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河童の皿箱
2024-05-26 09:35:26
3909文字
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遊戯王:短め(2024年度)
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偶像
ヴァリウスが娑楽斎に絡まれるだけ
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荒れ果てた台地の上。闘士の舞台とも思える程、闘うには最適な場所。そこに龍と絵師は居るはずだ、と、青髪の闘士は手を引いて歩く。手を引かれる男の手には手土産がひとつ。全くあいつは、とため息をついては、乾いた風に吹かれる砂ぼこりを受けては払い、崖の上を目指す。
さて、その舞台の真下ともいえる場所までやってきた。先に闘士が崖をよじ登り、連れてきた男を
――
雅楽師のワゴンをぐいと引っ張りあげ、一息をつく。いやぁ、もう少し動きやすい格好にすればよかったなぁ。雅楽師がぼやく。というのも、雅楽師は仕事をひとつ終え、舞台衣装を着込んだままここに来てしまったのだ。ばさりはためく白い下襲と橙色の袍。裏地は青白く光り、足具でまとめられた足元すら、まあなんとも豪華。その上、まるで龍の鬣のような鬘までかぶっている。それに対して、ぴっちりとしたシャツとズボンにばっさり羽織った上着、あとはベルトの装飾程度と身軽な闘士は答える。いや、俺も先に言うべきだった。服、引っ掛けてないか。雅楽師は答える。あぁ、大丈夫そうだ。帰りは少し、荷物をまとめるべきだなぁ、と。
突如、台地の上を激しい風が吹き荒れる。何事かと闘士が雅楽師の肩を抑え込んで低く構えると、次の瞬間には龍の怒号とも言うべき咆哮が響き渡った。皮膚には電撃と錯覚するほどの熱量がビリビリと届き、あぁ、そうだ、これはあの龍の覇気だ。
な
……
なあ、何が起きとるんじゃ! 雅楽師が闘士に訊ねるが、闘士も心当たりがない。さっきまで闘り合ってる気配はなかった。なら、あの龍がここまで荒ぶる必要性はどこにもないはず。吹き荒ぶ砂嵐が収まり、ようやく目を開ければ、奇妙なことにまるで夜が訪れたかのように暗い。だが、鮮明に見える。台地に立っていたのは、そして咆哮の主は龍であった。
だが、その姿を見て闘士と雅楽師はぽかんと口を開けた。黒き龍の見事に鍛え上げられ、筋肉の隆起する体躯には、しなやかに連なる赤と青の鱗が袖を作り、ぶわり逆立つ鬣には勇猛な角が添えられ、腕を組んでの仁王立ち。どっしりとした腿には鮮やかな鰭がいくつも垂れ下がり、明らかに違う絢爛なる風貌に、闘士は気圧される。だがと闘士が一歩踏み出す前に、雅楽師は闘士を制止し、手土産をひとつ抱えながら、かつかつ歩いていった。
方や、華美に着こんだ男。方や、派手に飾られた龍。双方とも鬘や鬣を風に揺らしながら、徐々に距離を詰めていく。
いやぁ、すみませんでした。話は伺っております。うちのが世話になりました。
雅楽師が頭を下げて手土産を差し出すと、龍は頷いて受け取る。その背から、青い髪の絵師がぴょこりと飛び出る。あぁ、ワゴン、良いところに来てくれたな! ヴァリウスが着飾らせてくれたんだ! どうだ、似合うだろ! と、胸を張っては得意顔。その隣に立つ龍は絵師と雅楽師を見下ろしては、その気迫を保ったまま。
こら娑楽斎! あの、ほんとすんません。うちのが我儘言って
……
。
雅楽師が一喝し、また頭を下げれば、絵師はびっと背筋を伸ばし、罰が悪そうに頭を掻く。
……
あー、ヴァリウス。もしかして、嫌だった
……
のか? 絵師がしゅんと萎んで訊ねると、龍はしばらく黙り込み、そしてほんの少しだけ、首を横に振った。すると、また絵師の気勢は増していく。ほら、嫌じゃないって! だが、龍は唸るような声で言う。調子には乗るな、そのあたりにしておけ。その言葉にようやく絵師は大人しくなり、雅楽師も頭をあげ、遠くから様子を見ていた闘士もまた、そのそばまでやってきた。
よく来たな、ラゼン。龍は闘士を歓迎するも、ド派手に着飾らされた龍に、闘士はどう話すべきかと悩む。数秒ほど考え込み、闘士は言った。似合ってるぞ。龍は特に何も言わず、けれど深く頷いた。絵師と雅楽師がやいのやいのと言い合っている間、闘士はふと、龍の気迫の変化を感じ取った。弛まない程度に、緩んでいる。肩の力が、ほんのわずかに抜けている、様な。確かに絵師の熱量に押されてここに連れてきたのは自分だ。とはいえ、あれほど頑なに血の沸き立つ闘争を求めた龍が、これほど渇望の鳴りを潜めるとは思っていなかった。闘士は龍の静謐な様子に、何があったのだろうか、と。言い合う絵師と雅楽師を眺めると
……
案外、騒がしすぎて戸惑っているだけかもしれない。その仮説は、闘士にも理解できるものであった。
娑楽斎。龍は粛々と絵師に語り掛けた。暇なら気紛れになるものでも持って来い。ひとりではあまりにも長すぎる、と。絵師は笑う。あぁ、暇つぶしでも持ってまた来るからな。雅楽師は釘をさす。今度は忘れ物をせんようにな、と。
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