出口
2024-04-21 13:03:04
11496文字
Public 呪専パロ(五悠)
 

「催花雨の帳」

任務先で雨に足止めを食らった話。
悟→→→悠
※呪専パロ
※催花雨は春の季語ですが、これは夏の話です。
※既刊「パ-ティーがはじまる」収録作品の再録。


「一度戻るか」
一向に収まる様子のない雨に痺れを切らして、俺は今日の現場に戻ることを提案する。
あそこなら電気は通ってないにしても一応一軒家だし、ここよりは幾らかマシだろう。補助監督だってここに俺らが居ないのを見れば現場へ向かうだろうし、そもそもここはあの家に向かう道の途中だ。

「えっ? この雨の中ぁ!?」
悠仁が情けない声を上げるのも当然のことで、濡れない先輩は良いかも知れないけど……なんて声が聞こえて来るような視線を投げられる。

「まあ、俺に任せろって」
言いながら悠仁を抱き寄せ、空いた隙間でガラス扉を開け放った。完全に密封された空間でなくても多少の隔たりはあったのか、ザアザアという音に包まれる。
悠仁の肩を抱きながら一歩外に連れ出して、
「ぅわ……、えっ!?」
不思議そうに俺を見上げ、電話ボックスから出ても至近距離な体を震わせた。
「すげぇ!! これが無下限!? 俺も無下限になってる!?」
無下限になってるの意味分かんなかったけど、「まーな」って言っておいた。悠仁の湿った体を無下限の内側に取り込むのだって、俺にかかれば大した技じゃない。
でもまさか、こんな風に直接触れる日が来るなんて思ってもみなかったから、らしくもなく少し緊張していた。肩など抱かなくても、腕を掴むだけでことは足りたのに触れていたくて離さない。こんな激しい雨のなか歩く人は居ないからか、悠仁も気した様子もなく俺の腰に抱き着いて来る。

「すげ~!! すげ~!!」
はしゃぎ跳ねるよう歩く悠仁の髪が顎先をくすぐり、俺も笑う。ヤバい、可愛い、幸せだわコレ。って緩み切った俺の顔に、悠仁は気づく様子もない。
紙一重まで近づいた雨粒を永遠に弾く手のひらを伸ばす悠仁に、俺は手のひらを重ねた。悠仁は不思議を通り越したって興奮しきった顔で俺を見上げると、雨は弾くのに俺の指は絡まるのを確かめ、かみ殺すような笑みを浮かべた。



一軒家の廃墟へ戻り、もう何年も前から家具に掛けられていた布を、厚い埃まみれの床の上へ敷き俺らは座った。
雨はまだ小降りになる様子はなく、きっといましばらくは補助監督の車も辿り着けないだろう。
悠仁の体を離すのは惜しかったが、屋根のある場所に居ればコイツとくっついていられる言い訳もない。

空は白く陰り、部屋の奥までは充分な明かりも届かない。だけど締め切られていたカーテンを開けたから、真っ暗な訳ではなく薄暗い室内。
俺の六眼に不便はないが、悠仁の目には少し暗いかも知れない。

屋内で座り込むなり大人しくなった悠仁が少し気になりはしたが、薄暗いなか眠くでもなったのかと思っていた。
しかし――ぶえっくしゅ!! と大きなクシャミを響かせた悠仁に、驚いて振り向くと、
「寒っ……
ぶるりと震えた体が揺れたのに、思わず手を伸ばすと、
「濡れたままだからだろ、濡れたの脱いでこれ着てろ」
悠仁の制服の上着を引っ剥がし、俺の着ていた制服の上着を突き出した。
山間の土地の光の届かない屋内は、都内に比べると少し涼しい。雨で暑気が遠のき、濡れた体では寒いようだった。
しかし俺は濡れていないし、むしろ悠仁を意識するだけで体温は上がる。0.5度くらい。俺の平熱が36.5だとしたら、たぶん今は37.0くらいの微熱だ。

「えっ……でも」
メシ奢ってやるってやったら遠慮なしに諸手を上げてついて来る悠仁でも、この時は渋って見せた。濡れた服を脱ぐまでもないと思ったのか、それとも俺の上着を受け取ることに躊躇したのか。
「いいから!! 着てろ! 俺は別に寒くねーし、むしろ脱いで涼しいくらいなんだよ。オマエが風邪ひいたら俺が他の1年に文句言われんだろ」
メンドクサイってのを全面に出して言った俺に、悠仁はおずおずと手を伸ばし、やっと俺の上着を受け取った。
ゆるりとでかいフードに、上着を開け放してもいたから、パーカーの被害も酷かったらしく、それも脱いだ悠仁がインナーに着ていたのはタンクトップだった。当然のようにTシャツが出て来るだろうと思っていた俺は不意打ちに思わず顔をそらす。
「ズボンも脱いで絞るか~」
そらした視界の外から聞こえる声に、俺はごきゅりと生唾を飲む。
「ン? いま何か変な音聞こえなかった?」
それに気づいた悠仁は警戒するよう辺りを見回したが、今のは俺だ、安心しろ。
「呪霊の気配はもうねえし、幽霊でも出たか?」
誤魔化すよう軽い口調で言ってみるが、
「オバケならいっか~」
残念ながら、悠仁に霊的なものを怖がる情緒はない。つか、オバケって可愛いな!! オイ!!

パンツまでは濡れなかった! と背を向けズボンとパーカーを絞る悠仁を盗み見れば――やっぱ白タンクだ。バックがY字のやつだから浮き出た肩甲骨が生で見えて!! ヤベぇ!! ッ~~ほんとエロい、勘弁してください……
しかも普通のトレンカだと思っていたズボンの下は、膝上までのものだった! 確かに暑いから、その可能性はあったのだけれど想定していなさ過ぎて、思わずガン見する。
靴を脱ぎ去って、濡れた足を引っ張り出して、俺の上着羽織ったらサイズがデカすぎたのか、指先だけでなくその裾でパンツまでは見えない。しかし見えそうで見えないその微妙な長さがますます俺をムラつかせる。
オーバーサイズの服を彼シャツ風にあざとく着る女を見てもそこまでそそられたことはないが、悠仁のそれは……破壊力エグかった。しかも俺の服! いつも俺が着ている制服を悠仁が着ると、こんなにもたまんないのかと思い知らされ腰が砕けそう。
無頓着過ぎる悠仁だが男同士だから恥じらうことなどないのが普通で、自然に膝を立て座る悠仁はかなり目に毒なポーズで――俺の口元は緩み……涎が垂れかけた。

「腹減ったね、先輩。お迎えまだかな~」
能天気はことを言う悠仁は、しかしまたクシャミをして、
「まだ寒い?」
訊く俺に、「平気」と言いながらもやはり震えたようだ。
――くっついてても良いけど」
さすがにあからさま過ぎたかと躊躇ったが、埃臭いとはいえ薄暗いなか好きなやつと2人。少しでも距離を縮めてみたいと言う俺のいじましさは、男なら誰でもそう思う種類の感情だ。我慢出来ずについ本音が零れ出た。
いくら日ごろから「悠仁とヤリたい!!」と喚いてる俺だって、こんなところで発情なんて――~~するけど、それはしちゃうでしょーよ! でも本気で襲い掛かるとか……無いでしょ、無いよな? ねーよ!!

「あーー……っと」
俺の上着を一度は断った悠仁のことだから、今度もいらないって言われるかと思った。けれど迷うような声が届いて、思わず振り向いたら、
「ありがと、先輩!」
俺の腕にギュッと抱き着くようくっついて、肩にもたれ掛かって来たのに――心臓飛び出るかと思った!!
タオルもないから濡れたままの悠仁の髪がくっついたワイシャツは水分を含んだけど、そんなことは大した問題じゃない! めちゃくちゃ可愛くてエロいカッコした悠仁から抱き着いて来たのに、一瞬頭ン中真っ白になった!!

悠仁の顔は見えないし、薄暗いから情報量も少なくて何を思っているのかも分からない。
でも少なくとも俺は、ぴとりともたれ掛かって来るくらいで嬉しいと思っていたのに! 抱き着かれた瞬間から、心臓がいつもの3倍近いスピードで暴れ出してる!
「先輩、今日優しいね」
耳元で聞こえた悠仁の声に、ゾクッと震えが走り、
「は?」
何言ってんだ? というよう返した声も震えそうになった。
「さっき無下限に入れてもらった時も思ったけど、先輩って良い匂いする」
表情の見えぬままの悠仁の言葉に、少なからず汗をかいていた俺はドキッとしたが、良い匂いって言われた! そんなことにスゲェ興奮して、頭が逆上せる。
「これ、香水かなんか?」
尋ねながら首の付け根で悠仁の顔が動く。すり寄るような仕草に錯覚して、肌の表面にはぞわぞわと快感に似た痺れが走った。
ヤバい、ヤバい、ヤバい! 自分の香水とかもう分かんねえ俺には、むしろ悠仁の匂いが届いてる。人工的な香料の匂いなどシャンプーか汗拭きシートくらいしかさせたことなさそうな悠仁の、汗の匂い。雨で湿った匂いと、肌の匂い。
――……さすがに勃ったんだけど、不可抗力だろコレ。

「先輩あったかい」
悠仁の声に、また頭の中グラグラする。体中に血液のめぐる音が聞こえるようで、興奮に息が乱れそうなの必死で殺す。
勃起してるとか絶対に気づかれちゃダメだって分かってんのに、今すぐ押し倒したい! って同じ頭で考えてる。
何が安心しろだよ? どー考えても、最初ッから悠仁にとって1番危険なのは俺だろ!! 雑魚呪霊よりも、曰く憑き幽霊よりも、祓い難い呪いを完成させた俺が1番の禁忌。

でも――せめて、抱きしめるくらい、良いだろ!? 邪な下心があってもハグくらい許されるだろ?
これは、今まで感じたこともなかった種類の俺の感情だ。欲しくて全て手に入れたい気持ちと、大事にして嫌われたくない恐れ。

「あっためてやるから、こっち来い」
震えそうになる腕を広げて、悠仁を胸に抱き込んだ時の幸福感こそ今まで感じた何ものよりも満たされた感覚。
ただ濡れて冷えた体を抱きしめてやっただけなのに、気が遠くなりそうなほどドキドキしてた。

そう――俺は、ただの優しい先輩としてはドキドキし過ぎていた。雨の音も聞こえなくなるほど、俺の心臓は強く早く刻み過ぎてた。
テンパって、そんなことすら分からなくなってた。

「ご、五条先輩……あの――

胸に抱き込んだ悠仁に指摘されるまで、自分の気持ちは誤魔化せる種類のものだと高を括ってた。
しかも勃起してるのまで気づかれたけど、優しい俺の後輩はそのことについては指摘しないでいてくれた。





あの日以来、あの時のことはお互いに言葉にすることもなく過ごしてる。
結局、俺の気持ちが悠仁にバレたかどうだかも確認する術がない。
しばらくは悠仁の反応怖くて大人しくなってた俺だけど、アイツは以前までと変わらず俺を遊びに誘うし、メシも一緒に行く。稽古をつけてくれと言われれば疲れていても断れない。

だけど、最近ほんのちょっとだけ、悠仁との距離が近づいてるように感じている。
「勘違い男は嫌われるからね? 悠仁に迷惑かけるんじゃないよ」
とか言われるの分かってるから、傑には言ってないけど!
だって、前より悠仁のパーソナルスペースが縮んで来てるのを感じてる。ボディタッチを含めたスキンシップもずっと増えている気がする! いや、気がするだけじゃなく、確実にそうだ!!

ひょっとして――って期待もしている。チョロくて単純だって思われるだろうが、ドン引きしただろうあの日があって、なのに警戒されるどころか距離を詰められれば、期待しない方が無理ってもんだ。



「あっ! 五条先輩!!」
俺を見つけるなり嬉しそうに駆け寄ってきた悠仁に、俺はニヤニヤしそうになる顔引き締めるけど、そろそろ限界かも知れない。
「いま戻ったのかい? 悟」
悠仁と一緒に居たのが傑じゃなければ、告っていたかも知れない瞬間だったとすら思える。
「なんだよ、また夏油先輩に相談事ごと?」
面白くなく言ってやると、悠仁は何故か赤くなった。赤く……なった。赤くなった!? なんで!?
くわっと目を見開き、顔だけで傑に説明を求めるが、傑は眉尻を落として困ったように笑うだけだ。

「五条先輩、おかえり! 今日はもうおしまい?」
そんな俺らのやりとりに気づく様子もなく、悠仁は俺の背中に飛びつくよう抱き着いて来た。
ほら!! ほらぁ!! このスキンシップ!! こんなの前まで無かったろ!? こんなん絶対脈アリだろ!?
テンションブチ上がり過ぎて逆に真顔になってる俺の視線を受けた傑が、耐え切れないと言うよう笑い出してる。笑ってンな!!

ヨシ!! 告る!! 今日絶対悠仁に告る!!
飯食って、デートして、ちょっと良い雰囲気作って!!
絶ッッッッ~~対に告る!! 好きって言う!!!!



心に決めた俺だけど、絶対キメるって覚悟した俺だけど、しかしその夜の俺は悠仁に告白することは出来なかった。
何で、って? ――それ訊く? それ!! 訊いちゃう!?

ンなもん――告る前に俺が悠仁に告られたからだよ!!!!
ザマァミロ!! 悠仁が!! 俺のこと!!
好きって言ったからだよおおおおおお!!
知ってた!! 俺は知ってたし!!
いつか絶対この日が来ること知っていた!!

あと、悠仁が傑にしていた相談ごとも、全部俺のこと!!
俺のこと好きすぎンなら最初ッから俺に相談すれば良いのにバカな奴!!
ヤベぇ、クソ可愛い♡♡♡

俺があの時ちょっとだけ泣いたのは、悠仁のいじらしさに感動したからだ!!
嬉しかったからとか、ホッとしたからとか、そんなんじゃなくて!!
……本当だってば。鼻水出てたとか言うな!

ありがとう世界!! 俺もオマエが大好きだ!!
でも悪いな!!
悠仁のことのがもおおおおおぉっと大好きだ!!



――で、ちょっと聞きたいんだけど、悠仁を押し倒しても許されるのはいつぐらいだとと思う?