【カミ東】のんきな寝顔

王子様のキスでお姫様は目覚める(要約)なお話とおねが抱くクッションポジになりたいショタのお話二本立て。🔪🍮編。


こっちの方がいいでしょ




「これ、すっげー抱き心地いいからカミキリにもやるよ」
唐突に渡された大家さんお墨付きの抱き枕。バイト先の人にテスターとして使い心地を聞かせてくれって言われたとかなんとか。それですっかりハマった大家さんが自腹で同じ色違いを購入して僕にもくれた。
僕より大きな抱き枕が玄関開けた先に現れた時は如何しようかと思ったけど、大家さんからの贈り物というだけで嬉しさと喜びが勝った。
貰ったその日の夜、試しに使って寝てみた。お布団の半分を占拠する大きすぎる抱き枕。確かに抱き心地は悪くない。でも、説明し難い物足りなさに僕はその夜だけで使うのを止めてしまった。
押し入れに二つ折りにして押し込むのも可哀想で、普段は畳んだお布団の上に抱き枕を乗せている。折角の貰い物、しかも大家さんからのだから無碍に扱いたくなかった。

──なのにっ。

今の僕は大家が絶賛する抱き枕をとても処分したくて堪らない。
週末に泊まりに来てくれる大家さんが納まりがいいのか、ずーっと抱き枕を抱っこして離さない。元より彼女自身が気に入った物なのだから当たり前と言えば当たり前の事。
だけど、隣に僕がいるのに抱き枕を抱っこし続ける大家さんに寂しさが募り、いつしかぎゅうっと抱き締められている抱き枕に嫉妬するまでに至った。
畳の上に横たわり頬杖をつきスマホを操作する手で抱き枕を抱えている大家さん。その自然な振る舞いを見るに恐らく普段から抱き枕を愛用しているのが窺える。
寝ていても、座っていても、歩く時でさえ離さない抱き枕。僕が貰ったのに僕以上に使っている大家さんは別に悪くない。全然悪くない。でも、少しだけ悪いかも……
「フンッ」
大家さんの足元から抱き枕を引っ張って引っこ抜き、今まで抱き枕が納まっていた隙間に僕は体を滑り込ませた。
何食わぬ顔なんて出来ない。不服な顔で大家さんと対峙する。
抱き枕が引っこ抜かれた時点で、大家さんの目がスマホじゃなくてやんわり僕を眺め、抱き枕になり代わる一部始終を見続けていた。心なしか見開いた大家さんの目が少しだけ逸らされたけど、すぐ戻って無言で僕の体に腕を回し仰向けに寝返った。
意図せず大家さんの上に乗っかる僕の体。お布団や抱き枕と違う乗り心地と柔らかさ、何より温もりに安心感を誘う。
……重くなイ?」
「全然」
大家さんが呼吸するのに合わせ浅く持ち上がり沈む僕の体。両手でスマホ持ち弄るのを上目遣いで見ていたら、視線に気付いた大家さんが目線だけで僕を見るなりスマホを畳の上に置き、僕の体を両手でガシッと抱き寄せついでに足まで巻き付け──。
「うりゃあ」
体を左右に揺らし始めた。悪戯っぽく笑う大家さんに僕もはしゃぎ笑う。些か揺れが激しい揺り籠はいつの間にか僕が飛行機になって飛んでいた。大家さんの足裏に乗っかって離陸する僕の手を掴みバランスを取る大家さん。不安定な態勢は呆気なく崩れ僕は大家さんの上に不時着すれば、濁り詰まった声が大家さんの口から抜けていった。
「さっき食べた昼飯吐きそー
力無く呻くけど、僕を体の上から退かすどころか頭を撫でてくれる。撫でてくれる手の気持ちよさに僕は目を眇め、彼女の胸元に顔を埋め小さな小さなお願い事を呟いた。

「僕がいる時、抱き枕ジャナくて僕の事抱き締メて」
「ん、分かった」

快く了承する言葉に気分を良くした僕は大家さんの事を抱き枕より優しくキツく抱き締めた。何ものにも代え難い感覚は愛おしさを運び僕の心の中をあたたかくする。
背中をポンポン擦ってくれる大家さんの優しい手に照れ臭くなって、思わず口に出しそうになる「子供扱いシなイで」の強がりを宥めて目を閉じた。何も話さなくても居心地が悪くない空気を肌で感じては命の音に耳をすませ微睡んでいった。
「私の方がカミキリさんの抱き枕になっちまったな」
トゲの無い柔らかな物言い。たはは、としょうがないなあって笑う緩い笑い声。
……大家サんは僕んだモン」
「へいへい」
大家さんはその日から僕を抱き寄せ、胡坐に収めるのが多くなった。
でも、完全に抱き枕の代わりではなくて僕を僕として構ってくれるようになった。なので抱き枕は隙あらば大家さんの近くに陣取っているけど基本僕の方が優先度が高いため大家さんのぬくもりを奪われずに済んでいる。
そして、いいのか悪いのか抱き枕が大家さんの近くにいるお陰で抱き枕に大家さんの香りが移って──、気付けば彼女がいない夜は抱き枕を抱きしめ眠る日が増えていた。