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吾妻
2024-04-07 16:01:19
12300文字
Public
アークナイツ
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いつか涯を目指すまで
リクエスト頂いた、「サーミにお出かけするテキ博♀」です。デキてる。
いちゃいちゃもしてるんですが、ちょっと不穏にもなってしまった。
1
2
3
3.
――
彼女
ドクター
の動向に気を配ってやってくれ。
サーミへ発つ数日前。
所用で主人が不在の執務室にやってきたのは、医療部のトップだった。
『今回の視察に何か懸念が?』
ケルシーはわざわざドクターの不在を狙って訪ねてきた。つまりこれは、ドクターには聞かせたくない話なのだ。
確かに妙だと感じてはいた。
今回の誘いはいわゆる接待の類で、普段のドクターなら多忙を理由に丁重に辞退の返答をする。角が立たないようにお断りの連絡をする役目を仰せつかったことも、一度や二度ではない。
だから、今回ドクターがサーミ行きを決めたのは、かなりイレギュラーではあった。
『現時点で明確な懸念があるわけではない。しかし、彼の地は我々とは異なる摂理で成り立っている領域であり、それゆえに何が起こるか未知数でもある。なにより
――
』
そこまで言って、ケルシーはためらうように言葉を切った。
ケルシーは、迷いを見せない先導者である。少なくとも、テキーラの目にはそう映っていた。そんな彼女が逡巡を見せるのは珍しく、いかに今回のサーミ行きに危機感を抱いているのかが伝わってくる。
『君たちが向かう先は、地図上はサーミと記されてはいるが、クルビアの文化が色濃く流入した土地だ。氷原ほどの危険はないだろう。しかし、彼女が無意識のうちに何かに〝呼ばれて〟いるのだとしたら』
『呼ばれる
……
?』
『我々がいずれ氷原の果てを目指すとしても、それは〝今〟ではないし、我々の意思によって行われるべきものだ。彼女がもし何らかの影響を受け、自らの意思と異なる行動に出るようなら、君が止めてほしい』
正直、ケルシーの言葉の意味は半分も理解できなかった。
それでも、今回の視察旅行がただの物見遊山では済まないかもしれないという予感だけは、くっきりと心に残った。
「
……
でも、頭ごなしに反対して取り止めさせたりしないんだから、ケルシー先生ってドクターに甘いよな」
腕の中で寝息を立てている恋人の頬を撫で、テキーラは独白する。
明け方が近い。
つい先程までひとつのベッドでもつれ合っていた恋人は、体力を使い果たしたらしく深い眠りについている。
不可解としか言いようのない現象を目の当たりにした今でも、ケルシーが何を言わんとしていたのか、実際に何が起こっていたのか、まったくわからない。
それでも、離れられぬよう抱き締めていたはずのドクターが、次の瞬間には跡形もなく消えてしまいそうで恐ろしかった。
腕の中で眠る彼女の寝顔は穏やかで、あどけなさすら感じるほどだ。込み上げる愛おしさのままに胸のうちに抱き寄せて、形の良い額に唇を落とす。
「どこにも行かないでよ、ドクター」
おそらく彼女は、この大地で唯一無二の特別な人なのだろう。
折れそうなほど細い両肩に、どれほどの重責を背負っているのか、想像すら難しい。
いずれ互いの道は重ならなくなるのではないか。そんな予感は常にこの身にまとわりついていて、おそらくその予感はいつか未来として具現化するのではないかとも思う。
たとえ、そうだとしても。
「
……
今は、俺の傍にいて」
互いが自らの意思で行く先を選ぶその時まで、この手は離さない。
彼女と想いを通わせたあの日から、既に覚悟は済ませている。
「愛してるよ」
額に唇を触れさせたまま囁けば、腕の中の恋人がまるで返事をするかのように「ん
……
」と小さな吐息を漏らした。
【おわり】
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