ななき
2022-08-27 17:12:04
3578文字
Public 吸死
 

吸血鬼の明け方、退治人の朝

(ドラロナ)添い寝してみたくなっちゃってノータイム実行しちゃった吸血鬼と、夢だと思ってちょっとだけ積極的になった退治人の話


幸せな夢をみた退治人の朝

最近、甘ったるい夢を見る。同居する吸血鬼が俺を撫でてくれる夢だ。なぜか目は開けられなくて、あいつの顔が見えたことはない。細くて長い指が髪を梳いてくれる感触だけ。その触れ方が優しくて、あいつの作る菓子よりも甘くて、幸せになるのだ。

◇◇◇

目が覚めて即座に、さっきまでの夢を忘れないように再生しなおす。最近よくみる、同居人の夢。片思いの相手が柔らかく自分に触れてくれる、甘ったるい願望の塊のような夢だ。しかも今日はその超豪華版だった。

そう、片思いだ。自覚はしているのだ。すぐ死ぬ貧弱砂押しかけ居候吸血鬼に惚れてしまったことくらい。
だって、と自分に言い訳をする。あいつが来てから俺が得たのは、灯りのついた家と賑やかな仲間、世界一の丸にうまい飯。クソ腹立つことも多々あるが、陽気で世話焼きな相棒。あいつなしの生活になど戻れないと本気で思うほどの暖かさ。

つまりは。それはそれは見事に籠絡されてしまったのだ。退治人のクセに。もちろん、絶対に、決して、表には出せはしない。いつかの終わりまで抱えていく覚悟だ。

棺桶がしっかり閉まっていることを確認してから、頬を緩める。だらしない顔をしている自信がある。浮かれた気分が抑えられない。しかたないよな。いつもの夢でも十分すぎるくらい幸せなのに、今日はすごくて、とにかく、すごかったのだ。

夢の暗闇の中でふんわり意識が浮上すると、慕う相手が髪を梳いてくれている。指が細いから少しくすぐったい。指先はいつも好き勝手する。髪を撫でつけたり少しかき回すようにしたり、そうっと頬に触れてきたり。
いつもならここまで。目を開けられないまま手が離れて夢がおわってしまうのだが、今日は目を開けることができたのだ。
視界は暗かったが、それが問題にならないくらいあいつが近かった。棺桶に入る直前なのか降りた前髪と、濡れて僅かな光を反射する目。最愛の使い魔を抱いている時のように、ほんのり笑んだ口許。

映像がついた代償なのか、指の感触がそこで止まってしまったのが惜しかった。でも、夢でさえ俺の望むようにはならないのはあいつらしかったかも。

それで……それで。嬉しくて幸せで、気が大きくなった俺は、現実なら絶対にできないことをした。いつもされているように髪に触れて頬を撫でて。それから。
夢の中の吸血鬼の唇は、しっとりとして気持ちが良かった。離したくないなんて思ったことを思い出す。
ああ、俺の想像力もなかなかやるじゃないか。夢の温度を思い返しながら自分の下唇をゆるくなぞる。これだけでしばらくやっていける気すらする。

そういえば吸血鬼も夢を見たりするのだろうか。今度聞いてみよう。たまには俺も出演してたりしないだろうか。
今、カーテンの隙間から差す僅かな光の中で棺桶は静まり返っている。
どんな夢をみるんだろうな、おまえは。