戌丸アット
2022-08-14 20:41:50
12077文字
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オメガバースな嘘ナギカン(途中)

途中です。ずっと書いてるのに完成しない😇
もし良ければ読んで貰えたり、楽しんでもらえらた幸いです!



カンタロウがオメガになった日。
その日、入院生活は少し窮屈さはあるものの順調にカンタロウの腹の傷が塞がり、退院ももうすぐだった頃。
リハビリにでも行こうかとベッドから起き上がった時
グニャリと世界が、視界が歪んでしまって流石のカンタロウも焦った。
比喩ではなく文字通りに歪んだのだから当然だろう。

「ケイさん大丈夫ですか!私の声がきこぇ!」
「ぅ、ぁっく、そっ!はら、がっ!」

駆けつけてくれた看護師の人に声をかけられるが、それどころではない。
ただシンプルに腹が痛い訳ではないとカンタロウは直感的に悟った。
何故なら明らかに辻斬りに斬られた傷跡が痛くて堪らないのだが。
それ以上に身体は燃えるように熱く、自分の身体が熱を持っているのがよく分かるだけならまだマシだが明らかに腹が重い。
あぁ、嫌だ。
死ぬのは嫌だが、それ以上に辻斬りを捕まえられなかった不甲斐ない自分を思い出して嫌になる。
あの日あの時に刺し違えてでも辻斬りを捕まえていれば、こんな悔しい気持ちにならなかったんじゃないか。
努力して警察官になったのに、たった一人の吸血鬼にただ斬られただけの被害者でしかない自分が悔しくて堪らないのだ。
まるでお前は正義感だけで無力なのだ、と言われたようで悔しかった。
そんな悔しさで溺れそうなカンタロウは、思わず拳を床に叩きつけようとしてベッドが跳ねて驚く。
病室へと戻った記憶どころか気を失った記憶すら一切ない。

「起きられましたか!良かった気分は大丈夫ですか?ケイさん」
「あはい、先生」

心配そうに声をかけてきたオメガ性特有の愛らしい男性医師に思わず、カンタロウはホッと息を吐いた。
目の前の医者は、吸血鬼だけでなく人からも好奇の目に晒されやすいオメガ性でありながらも、自分の経験を活かして外科以外にメンタルケアも得意とする外科医師だ。
カンタロウはベータ性と言われる第二の性の中でも第一の性である男女の基準と差はないのだが、不思議と担当医と話すと穏やかな気持ちになれた。
故に第二の性なんて常識はカンタロウにとって何処か教科書の中の話のように思っていた程だった。

「起きて早々にすいません、ケイさん様々な確認をしてみたのですが貴方の第二の性類がベータからオメガに変化しています」
「えっ変化、ですか?実は元々、とかではなく?」
「はい、その私も資料でしか見た事がないのですが、このレントゲンが分かりますか?こちらはオメガ協力者による資料なのですが、ケイさんのレントゲンと比較すると明らかに後天的位置に生殖器が形成されているんです」

オメガ性とは世界中で吸血鬼も人間も関係なく、対となるアルファ性と共に突如として出現した第二の性だ。
オメガ性と対とされやすいアルファ性は男女ともに容姿端麗で才能に溢れ、リーダーシップの高い人物も多い性別となっており、最たる特徴は男女関係なくアルファ性は女性あるいはオメガ男性を妊娠させられる、と言う特徴が有名だ。
そして同時にアルファとオメガの「番」と言う解明されていない強い繋がり、呪縛も同時に有名である。
オメガは発情期によりアルファを誘惑し、アルファも発情期でオメガを誘惑する事で自分の運命の番を見つけるのだそうだ。
ただ先程も言ったように第二の性に人間も吸血鬼も関係ない。
運命、と聞こえが良いが吸血鬼対策課のように緊急で法律が決められるほど第二の性による犯罪は増える一方なのだ。
だが同時に悪いことばかりでもない。
犯罪が増える一方で吸血鬼と人の間で明るい交流も増え、それがレジスタンスへと繋がっていた。

「以上が分かっている事です。こんな事、本当に事例は少ないですし起きていたとしても情報が出回っていないのかもしれません……不安にさせていたらごめんなさい」
「いえ……

先生に自分が強がっているとバレた、と直感的に分かった。
だが強がらなければカンタロウは今すぐ叫び出しそうだった。
辻斬りナギリを捕まえられない不甲斐なさや悔しさで押し潰されそうなのにオメガへ変化したなどと突然言われても分からない。
オメガへと変化した事でアルファ性が多い吸血鬼を追いかけにくい可能性は、あまりにもカンタロウに優しくない現実だった。

「本当は……本人に伝えるべきではないんです。でもケイさん、いえケイさんに限らず患者さん自身がきっと気付いてしまうと思い、お話させて頂きました」

丁寧に頭を下げる医者を見つめながらカンタロウは「気にしないで下さい、貴方のせいじゃない」と言えた自分に少し感動する。
かなり動揺している割には感謝を先生に伝えられて、ホッとしたのだ。
そして同時に、身体の異変を全てを受け止めたカンタロウは、辻斬りを捕まえるという成し遂げたい決意に支障はないと気合いを入れ直した。
オメガになってしまったのならば自分のオメガとしての価値を吸血鬼への囮にしてしまおうと思ったのだ。
勿論、危険すぎて今の未熟さでは論外な作戦だ。
ただ危険は承知の上だったが他の人間が怪我や襲われるよりもカンタロウにとっては些事に思えたのだ。
しかしカンタロウの身体はオメガとして、あまりにも不完全だった。

「な、なんだと?オメガなのに発情期は無い!?そんな事がありえるのか?」
「落ち着け、半田!しかし半田が言いたい事も分かる、抑制剤も必要ないのか?」
「はい、今のところ不要であります。しかし抑制剤は常時、所持するようにしています。薬や症状の詳細はこちらの書類に明記しているであります」

退治人として修業していたカンタロウが人の縁もあり、導き出した答えは吸血鬼対策課だった。
そんな吸対へと入り直したカンタロウは入隊した先の責任者であるヒナイチと半田へ説明と書類を渡すと案の定、驚かれた。
ペラペラと速読する二人を待つと次第に驚きから困惑したような表情へと変化していくのがカンタロウでも見ていて分かる。
二人が年若いせいだろうか?
少し素直すぎる二人のリアクションにカンタロウは心の中で、ひっそりと微笑ましく思う。
驚いて当然だな、自分自身も信じられなかったのだから。

「これは発情期が無くて身体は大丈夫なのか?」
「心配無用であります、今のところ問題はありません」

用意した資料を読んで真っ先にカンタロウを心配してくれるヒナイチにカンタロウ自身、温かな気持ちになった。
発情期は確かに他のアルファを強制的に発情させる事もあり、厄介だと言われがちだが逆に自然の摂理、身体は正常であるサインでもある。
そんな発情期がないことで身体が何処か悪いのではないか?とカンタロウ自身も考えはしたものの、辻斬りを追えるなら最終的に関係なかった。

「ヒナイチ副隊長、不安はあるが今、人手は幾らでも欲しい……入って貰うしかないんじゃないか?」
「っ!仕方ないか……私もアルファとしての薬は持ってるし気をつける……うん今は皆も居る、カンタロウも無理しないでくれ」
「はい!有難う御座います!改めてケイカンタロウこちらの隊でお世話になります!」

本当に何かあれば言うんだぞ?と心配してくれる二人へ感謝しながらもカンタロウ自身は発情期が無いことを全く気にしていなかった。
発情期があれば辻斬りを誘き出せるだろうか?と考えた事もあったが、辻斬りがアルファ性である保証はない。
そもそも吸血鬼は日光により負傷すると言う、その特殊な体質の為だろうか。
それとも吸血鬼の人口そのものが増え始めているせいなのか。
人よりもアルファの性を持つ者が吸血鬼には大変多く存在していたが、カンタロウには情報の一部として捜査対象である辻斬りがアルファか否かしか気にしていなかった。
もしアルファではなければ、別の方法で探し出すのみ。
あくまでもオメガと言う性はカンタロウにとって辻斬り捜査に活用するための要素でしかなかった。
それなのに現実というものは、何処までいってもままならない。

「辻斬りナギリ!貴様、自分が今なにをしているのか分かっているのか!?」
「ちっ、いちいち叫ぶな!大体なんの話だ?」
「ふざけるな!その様子、お前アルファの発情期が来ているんだろ!」
「は?なんだそれは」

意味が分からん。
カンタロウは怪訝な顔で告げられたナギリからの言葉に狭い路地裏など、お構いなしに怒鳴りたかった。
やはり探し求めていた辻斬りナギリは結局アルファであった訳だが。
だと言うのに肝心の本人にその自覚は無い。
あまつさえ現在も何処か苛立った様子にも関わらず妙な重圧を無自覚にカンタロウに向けている。
妙な重圧の正体をカンタロウは、すぐにアルファ特有の発情期特有の圧力であると理解できた。
何故なら退治人時代にオメガ性と気付いた吸血鬼や人間から散々と浴びせられ、そしてアッサリとカンタロウが断り、襲われれば撃退してきたモノだったからだ。
それよりも問題なのは今のナギリの状態が悪い事だ。
カンタロウはナギリに第二の性に対する知識が無いのだ、と悟って頭が痛くなる。
カンタロウが発情期が来ない体質だからこそ今は立っていられる。
しかし、だからこそ問題なのだ。
何故ならピンピンしている様子のカンタロウの言葉では説得力に欠けてしまい、深刻さが伝わらない。
発情期の来ないカンタロウですら分かるほどには、ナギリから溢れている気配は健全なオメガが近寄れば、即座に影響されて発情してしまう程である。
そんな状態でアルファが町を歩くのは悪影響でしかないとカンタロウですら気付いていた。

「アルファ用の抑制剤は無いだろうし、俺もアルファ用の薬は所持してな、ぃ……あ」
「ったく、今日は一体なんなんだ!……今日も殴り合いすると思っていたのに妙なことをうお!?突然、突進してくるな!」
「おい、辻斬り」
「な、なんだ警官」
「貴様、俺を噛んで番にしろ」
……は?つがい?」

本当に何の話だ?と目を見開くナギリに、人が決意して提案しているのに態度くらいは改めろ!と言いそうになってカンタロウは堪えた。
今はそれどころではないし、辻斬りはアルファやオメガに対しての知識がない。
なので最初から説明せねばならないのだと堪える。
まず番になる、とは結婚などと言う繋がりとは少し違う。
フリー同士のアルファとオメガのみにのみ発生する特別な関係であり、その作用は一度番になればお互いのどちらかが死ぬまで続くとされる。
不便そうに聞こえるが本来、発情期を迎えたアルファもオメガもフリーな状態では無差別にフェロモンを振り撒いてしまう。
だが番となったアルファとオメガが発情期に出すフェロモンは原理は兎も角、確実にお互いのパートナーのみが対象となる。
これは本人たちにとっても不用意に襲われる危険がなくなるというメリットにもなる。
無論、番を解除する方法はあるそうだが基本的にはパートナーだった相手への悪影響しかないので、滅多にない事例だ。
そんな番の仕組みを利用してに辻斬りと番になってしまえばカンタロウは発情期によるフェロモンで辻斬りを追いかけやすくなるし、周りへの被害も減るはずだと考えたのだ。
幸か不幸か、カンタロウは発情期が来ない。
だから辻斬りに遅れを取ることは無いだろうとカンタロウは考えたのだ。
そんな風に考えた作戦は様々な問題点があるのだが、そもそもの弊害がある。

「なんで俺がお前なんぞを噛まなきゃならないんだ!」
「俺も噛まれたい訳じゃない!」
「はぁぁあ!?貴様が言い出したんだろうが!?」
……俺だって別の良い案があるなら変えている、だが元々危険なのに更に今の貴様を野放しにすると他のオメガに悪影響なのは明白だ」
「ふん、そんなもの俺が知るか」

俺には関係ない!と説得してくるカンタロウを振り払い、無自覚なままフェロモンを流し続けるナギリの姿に思わず苛立ちが募る。
ナギリは自分が与える周りへの影響力が理解できていないのだ、と思わずにはいられないカンタロウは歯ぎしりを抑えられそうになかった。
発情期らしい症状を感じないカンタロウですら体温が上がって、身体が不自然に熱くなった程だ。
辻斬りの発情期によるフェロモンの影響は大きい。
ナギリ自身も勿論、自分の異変には気付いており違和感のある今の状態では血の刃がコントロール出来ないのではないかと不安だった。
だが、そんなことカンタロウに言える訳が無いとナギリは背を向けるしかない。
しかし路地裏で喧嘩していても自体が上手く行くわけないのだ。
ならばとカンタロウは自分にできる事を確実にしていくしかない。

「分かった、取引だ」
「断る、そんなに頷かせたいなら血でも寄越すんだな」
「分かった、なら俺の血を好きなだけ飲めば良い」
………なに?お前、自分が何を言ってるか分かってるのか!?」
「分かっている!俺だって素直に吸血され続けて死ぬつもりは無いし抵抗もするだろうが……これは取引だ、血が欲しいんだろ?」

違うか?と真っ直ぐに見据えながら聞いてみると案の定と言うべきか、ナギリも流石に動揺していた。
よりにもよって散々と追いかけ回してくるカンタロウは吸血鬼対策課で人間だ。
何よりナギリに対して強い敵意を向けてくる相手である。
そんな人間から「好きなだけ自分から吸血して構わない」と言う条件を聞いても当事者ではなくとも罠だと思って、信じないであろう。
それだけカンタロウからの提案は、あまりにもナギリに有利な内容だった。

……っくそ、分かった!そんなに噛まれたいなら噛んでやる!」
「だから噛まれたい訳じゃないと言ってるだろ!だが交渉成立だな。サッサと済ませるぞ」

しかしナギリはカンタロウと番うことを選んだ。
腹が減っていた、という言い訳はある。
何よりカンタロウの敵意など誰よりもナギリ自身が分かっているから罠じゃないか?と言う疑念も勿論あった。
だがカンタロウと言う男を知っているからこそ、ナギリが想像した方法の罠は使わないように思えたのだ。
勿論、辻斬りナギリである自分に対して罠を使わないとは思っていない。
ただそういった罠は、今回の取引には入っていないと思ったのだ。
少なくとも今のカンタロウは本当にアルファを止めたいだけなんだと、ナギリは理解できてしまった。
そんな結論に至ったナギリ自身、ヤケクソ気味にカンタロウの腕を掴んで手首を引っ張り出した瞬間。
早速カンタロウに怒られた。

「おい、適当に掴んで噛もうとするな!何処を噛むつもりだ?うなじを噛め!」
「場所まで指定あるのかっ!?」
「ある、俺も不本意だが番と言うものは、うなじでなければ成立しないらしい」
「らしいってお前もあやふやとはどういう事だ、もしかして知りもしないのに提案してきたのか馬鹿警官」
「なっ!?当たり前だろう、番になるなんて実質的には一生に一度だぞ?経験なんてあるわけ無い」
……は?一生に一度?」

正確には人間のオメガは一生に一度だろうな、といつもの表情で説明するカンタロウにナギリは固まる。
今、コイツは平気な顔でなんと言ったのか?と問わずにはいられない。
そんなに重大な契約をアルファ特有の発情期を抑える為と言う理由だけで結ぼうとしているのだと気付いて、ナギリは愕然とした。
一生に一度の契約であるのはアルファとオメガにとっては平等に等しい縛りだ。
だからといって今まで触れることのなかったナギリとしては、ややこしい事に巻き込まれたんだな位の感覚だ。
カンタロウが何度も説明してくる発情期とやらに困った事は一度もないからだろう。
故にナギリは目の前の爆音男が、アッサリと自分の一生に一度を辻斬りである自分に使うと自ら提案してきた事実にナギリは頭が痛くなった。
正気の沙汰とは思えなかったのだ。

「はぁ、そんなに気になるなら分かりやすい内容の冊子があれば持って来てやるから番となる契約をサッサと済ませろ」
……噛めば一生、お前と番とかいうものになるのか?」
「むっ………あぁそうなるな。一応、アルファである貴様からならば解除は可能だった筈だが少なくとも発情期の間は協力しろ!これは人だけじゃなく吸血鬼の為でも、は大げさか……少なくとも身の回りに居るオメガの為だ」
「もし……もし番を解除したらお前はどうなる」
「俺?なんでそこで俺が…………解除した場合は俺も詳しくはない。少なくとも早々に誰かと番になれる可能性はないだろうな……もう質問はないか?」

それより質問してくるが協力するのか?しないならば力尽くでも番の契約をさせるぞ!と警官として、どうなんだ?と思うような問題発言をしてくる。
そんなカンタロウとは違い、ナギリは意外にも無表情の下でグルグルと考えていた。
話す内容は些か褒められたものではないがナギリからすればカンタロウと面と向かって刃を交えずに、素直に路地裏で二人で話している。
そんな状況こそ内心、一番驚いていた。
吸血鬼と人間の殆どが出会えば襲うか、迎撃するか。
そんな殺伐とした出来事が大半で、ゆっくり話している吸血鬼と人間の方が稀である。
何よりナギリとカンタロウは、加害者と被害者と言う関係性もあって他の面子以上に毎度飽きもせずに戦闘する事の方が多かった。
だから多分きっと恐らく、これはそんな偶々な状況が珍しいからだ。そう、ちょっと普段と違うからだ。
そんな風にナギリは自分の中の昂ぶりに言い訳をした。

「お前のうなじ、噛めば良いんだな?」
「なんだ?番になる気になったのか、なら早く済ませよう。血も約束通り飲めば良い、抵抗は保証しないがな」
ふん、好きにしろ。俺も好きにする」

そんなナギリの言葉にそれで良い、とは流石のカンタロウも口に出来なかった。
だが返事の代わりにと、カンタロウはすぐにナギリに背を向け、ネクタイを緩めるとワイシャツの首元のボタンを外して緩めた。
その直後スルリと肩に手を添えられたので大人しく頭を少し下げて噛みやすさを意識する。
意図的にうなじを見せれば、後はナギリに噛んでもらうだけだ。
しかし思っていたよりも直ぐに噛まれた痛みは来ないのでカンタロウは困惑した。
早く噛んで終わりにしたい。

「どうした?噛まないのか」
「いや、噛むが!その、お前、少しは躊躇いをだな
「躊躇い?俺が提案したのに躊躇うなんてする訳ないだろう、しかし噛まないなら仕方ない」

番うことを納得しているとはいえ一切の躊躇いがないカンタロウの様子に、流石のナギリも狼狽える。
即決してからの行動力があり過ぎるだろうと。
しかし当のカンタロウは、ナギリの戸惑いが分からず、男の首だから噛みにくいのか?と的外れな事を考えていた。
取引で噛むのだから仕方ないか、と眉を潜めて妥協したカンタロウは制服の上着のボタンも少し外すと軽く肩から制服を脱いで、二の腕まで下ろす。
もしかしたら制服の襟元が邪魔なのかもしれないと思ったのだ。

「これでどうだ?サッサと済ませ、っ?」

ただナギリの様子を確認しようと振り返ろうとしただけだ。
けれど振り返ろうとした直後に後頭部を勢いよく掴まれ、あわや抵抗しそうになる。
そんなカンタロウの葛藤など知らないかのようにナギリはすぐに舌でうなじを確認するように舐めながら両腕で抱き締めるように抑えてきた。

「くそっ、力を緩めろっ!」
「うるはぃ」
「なっ!?」

舌足らずだが、ナギリの言葉にカチンと来る。
ナギリの力によりギシギシと自分の骨が軋む音が聞こえてきそうだ。
カンタロウは抵抗を自分から提案した手前、我慢するつもりなのだが。
条件反射からか、うなじからナギリの舌の感覚と吐息を拾ってしまい思わず身を固くしてしまう。
もし抵抗するとしても今ではない、と理解しているが本能が危機を感じてならない。
そんな風にナギリからの拘束を我慢する為、自分に言い聞かせるカンタロウのうなじをナギリは相変わらず口で軽く肌を食む。
唇で首の血管が浮き出た部分をなぞられ、ゾワゾワする感覚に肩が浮く。
サッサと噛んで済ませて欲しいと思った瞬間、鋭利な異物が首の皮膚をプツリと貫くのが分かる。

「っぐぅ!」

意外にも痛みが無いことへの動揺と慣れない感覚に思わずカンタロウも息を呑む。
無遠慮に肉の抵抗を掻き分けて入り込む感覚に抵抗したいと言う気持ちに相反するように、ゆっくりと自分の身体から力が抜けていくのが分かる。
と同時に脳裏にサイレンが鳴り響き、直感する。
かなりマズイ。早く抜け出さなければ抵抗出来なくなる。
そんな悔しい事があるか。それではあの日と同じになる。
脳裏の片隅にじんわりと広がる多幸感を、悔しさで握り潰して己を叱咤したカンタロウは喉を震わせて怒鳴る。

「ぅ、ぁんぐぅっ!く、そっっ!離せっ!も、ぉ、終わったろ!」
「イヤだ」
「なっ!?い、イヤだと!?っひぅ、ぁあ!?」

思わず口を抑えようとしてナギリに抱き締められているせいで抑えられず、なんとか苦々しい気持ちで自分の肩を噛む。
しかしカンタロウが身じろいだ事が気に食わないらしいナギリは小さく舌打ちをしたかと思うと、牙を首筋の皮膚に引っ掛けてくるように甘噛みしてくる。
何より一番カンタロウが眉を顰めたのが、ナギリとの契約を伝えてくるかのようにうなじに開けられた歯型を舐めてくる事だろう。
ナギリの舌は丁寧に歯型だと分かるほどに、カンタロウのうなじにくっきりとしたヘコみを教えてくる。
その舌がヘコみをなぞる度に、腰が重くなりピクピクと内腿が震える感覚はカンタロウを動揺させるには充分だった。
もはや意地だけでカンタロウは踏ん張っている。

「ふっ、ぅ、んっ!は、ぁ!はな、せっ!」
「なら抵抗すれば良い」
「なっ!?貴様、血が欲しくないのか!?」
「ん?あぁ、そういえば飲んで良いんだったか?」
「へ、っぁ?」

思いきり首筋を噛まれたのは、なんとか分かった。
だが、その直後にプツンと頭の何処かで重い音がしてカンタロウは目の前がチカチカする感覚と、見知らぬ身体の異変に足が竦む。
あぁ、あんなに意地を張ったのに最後の最後で踏ん張れなかった事だけは理解できる。

「っ?ぁ、は、ぁ……
「のわっ!?俺は、何を……じゃない!お、おい!警官!!!」

なんで。
なんでそんなに必死に呼ぶんだ、と聞こうとした。
が結局、電源が落ちたように力の入らない身体は、ぼんやりとした重い熱を溜め込みながらカンタロウを眠りへと沈ませていく。

「おい!っお前が倒れてどうするんだ、カンタロウ!」

俺の名前、知ってたのか。
そんなシンプルな疑問を思い浮かべて気絶したのがカンタロウが覚えている最後の記憶だった。