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豆炭々炬燵
4921文字
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ダンジョン飯
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【ミスライ】葡萄風信子
ミスルンとライオスで悪食王と両耳が欠け落ちているエルフがお酒を嗜むお話。お題箱リクエスト。
※それっぽい雰囲気手前で終わります。
前っぽいの→
https://privatter.me/page/663b6a2742330
こっそり裏設定。実は前回ミスルンにしか分からないくらい微量な自身の魔力をライオスの唇を撫でた時マーキングしたのでミスルンには居場所が丸分かりという。
1
2
少しだけ開けられた窓の隙間から入り込む湿り気のない心地よい夜風。カーテンのドレスを慎ましやかに靡かせる強さしかない風がミスルンの頬を撫ぜる。
深い眠りの底に落ちていたのであれば精々寝返りを打つ程度で終わるも、深度が浅いタイミングに重なってしまい眠りの底から意識が浮上した。微かに睫毛を震わせ然程重くない瞼を開けるなり、ゆるり上半身を起こし夜風と踊るカーテンを何んとなしに真夜中を掬い上げた隻眼で眺める。
明かりのない部屋に差し込む細長い月明りが不規則に吹き込む夜風で侵略と撤退をくり返す。その余波で机に置かれている新しく見付けた迷宮調査での結果を記した報告書の幾枚かが飛び立とうとしていた。
とかく慌てず掛布をズラしベッドから下りたミスルンが報告書の離陸を阻止するべく窓に歩み寄る。暗闇に慣れ切った目は月明りだけでも十分すぎるくらい明るく、逆に明かりを点ければ目が眩んでしまう。
カタン。開けていた窓を閉めた途端、離陸を諦めた書類が大人しくなり部屋も暗さを取り戻した。
さてはて。起床時間にはまだ早い眠気が消えかかっているがもうひと眠りするか、起きてしまったついで調査した結果内容の捕捉を書き足す作業をしようか。
殆ど覚醒しているミスルンの思考が二者択一しようとした矢先、他の選択肢が彼の頭蓋奥に琥珀色の小さな火花となって弾け飛ぶ。
「
………
」
起伏の少ないミスルンの瞳が見えない何かを追うように動き、いつ何時有事の際が起ころうとも即対応可能な動き易い恰好で就寝しているので別段着替えずにミスルンは自室の扉を開けた。
他に寝ている者達を起こさぬよう鳴いた扉だったが、「おや? お早いおかえりで。あ、違う? いってらっしゃいませ」と忙しなく数回鳴いた後部屋主を見送った。
何てことは無い。ミスルンの脳裏に過るパッタドルの「夜は冷えるので寝間着で出掛ける時は必ず上着を羽織ってから出歩いてください」という彼女の約束を思い出し上着を取りに戻ったからである。
足音を消し歩く速度は無意識のうちに速くなり、前方ではなくやや天井付近を眺める視線は一点から逸らされず、廊下の曲がり角や階段を駆け上がっても見詰める場所は変わりやしなかった。
息切れ無しで目的の場所に辿り着いたミスルンの真夜中を掬い上げた瞳に夜空に煌々と浮かぶ月ではない亜麻色が入り込む。その亜麻色は自分以外の気配に気づき、柔和な笑みを向け軽く手を肩付近まで上げた。
何も遮るものがない塔の天辺。満天の星空の下、この国の王に成り行きでなった男──、ライオスがひとり静かに酒を飲んでいた。何も敷かず石畳の上に片膝を立て座る様は王の威厳や着飾った姿から程遠く彼本来の姿ともいえる。
色素の薄い頬が赤み掛かっているのからしてアルコールがそこそこ回っているのは目に見えて明らかだった。
ライオスの傍まで歩み寄ったミスルンが無言で彼を観察していると、ライオスの手がここに座ってと自分の隣をトントン叩くのでミスルンは素直に従い腰を下ろした。
それに気を良くしたのか、何も喋らないミスルンを兎角気にせずライオスが語り始めた。
「今日は以前からずっといい落としどころがないか探り合っていた話がようやく一段落したんだ。そしたら張り詰めていた緊張が切れたらしく、ドっと疲れが押し寄せてくるのはまだ良かったがその後変に気が昂って全然寝れなくなって。たまの気分転換に酒を飲んでみたが、つくづく俺はひとりで酒を飲むのがあまり好きじゃないって分かったところさ」
コップに注がず直接口を付け飲んでいた酒瓶を見せ「情けないだろ」と心なしか自虐的に嗤うライオスの手元からまだ殆ど中身が残っている酒瓶を掻っ攫ったミスルンが徐に口を付け煽った。想定外の展開にライオスの琥珀色の瞳が上下に動くミスルンの喉元を凝視する。
瓶から流れる酒が舌の上を撫ぜ、喉を微かに焼き、胃の底に数回分落ちる感覚を確かめ酒瓶から口を離した。
「鼻から抜ける深みのある甘い艶美な香り、舌から喉、胃に落ちてもなお重厚感が損なわれず、渋味酸味の割合も申し分ない。上等な酒だ」
「そうなのか? うーん、適当に厨房から拝借してきたやつだから俺には違いがさっぱり
……
」
「今後各国要人との会食の機会は更に増えるだろう。今のうちに舌を慣らさせるのもひとつの手だ」
それもそうか。小さな声で呟くライオスが、それじゃあ自分はこの辺でと云わんばかりに腰を上げかけたのをミスルンがやんわり手首を掴み阻止した。引き留められた理由が分からずライオスが見下ろしていれば、掴んでいない方の手で持っている酒瓶の口をミスルンが差し出した。
「まだ酒は残っている」
中腰で固定されたライオスの顔に分かり易いくらいに書かれている「ここに来たのはひとりになりたかったからだろうしこれ以上邪魔しては悪い」「だけど、実際のところ迷宮調査での魔物関連の話を聞きたい」葛藤塗れの百面相をかましている姿を見上げていたミスルンが抑揚のない声音で疑問を口にする。
「ひとり酒じゃなければいいのだろう?」
気を遣わせてしまった
…
、と申し訳なく頬を掻いたのも束の間、隠しきれない興奮状態でミスルンの隣にどっかりライオスが腰を下ろした。遠くへ旅に出た隙間という概念。触れ合った箇所の熱が混じり合う感覚が夜風で冷えた知らず強張った身体を和らげる。
早口でミスルンが調査に赴いた迷宮で遭遇したであろう魔物関連の質問や推測を喋りはじめるライオスの熱量は凄まじい。並大抵の者ならその勢いで飛ばされるの請け合いだが、ミスルンは飛ばされる事なく受け止めていた。
アルコールによる紅潮ではない頬の火照りがライオスの色素の薄い肌を染めあげる。本当に心の底から魔物が好きなのだと如実に物語っている姿を眺めつつ、くぴりとミスルンが酒で喉を潤した。
二人で一本の酒を大体同じ分量で交互に飲み合い、有意義な魔物の話が出来て楽しいなあ、なんてアルコールも入り浮遊感に似た心地よさに酔っていたライオスの酔いが俄かに醒め始めた。
途中から飲む量が明らかにミスルンの方が増えたのもさることながら、まあまあ残っている酒を一気飲みした時には流石のライオスも止めに入ったくらいだった。飲んだ限り酒の度数はそこまで低くない、むしろかなり高い方である。それを最後の一滴まで一気飲みしたミスルンを止める事が出来なかったライオスの口から気の抜けた声が長い尾を伸ばし消えていった。
きゅぽん。音を立て酒瓶から口を離したミスルンが空になった瓶を静かに置いた。硬いもの同士のかち合う音が夜に染みこんでいく。
空に浮かぶ月を無言で見上げているミスルンの横顔を心配そうにライオスが覗き込むのに合わせ、感情表現の乏しい隻眼と端正な顔付が時間差でライオスに向けられた。透き通る肌の色は普段と変わらない上に黒い瞳の焦点は合っている。
「大丈夫か」
念のためライオスが声掛けをするも返事はない。一応顔の前で手を振ってみようと手を翳した瞬間、勢いよくライオスの手をミスルンが視線を逸らさずに掴む。反射的に肩を跳ね上げるライオスを気にも留めず、細く洗練された指先が間接の太く掌が大きいライオスの手を確かめるように触っていった。
「剣士らしい手だ。余計な力を入れず力任せに振るわず、手に馴染むほど剣を扱えるまでに鍛えた、いい手だ」
まさかのベタ褒め。思わず照れ臭そうに自身の後頭部を擦るライオスを余所にミスルンは彼の手を触り揉む。
巧く剣を扱えるまで何度もでき潰れたであろう肉刺で分厚くなった皮膚を撫で、筋張った手を揉んでいた指先と手を今度はライオスの太腿に触れる。
「だが、最近鍛錬を怠っているな。筋肉がやや衰え始めている」
緩んでいる大腿四頭筋を部位ごとに掴み揉み評価するミスルンにライオスがピシリと止まり。
「無駄な肉も付き始めている」
極めつけは少々むちっとし始めている下腹部を上着越しに摘ままれ完全に沈黙した。
ライオスが無言を貫いている間も、ミスルンは彼の身体を触り確かめ情け容赦なく評価を下していった。
「鍛錬に回す体力と時間がなく
……
」
目を固く瞑り喉奥から振り絞ったライオスの声音。決して同情を誘っているわけではない。もしかしたら、無意識のうちに誘っていたかもしれないが、ミスルンの放った一言にライオスは更なる渋い声で肯定する他なかった。
「王たるもの最低限自分の身を自分で護る力が無ければ今後困るだろう」
「ごもっともっ!!」
言い訳を一切しない。されど、自分に対して若干許せない部分もあるためライオスの眉根が顰められる。
程よく肉の付いた鍛えられた下腹部を撫でている手から伝わる腹の音にミスルンの隻眼が虚空を見遣り小さく頷いた。存外揉み甲斐のある腹部から手を離し、徐に立ち上がっては項垂れているライオスを見下ろした。
「立て」
二人の間に流れる夜風がミスルンの流麗でウェーブの掛かった髪を揺らし駆け抜ける。
凛とした声色に誘われたライオスの顔が彼を見上げた。月光に煌めく銀髪、夜空より昏い瞳に映り込む目を少しばかり見開いている姿を呆然と眺めていれば、ミスルンの唇が先程と同じ動きをする。
それをまた聞き取れなかったライオスが目を瞬かさせる姿にミスルンの声の音程が一段階下がった。
「聞こえなかったか、立て。私が鍛えてやる」
有無を言わせない威圧感に思わず立ち上がってしまったが、高速で頭の中を駆け巡る如何にも厳しそうな鍛錬を課すミスルンとそれを息も絶え絶えにやる自分の映像にライオスの顔からサーッと血の気が引いていく。
身長差であれば断然ライオスの方が高いというのに、ライオスの視界にはすわゴーレムかと見紛う程大きく見えるミスルンの姿に半歩後退った。
「逃げ、
…
な──
……
」
及び腰になったライオスへ向かい投げ掛けた言葉はミスルン自身の揺れ幅が大きくなる身体に引っ張られ消えていき、前のめりで倒れ始めた彼の身体をライオスが受け止めた。
「寝てる」
穏やかな寝息。弛緩した身体。瞼裏に完全に隠れた両眼。
流石に寝入ったミスルンをこの場に置いていくわけにもいかないので、小柄な彼を背負ったライオスは飲み終わった酒瓶を回収するのを忘れずに拾い上げ、うろ覚えの記憶を頼りに無事城で用意している部屋に送り届けたのだった。
ミスルンをベッドに寝かしつつ、ライオスは内心「あー良かった。これで鍛錬の話は白紙だ」と胸をなでおろし部屋を後にする。
人気の少ない廊下を歩いているうちにやって来た眠気に欠伸をして重たくなり出した瞼をライオスが擦る。
明日は久々に予定があまり入っていない日なので少しばかり寝坊しても大丈夫。
──などと、甘い考えは寝心地の良いベッドの上で目覚めた際、自分の上に膝立ちで跨るミスルンの真顔を仰ぎ見て吹っ飛んで行ってしまった。
「起きたか」
いっそ見なかった事にしたいライオスが掛布を頭で被りたくても、しっかり固定されてしまい動かす事は叶わなかった。半ば諦めの境地。朝から待ち構える地獄の鍛錬に深く息を吐いた矢先。
悠然と服を脱ぎ始めるミスルンに小首を傾げては「着やせする体系か」と存外鍛えられている彼の身体つきにライオスが感嘆の声を上げたのち、言い表し難い違和感を舌先に乗せ綴る。
「ここで衣服を脱ぐ必要性は
……
?」
素肌を隠していた最後の一枚を脱ぎベッドの上に落としたミスルンがライオスの問いに淡々と答えた。
「何も身体を動かすのは訓練所だけではない」
ミスルンが放つその言葉の意味をライオスが身を持って味わうまであと数分後。
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