ツキシキ
2024-05-07 15:48:08
4583文字
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★Persona The Raptureまとめ

2作品。二次創作。大河原×鷹取のみ。暗い。


殴られたがる鷹取の話


夏休み前のIDEA戦後くらい
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「私のこと、殴ってくれないかしら」

 鷹取が言った。同じ鷹取ココロだが俺の知らないほうの“鷹取”が言った。あいつは元々ちょっとばかし素っ頓狂なことを言い出す奴ではあったが、それは内省とか自虐とかネガティブでメランコリックで手首切っちまうような何かとは一線を画する唐突さであって、決してこんな形ではなかった。
 だが、と俺の中の俺が反論する。おまえは鷹取ココロの何を知っていた?
 何をと明確に言えるような付き合いはしてこなかったし、むしろそれが俺の望む人との距離感なはずだった。だから、俺が今のこいつに何をどうと言える筋合いはないのだった。

「なんでまた俺に?」
「女の子だと腕力の問題があるわ。かといってあなた以外の私の知り合いでこんなことを頼める男の子は────元々知り合いの男性なんて3人ほどしかいないけれど────たいてい説得で事を済ませようとしてくると思ったから」
「へぇ。まるで俺が野蛮人みてぇな言い草だ」
「力こそ最短のコミュニケーションという人もいるわ。何より沈黙は時として雄弁よ」

 鷹取は答えにもなっていないようなことを眉ひとつ動かさずに言う。結局俺は野蛮人なのかそうじゃないのかどっちなんだ? 思うが口には出さない。無意味を広げるほど俺は春日にかぶれちゃいない。

「まあ、つっても、理由くれぇは聞きたいところなんだけどよ?」

 訊くと、鷹取は宙の一点にぼんやりと目を向けて考え始めた。一番適切な言葉を探しているらしかった。IDEAで起こった一部始終を既に聞いていた俺は、答えなんて訊かずともうすうす察しはついていたが、それでもその察しが確信に変わるようなら幻滅だなとも思っていた。けれども幻滅したところで見捨てることができるかどうかはまた話が違うのだった。

「贖罪のため…………、違うわ。自己満足よ」

 予想通りの答えに大きなため息をつく。

「そうかい。じゃ、何か。おめーは自分のオナニーに俺を使いたいって話か」

 わざと下品な言葉を使えば鷹取は少々眉をひそめたが否定はしなかった。

「広義的にはそういうことかもしれないわね」
「手首でも切ればどうだよ」
「一人でできないからあなたを頼っているの」

 そこで。
 そこでそう殊勝な言葉を使ってくるのがまた鷹取ココロの無自覚に小狡いところだった。

「気付いてるかも知れねぇが、俺は今わりと機嫌が悪い」
「そうね。私のせいでしょう」
「わかっちゃいるなら話が早え。いっそう腹が立った」
「ええ。ならどうぞ」

 鷹取の真っ黒な瞳の中に、俺はいたが俺はいなかった。ただ義務的に成すべきことを成そうとする決意に似たものだけがあった。こいつの前で俺が俺である必要性は一欠片も無かったし、選ばれた俺の拳はあくまで消去法によるものだった。だから俺だって、俺らしくないことをわざとらしく選んでみせてやろうと、思った。幸か不幸か、鷹取が望んでいる暴力衝動は今確かにここに産まれようとしていた。

……男が女にする暴力って殴るだけじゃねーんだぜ」

 ガキのような脅しが口をついて出た。
 鷹取は少し制止し、噛み締めるようにして、深く頷いた。

「構わないわ、それでも」

 拳は機械的に動いた。



◇◇◇



 鷹取の華奢な体躯は勢いよく飛び、たった一発で横倒しになった。どこを殴りつけたのかすら自分でわからないほど考えなしに手を動かしたのだが、鷹取が頬を抑えていることで答えは得られた。鷹取の整った顔のうち片頬だけが不格好に膨らむのを想像したが、爽快感は一切無くただただ虚しかった。
 ヒットした拳の表面が軽く熱を持って痺れている。手を開こうとして初めて爪が掌に食い込むほど強張っていることに気付く。諦めてズボンのポケットに拳をそのまま突っ込んだ。
 鷹取は自力で立ち上がる。

「どうもありがとう」
「いいえのことで。ただこんなサービス業は二度とごめんだな」
「ええ。……本当に」

 言いながら、鷹取は開いた片手でスカートの裾を払った。腿に砂利がついていたがそれもわざわざ指摘することでもないように思えて黙っていた。それでも俺の視線が相手に気付かせたようで、鷹取はまた手を動かして砂利を落した。必要だからそうしたというだけの、そんな一挙一動を俺は見ているだけだった。
 俺達の間に必要な会話はもう終わってしまったし、行動に至ってはなおさらだった。だから俺は動かなかった。鷹取が立ち去ってその背中が見えなくなるまで。
 それでも拳はいつまで経っても熱い。
 いっそこの中途半端な脳みそを殴りつけてほんとうの野蛮人になりてぇなと思ったが、あいにくあの鷹取に殴られても俺はそうなれないだろうと思った。
 ただただ虚しいばかりの暴力だった。





~END~