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櫨
2024-04-30 19:11:15
23712文字
Public
小説(pixiv公開済)
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レイズ/コール
第4部。Re:valeを取り囲んだマスコミの中にいた、彼らを知るフリーライター。
少しの罪悪感とともに、駆け出しの頃のRe:valeを取材した記憶を思い出す。
名無しの一般人オリジナルキャラクター視点です。恋愛要素はありません。
時間軸は第4部第17章第5話「屋上の音楽」を起点としつつ、回想に同棲時代その他を含みます。
※ファンによる二次創作です。公式及び実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
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× × ×
サッカーにはまるで興味がなかったし、学校あげての応援に駆り出されるのは、正直、面倒くさかったです。高校サッカーのシーズンって冬じゃないですか。とにかく寒くて寒くて。
でも、いざ試合が始まるとなんだかんだ熱くなっちゃうんですよね。気がついたら、めいっぱい声を張り上げて、応援していました。
彼は人気者だったし。あっ、いわゆるモテの意味じゃなく、いやそういう意味でも人気はあったけど、それよりも、明るく元気で、優しくて、いつも人の輪の中に居て。サッカー部でめいっぱい頑張っていて、プロとしての将来も嘱望されて。同学年どころか、学校中で知らない人はいなかったくらい。
なのに、あんな、試合中のアクシデントで。いっぱい血が出て。
彼が退場した時は、みんな泣いていました。怖かったのもあるけれど、それよりも、悔しくて。やりきれなくて。
「どうして?」「なんで?」
誰もが口々にそう言ってました。
どうして、あんなにいい人が酷い目に遭うんだろう。なんで、あんなに頑張った人が報われないんだろう。そういう涙だったと思います。
私? 何? 私も泣いたか、ですか。それ、聞くんですか。分かるでしょう。いま顔を合わせて話をしているんだから。
……
だから、思い出したくなかったのに。
☆
放課後にサッカー部の練習で見かけることがなくなり、そうするとクラスが違うから姿を見る機会も減りました。通院とか、リハビリ? とかで、学校に来る日そのものが少なくなっていたみたいだし。
進路の話題のなかで、大学は推薦が決まったらしいという噂を聞いて、良かったな、でもスポーツ推薦ではないのかな、サッカーは続けるのかな、ってふんわり思って、それっきり。
だから、次に顔を見たのは、テレビの歌番組でした。最初は気がつかなくて、衣装とメッシュで印象が違ったし、っていうか歌のあいだは、私は、あのう、わりとずっと千の方を見ていて
……
歌い終わったあとの「ありがとうございました!」って声でやっと気がつきました。サッカー部の応援をしていて、何度も何度も聞いた言葉だったから。
もうね、驚いたってレベルじゃなかったです。何が驚いたって、私、それまでもラジオで聴いたりして、Re:valeの曲ってけっこう良いなって思っていたんです。でも、歌声だけじゃ全然気がつかなかったんですよね。歌う声と話す声の違いはもちろんありますが、そういうレベルじゃなくて、アーティストの
……
シンガーの歌い方なんだなって。千と声をあわせたユニゾンやハーモニーはさらに別もので、ああ、もう、サッカー部の彼の声じゃない。Re:valeの百の声、Re:valeの声なんだ、って。
それからは、元同級生とか関係なしに、Re:valeのファンになりました。主に音楽方面の。ドラマとかバラエティも見ますが、やっぱり歌が、Re:valeの歌が好きで、テレビでアップを見るよりは豆粒でもいいから現地に行って、生の音を浴びたい派です。
あの寒くて寒かった競技場よりも、もっと大きな声で。
めいっぱい声を張り上げて、応援しています。
× × ×
リハビリのプログラムに共通点が多くて、歩行訓練や動作訓練のときに自然と話すようになりました。というか、見かけると必ず向こうから声をかけてくれたんです。
後になって理学療法士さんに聞いたんですが、当時の僕は背が小さかったので、小学生だと勘違いして、付き添いの保護者があまり来られないようだから、それとなく見守ろうと思ってくれてたらしいです。だからでしょうね、中学校の部活での怪我なんですって言ったときは物凄くびっくりしていたっけ。そんなにチビに見えるのかよ、って当時はちょっと不貞腐れちゃったけれど、ここまで背が伸びた今となっては笑い話だし、良い思い出です。
優しいお兄さんって感じの人でした。早くまた歩けるように、走れるようになろう、そしたらいつか一緒に走りたいなって口癖みたいに言ってくれて。これ、誤解しないで欲しいんですが、圧をかける感じはなくて、どっちかっていうと自分に言い聞かせてるふうだったので、中学生の僕は素直に勇気づけられたし、スポーツマンらしいなあって思っていました。
まず口に出して、叶えるための努力をする。有言実行ってやつですよね。中学の体育教師がよく言ってました。
でも、それって、自分で言ったことに追い詰められてしまう場合もあるから、使いどころには注意しなくちゃいけない。部活指導員のコーチに、そうやんわりと釘を刺されたのを覚えています。
……
ずっと、気になっていたことがあります。
「いつか一緒に走ろうね」
リハビリしながら、繰り返し繰り返し、あの人は言っていました。でもある日、ふと気がついたんです。
「いつか一緒にボールを蹴りたいね」とは、一度も言われていないことに。
僕は
――
僕も、サッカー部だったのに。
怖いのかな、と思いました。
もし、言葉に出しても叶わなかったら。サッカーが、自分を追い詰めるものになってしまったら。だとしてもサッカーを嫌いになりたくない。なれるわけがない。
それで、口に出せなくなってしまうくらい、サッカーが大好きなんだろうな、と。
☆
Re:valeとしてのあの人を初めて見かけたのは、まだ新人の頃だったと思います。家族で見るともなしに見ていたテレビのバラエティ番組で、フットサル対決の企画がありました。あの人はゴールキーパー、フットサルだとゴレイロですが、をやっていて、なかなかカメラに抜いてもらえなかったけれど、終盤にしっかり見せ場を作っていました。
至近距離からのシュートを、超反応のファインプレーで防いだんです。
食事どきだったから、僕はあまりテレビ画面は見ていなかったんですが、母親が声を上げて指差しました。ちょっとこの人、ほら、って。
うちの親、なんですぐに気づけたんだろうな。リハビリに通っていた頃のあの人とは、全然、違いました。メッシュやピアスといった見た目の印象もですが、何よりも瞳の光が違ったんです。優しく笑って、でもどこか諦めたような目で「いつか」と言っていたあの人とは、別人のようでした。
強く光る眼が弾丸みたいにボールを追いかけ、紙一重のところでシュートをパリィして、こぼれたボールを押し込まれるより先にしっかりと胸に抱き抱えました。そして、全部の指を大きく開いた手で包み込むようにボールを持ち、そのままスローイングしようとして、指先にぎゅっと力が入ったのが分かりました。
たぶん、馴染んだ大きさとは違ったから。サッカーボールより少し小さい、フットサルのボール。その違いに戸惑って、なぜだか照れ笑いしてた。
それから、数歩走って、思い切りボールを蹴りました。
ホイッスルは鳴らなかった。ゴレイロの四秒ルール。たった四秒のあいだにこれだけの魅せる動きをされて、もう飯どころじゃなくて、口をぽかんと開けて見てしまいました。
一緒には走れなかった。一緒にはボールを蹴れなかった。
でも、僕もあの人も、また走れるようになった。またボールを蹴れるようになった。
いつか、という言葉を使うなら。
いつか、プロになって、Re:valeの百と対面してみたいです。
フットサルをやるのも、いいかもね。
× × ×
はい。あの記事の「大学のサッカー部の友達」は、俺です。
これからお話することは、ただの言い訳かもしれません。いや、言い訳です。分かってます。でも、お願いです。言わせてください。
あんな風に書かれるなんて、思わなかったんだ。酒の席での、ちょっと尾ひれをつけた愚痴。それだけのつもりだった。
――
俺はただ、彼と、もっと一緒にサッカーがやりたかったんです。
高校時代から彼のプレーを知っていて、一目置いていました。だから、あの事故が起こり、少なくともプロ志向での復帰は絶望的という噂を聞いて、他人事ながら胸が塞がる思いでした。
それが大学に入ってみたら同級生で、サッカー部でチームメイトになれて、涙が出るほど嬉しくてたまらなかった。
嬉しかった気持ちの分だけ、彼がいつの間にか退部し、それどころか大学を辞めたと知った時は本当に悲しかったし、心の底からの憤りを覚えました。理不尽な怒りです。俺には怒る理由も資格も、何もないのだから。なのにずっと根に持ち、長いこと腹を立て続けていた。
数年を経て、やっと気持ちが落ち着いた頃に、アイドルとして日本一になったことを知りました。
大晦日のブラホワで、初めてRe:valeとして立つ彼を見たのですが、正直、見惚れてしまいました。パフォーマンスのひとつひとつに、目を奪われた。高校時代、彼のプレーに目を奪われたように。
年が明けて、曲を聴き込みながら、これが彼の選んだ道であり、なるべくしてなったのだ、と実感しました。でも、手前勝手な自己憐憫と分かっていても、裏切られたような気持ち、真っ黒な感情の最後の燻りは、どうしても消えてくれなくて。
……
それでつい、同情を込めて話を聞いてくれた記者さんに、その場の勢いで五年越しの恨みつらみをぶちまけてしまったんです。
『医療は日進月歩というし、最新の理学療法を受けて、もういちどプロを目指す道もあったんじゃないか』
『諦めてしまわずに、彼がサッカーを続けていく未来が見てみたかった』
ただの浅はかな素人考えです。医学は進んでも、失われた時間、得られなかった経験と機会は取り戻せはしない。そもそも彼はリハビリをきちんと終わらせており、大学への入学時には傷は完治していた。
サッカーよりも打ち込むべきものに、彼は巡りあった。それだけのことだった。
それだけのことが、俺には受け入れがたかった。
認めることが、出来なかった。
取材は居酒屋で、インタビューというよりも世間話の延長のように喋っていたので、半ばからかなり酔っていたこともあり、話したことのすべてを覚えているわけではないですが。あの記事の根拠となっている俺の談話が、捏造や虚偽ではないことは、認めざるを得ません。
でも、あんな記事になってしまうなんて
……
。
ごめん。本当にごめんなさい。
☆
どれだけ謝っても足りない。合わせる顔なんてない。そう思っていた。
けれど、先日の後追い報道で知ったんです。Re:valeの百は、俺のことまで気遣ってくれた。『記事に載っていた同級生』の俺を、好きだって言ってくれた。ファンや仕事仲間と同列に、アイドルの好きとして、好きだと。
嫌われたら残念だし、悲しいけれど、しょうがない。そうも言っていた。
だから、ひとつだけ伝えておきたいんです。
俺も、Re:valeが好きだよ、って。
俺を愛してくれるアイドルのRe:valeの百が、アイドルとして大好きだよって。
× × ×
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