうにないから泊っていって!!」

鬼気迫る様相で懇願するライオスを一瞥後、一足先に応接室から出て行ったカブルーの見えない背中を目で追う。

「いいのか?」
「内密にお願いしたい……っ!!」

重く低い声量の抑えられた声。
閉ざされた応接室の扉を自由が利く方で指差す前にライオスがもう片方の手で私の人差し指ごと握る。
目尻の下がった目が大きく開き、琥珀色の瞳に宿る、揺るがない意思の裏側に隠しきれていない、

──カブルーにバレたら怒られるっ
──だけど、こんな生殺し状態で眠れるわけがないっ
──聞きたい聞きたいっ、色んな話をしたいっ
──魔物のことを語り合いたいっ

駄々洩れなライオスの心情。飢えと興奮に塗れ朱が走っていた頬が徐々に落ち着くにつれ両手を掴んでいた手の力も弱まっていった。あれだけ嬉々としていた感情が顔から失われていく。

……。いや、明日にしよう。俺の我儘であなたを引き止めてしまうのは大変申し訳ない。あなたにだって予定や事情があ──」
「私なら構わない」
「ほんとっ!? じゃ、じゃあ話の続きは俺の寝室でしようっ!! 寝間着は俺のを使……、多分大丈夫っ!!」

奈落の底に沈んだかと思いきや、瞬く間に飛び上がり春の訪れを祝わん勢いで目を輝かせる。
ある一定の信頼を置ける相手、または好奇心や興味果てに好意を抱く相手に限って見せる警戒心のない明け透けな態度。
思っていた以上に表情が豊かなのを知ったのは迷宮調査で確認した魔物関連の話をした時だった。
言葉の端々や表情から伝わる魔物が好きという思い。飽くなき魔物に対しての探求心もさることながら、生を謳歌していると言っても過言ではない姿は昏く澱んだ目になろうとも眩むほどに眩い。

「やっぱり俺の寝間着じゃブカブカになるな、ひとまず袖と裾を捲っておこう」
「動き易くなった」
「先にベッドに上がっててくれ。──で、夜更かしついでに前々から聞きたかった魔物の逸話が書かれている本をかき集めてくるっ」

応接室から寝室に移動する間、寝間着を用意する短い時間でさえライオスの口は止まらず魔物の事を語り続けた。
今も尚寝室兼自室に設けられた本棚から目当ての本を探し引き抜く手や指先、背中に至るまで表情を窺い知るのは出来ないが少なくとも心を躍らせているのは分かる。

「お待たせー」

四つん這いでベッド中央に移動している最中、後方から聞こえる弾む声。振り返った先、両手に本を抱えたライオスが満面の笑みで膝歩きをし近付いて来ていた。
胡坐を掻き目の前に本を並べ「どれからにしよう」と悩み選ぶライオスは朗らかな顔付きも相俟って余計幼く見える。じっくり悩んだ末、一冊の本を手に取るなりライオスがハッとして身を翻した。

……寝室全体の明かり点けっぱなしだと気付かれる」

誰とは言っていないが、双方頭の中に浮かんでいる人物は恐らく同一人物であろう。

「かと言って月明りだけじゃ暗くて読めないしなぁ。よし、ランタンを使おう」
「それには及ばない」

身を捩り四つん這いでベッド端へ移動しかけたライオスを呼び止め、寝室全体の明かりを消し、文字を目で追う分には問題ない小さな光源を数個頭上に揺蕩わせる。

「ありがとう、助かる」
「構わない」

それから軽く魔術の事について話し、魔物の事を幾つか話していた記憶が途中で不自然に途切れている──……



のまで大方思い出したものの終ぞ何故ライオスの腕枕で就寝していたのか分からず仕舞いだった。
ミスルンは寝ぐせの付いた銀糸の髪を手櫛で梳き、吸い込まれるように梳いていた手で同じく寝ぐせでぴょんぴょん跳ねている亜麻色の髪に指を通し側頭部を撫でた。
ハリがあり柔らかな髪を親指の腹と人差し指の横で挟みやわく揉んでいるだけで一日を過ごせる自信があるが、あまり長居していると諸々バレて面倒な事になる。
鼻で小さく嘆息したミスルンは、未だにライオスが寝ているのをいい事に触り心地のよい亜麻色の髪を唇でも確かめ耳元で囁いた。
「起きろライオス」
密やかな乾き熱のない円熟した艶麗ともいえる声音。されど、抑揚のないミスルンの落ち着き払った話し方が仇となった。ライオスの睫毛を震わせるどころか、何かいい夢を見ているらしく一言二言聞き取れない寝言を呟き表情筋を緩ませるばかり。
「起きないな」
顔を上げ細い指先でライオスの耳をなぞり反応を見たが、擽ったさで身を捩るだけで起きる気配が全くない。
起きないのであれば仕方ない。寧ろ好都合だと言わんばかりに、ミスルンは体をズラし先程まで頭を乗せていた腕枕のカバーを肘まで下ろした。
長袖の下から現れる長い腕。それを緩く持ち上げ肌を撫でれば分かる薄っすらと生えている色素の薄い体毛の触感。
肘の内側より少し上を親指の腹で撫で薄い唇を寄せた。唇から伝わる体温を緩く歯を立て味わう。欠けた視界でライオスが起きたかどうか盗み見る。
一瞬、口許を動かすも起きないと見るや血管の上を唇でなぞり手首の方へ這い上がる。浮かび上がっている筋に歯を掠め皮膚をやや強めに吸い離した。
もう起きても構わないくらい艶やかなリップ音を立てたミスルンがライオスの様子を窺う。
……まだか」
淡々と述べる割にミスルンの手は起こさぬようライオスの手を下ろし、彼の寝間着のボタンを上からひとつひとつ外していく。鳩尾付近まではだけさせ現れた分厚く肉感のある男の胸に目を細めた。
規則正しく上下に動き生きているのだと主張する丘陵。眠り続けているライオスを囲むように両手を付き、渇き飢える衝動に誘われたミスルンが曝け出された彼の胸に吸い赤い花を散らす。
手首の比ではない敏感な箇所を手首より強く吸った所為か、ようやく「ん~」と唸った後ライオスが重たげに瞼を開けた。
ぼやけている視界、目の前の不明慮な輪郭がはっきりするにつれライオスの琥珀色の瞳と頭がミスルンだと認識する。
「ミスルン? 嗚呼、もう朝か……。本片付けて、証拠隠さないと、ふわぁ
欠伸を噛み殺し起き上がるライオスに合わせ体を退かすミスルンに兎角疑問を抱かないライオスはいつの間にか開いている胸元さえ気にせず手を突っ込み肩を掻く始末。
その後、寝惚けた頭でミスルンと一緒に部屋を片付け着替えた彼を見送り無事証拠隠滅出来たと胸を撫で下ろすライオスだったが、朝食を取る際うっかり自分から口を滑らせてしまいカブルーからこっぴどく説教を受けたのだった。