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君とワルツを 1

小さなヒースクリフとの邂逅。しばらく続きます。
メインストーリー6章の内容を含みますのでご注意ください。


 
 
 
  イシュメールの記録
 
 
 
 皆さん小さくなったヒースクリフさんに夢中で、誰も筆を執ろうとはしません。ですので、不本意ですが私が記録することにしました。

 今のヒースクリフさんは八歳から十歳くらいに見えます。額に怪我をしていましたが、ファウストさんの手当によって出血は収まりました。
 あの邸宅で過ごしたとは思えないほど薄汚れたシャツに、つま先の擦り切れた革靴を履いていました。もの自体は決して劣悪品ではなくむしろ比較的上等に見えるので、そのちぐはぐさがかえって気持ち悪く感じます。あまり手をかけてもらえなかったのでしょうか。……なんだか、人の過去を勝手に覗き見ているようで良い気分ではありませんね。
 それにしても案内人は、なぜ彼とあんな約束をしたんでしょうか。来た道を引き返すバスツアーなんて聞いたことがありません。方便だとしたら、目の前のヒースクリフさんが憐れでなりませんね。彼は案内人の言うことを信じ切っている様子です。……そういえば、ヒースクリフさんを見つけたのは案内人でしたね。一体何があったんでしょう?

 彼はいつもの――大人のヒースクリフさんからは想像できないほど大人しく、無口で表情の乏しい子供です。お得意の暴力性もすっかり鳴りを潜めています。
 ただ、彼の口の悪さは生まれつきなのでしょうね。たとえ出会い方が違ったとしても、ヒースクリフさんと私は上手くやれないように出来ているみたいです。ついさっき、大人げなく口喧嘩をしてしまいました。その傍らでイサンさんがにやついていたのが癪に障りましたが……

 すると驚いたことに、私との口喧嘩を終えたヒースクリフさんはダンテさんを呼び寄せて、告げ口を始めました。あのそばかす女が自分をいじめるのだ、と。
 反論しようにもあまりの理不尽さに言葉が出ませんでした。いじめるという表現が過剰なのは、先に記述したイサンさんの様子からも見て取れるはずです。子供という生き物はこれほどまでに主観的で、いくら理屈の通っていない持論ですらさも当然と言わんばかりに主張することができるのかと驚きもしました。

 ……その後、私はイサンさんに窘められながらダンテさんの出方を伺っていました。ダンテさんはヒースクリフさんの訴えを一通り聞き終えると困ったように肩をすくめて、なぜ嘘をつく必要があったのかと問いました。
 黙りこくるヒースクリフさんをダンテさんは抱き上げて、彼の頭を優しく撫で始めました。こんなことをしなくても誰も君を脅かさないし、君は私の興味を恣にする必要はない。けれどもしそうしたくなったのなら、ただ一言話がしたいと言えばいい。ダンテさんは確かにそう言いました。

 ヒースクリフさんがあの邸宅でどう過ごしていたかなんて私には関係ありませんし、知る由もありません。ただダンテさんの言葉に思うところがあったのか、ヒースクリフさんはしばらく黙りこくったあとダンテさんの腕を離れて、私へ謝罪しに来たんです。私は毒気を抜かれて、それまでの苛立ちをすっかり忘れてしまいました。

 この一連の流れを見ていた他の皆さんは、もうすっかりいじけてしまったヒースクリフさんを宥めようと必死です。
 果たしてこの記録に意味があるとは到底思えませんが、当事者である私が書くより第三者から見た様子を記録した方がよかったんじゃありませんか?