Marriage? 恋を奪い取れ! 2/3
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「はあああああああああああああ!?!?!?」
絶叫してしまった。大絶叫してしまった。かっと顔に熱が溜まるのがわかる。
あまりに唐突すぎやしないか!
そういう雰囲気、だったのはだったかもしれんが、やぶさかではないといえばギリギリ頷けなくもないが話にも脈絡というものがあっていや待てでもプロポーズだよなあれはというかそもそも話が飛び過ぎていやしないか結婚こいつは結婚できる歳なのかそもそも申し込むなら俺からなんじゃないのか普通、などと、色々な考えが一瞬にして駆け廻って、俺の脳みそを遠慮なく掻きまわして速攻で立ち去りやがって結局わけがわからない。
ぐらりと暗転しそうな視界を何とか保たせてアメリアの方を見ると、向こうも向こうで顔を真っ赤にさせてあわあわと口を動かしていた。
「あっ、ちが、いや違わないけど今のは違うんです待って、まって下さいぃ!」
しまいには涙目になりつつあって、それを見て逆にこっちが平静を取り戻す。
コレがそんな、そんなことを本気で言いだすわけがない。そうだ。とにかく落ち付け。そして落ち着かせろ。
「わかった、待つから一度落ち着いて、順序を追って話してくれ」
「は、はひ」
互いにティーカップを持って、中身を一気に飲み干す。味なんてわからない。ただ、場を取りつくろうように喉を鳴らす。
カップを置きなおした時にはアメリアも落ち着きを取り戻していた。
「そのですね。ここから少し行ったところの小国から、その、~~~っ、結婚をしましょう、と、申し込まれてしまったんです」
落ち着くどころの話じゃない!
ガチャン、とカップが音を立てた。俺の手元からだった。取っ手を握りっぱなしだったのが悪かったのか、力を入れ過ぎてひび割れていた。俺で弁償できる額だろうかと、変な心配が脳裏をよぎる。
「ひゃあ!ゼルガディスさん、大丈夫ですかっ」
「あ、ああ。大丈夫だ。悪い、割っちまった」
「いえいえお気になさらず、それよりお怪我はないですか」
「まったく」
「なら良かったです!」
俺の肌がこんなことで傷つくはずはないんだが、それをわかっていて心配してくれる辺りがこいつの性なんだろう。頭より先に身体が動くタイプのようで、ことあるごとに思い知らされる。
そういえば、リナ達と四人で旅をしていた頃も、何かと俺を庇おうとしていた時があった。こんな俺でも普通に扱おうと努力してくれていたんだろうか。いやひょっとすると、そんなこと意識すらしていないかもしれない。その自然さが
……眩しい。
「あ、あのう
……続けても、良いですか」
俺は頷いて、先を促した。そういえばアメリアがさっき物凄いことを言っていたような気がする。あまりの衝撃に脳が理解を拒否していたおかげで、さっぱりわかっていない。確か結婚がどうとかいやいやまさか。
「で、ですね。結婚を申し込まれたんですけど、わたしは、初対面の人と結婚なんてことは
……」
けっこん。結婚。申し込まれた。ふむふむなるほど、と、言葉の意味だけを追うが、いまいち頭に入ってこない。信じがたい。
「で、とーさんに言って、お断りさせて頂くことで何とかその場は収まったんです」
断り、という単語でやっと思考がクリアになった。
「そうか」
遅ればせながら頭が回り始める。
相手方もおおかた駄目もとで政略結婚を狙ったんだろう。早めに予約しておけば、それまでは自国も安泰、上手くいけば援助も得られる効率的な良い手段だ。許せるか許せないかはおいておくにしても十分理解できる。それこそアメリアは姫さんだ、こういうことだってもちろんありうる。だというのに俺は何を焦っていたのやら。
以前、マルチナ達が意外な結婚式を挙げた時を思い出す。あの時のアメリアはうっとりとした表情で、めかしこんだマルチナをじっと見つめていた。その様がまるで小さな子供のようでおかしく、からかってやったんだったか。
あの時はこんな気持ちにならなかったというのに。何故今になってこんなにも焦っているのだろう。
アメリアはあの時の憧れを忘れたのか、はたまた相手が嫌なだけなのか、とりあえず迷惑そうな表情をしていた。
「ただ、城下の方に噂が広まってしまっていて
……わたしにその気がないってことはわかってもらえたんですけど、皆、ノリでお祭り騒ぎしちゃおうって感じになっちゃったんです」
「それはまあ、なんというか、無茶苦茶な話だな」
「でしょう!? それで、ちょっとげんなりしちゃってるんです」
あのアメリアが気疲れするというのも珍しい。新鮮に思いつつ、ねぎらってやる。
「災難だったな」
「はい
……。でも、もう平気です! なんだか愚痴みたいになっちゃって、すみません」
「構わないさ。俺みたいな奴だからこそ話せることもあるだろう」
そう、セイルーンとは一切関係のない俺だからこそ、あと腐れのない吐き出し口になる。自嘲気味に笑って見せた俺とは正反対に、アメリアは満面の笑みを向けた。
「ほんとは、ゼルガディスさんが来てくれたから、嫌な気持ち全部ふっとんじゃったんですよ」
「
…………そうか」
そう言われて、悪い気は起きなかった。
むしろ、妙な安堵に浸っている自分がいた。
そのまましばらく他愛のない話をして、気づけば夜も更けようとしていた。さすがに此処に泊まるのは気が引けるし、他の者の視線も気になる。アメリアに別れを告げると、一瞬、瞳を揺らしたが、大人しく手を振って、
「また来てくださいね!」
と朗らかに笑った。
◇◇◇
本来なら適当なところで切り上げて次の目的地へ立つつもりだったが、予定を変えて、セイルーン城下の宿に泊まることにした。
アメリアは俺がまたセイルーンから遠く離れるんだと信じきっているようで、小さな罪悪感が浮かぶ。それでも発たなかったのは、このまま平静を装って別の地へ行ったとしても、すぐに気になって戻って来るに決まっていると自分でもわかったからだ。
アメリアの結婚話が噂になっているのは確かのようだった。こちらから訊くまでもなく、あちこちから話が聞こえてくる。
早いところ相手をもらったっていいんじゃないかだの、相手は絶世の美形らしいだの、真偽も曖昧で身勝手な話ばかりだ。まあ、浮いた話から遠そうなアメリアのことだ、それだけ注目されるのも仕方ないのかもしれない。
宿の部屋のベッドに身体を横たわらせる。しっかりとしたベッドで寝るのも久しぶりだった。明かりは消したが眠りはまだ訪れない。満月の光が窓越しに入り込む。どこまでも沈んでいくような感覚の中で、ぼんやりと考える。
────何だかんだで、あの王族たちは民に慕われている。少なくとも彼らを悪く言うような噂だけは聞かなかった。正義正義と暑苦しいが、裏表がないからこそ民からの信頼も厚いのかもしれない。
どことも知れない馬の骨に、なんて、まるで保護者のような怒りの声も耳にした。俺の内心を代弁しているようだと思ってしまったのは、きっと何かの気の迷いだ。
それなりの立場であるはずの相手がここまで言われているのだから、それこそ俺のような流れ者が王宮に入り浸るのは心象も良くないだろう。これからは、来訪を減らした方が、良いのかもしれない
……。
「おやおや、そんなゆっくりしていて良いんですか?」
「!? 誰だっ!」
身を起こすと共に、剣の柄へ手をかける。空間の歪む耳障りな音が魔族の到来を告げていた。その魔族の中でも俺にこんな気安く声をかけてくるような奴は、こいつしかいない。
「ゼロス
……!」
「どーもー」
相変わらず飄々とした様子で、奴はこの部屋に侵入していた。
「いやあ、美味しそうな暗~いオーラ漂わせてますねぇ」
「
……上等だ貴様、喧嘩なら買わせてもらうぞ」
「おっと」
遠慮なく剣を一振りするが、憎らしいことに切っ先をかすめただけで終わってしまう。無駄とわかっていても戦いを仕掛けてしまうのは、虫の居所が悪いからだ。理由は、いちいち考えたくもない。
「まあまあ、別に喧嘩しに来たわけじゃないんですって。聞きました? アメリアさん、大変ですよねぇ」
「
…………俺には関係のない話だ」
「おや、そうなんですか?」
「チッ」
絡み方がこの上なく煩わしい。舌打ちが自然と漏れる。いっそ無視してやろうと腰を据えたところで、ゼロスが意味ありげな視線をこちらによこした。
「これから、こういう事態になるたびにいじけるおつもりですか?」
「
…………っ」
それは、無視しきれない問いかけだった。
いじける、だなんてガキっぽいことはしない。今回の話だって、マイペースすぎるお姫さんに振り回されるであろう結婚相手の方に同情したくらいだ。それだって破談になる予定なのだから、今後また縁談が起こったって結果は同じだ。
あんなじゃじゃ馬とくっつくような酔狂な奴はいないだろう。いないに決まっている。だから、俺は別に、
「別に、どうとも思っていない。一時は旅をした仲として気にかけることもあるが、それだけだ」
「へえー
……」
ゼロスはにやにやとした表情を止めない。口角を上げると、少し声のトーンを下げて、
「でも、本当にそれでいいんですか?」
とさらに問いかけてきた。
「どういう意味だ」
「よくよく考えてもみてくださいよ。セイルーンと良縁を結びたい国は数多。“どこの馬の骨とも知れない”矮小な輩が今後もじゃんじゃんやってくるに決まってます」
「だからっ、俺には」
関係がない、と続けようとしたのを読んだかのように、ゼロスはぴんと人差し指を立ててみせた。
「そう! 貴方には関係のない話だ。だからこそ、アメリアさんはどこかの誰かと無事に結婚したとしても、無邪気に貴方を招くでしょう。純粋に、昔共に闘った仲間として、何なら式に招待してくれるかも」
「
――――っ!」
頭が熱くなった。魔力を込め、無意識に詠唱を始めようとしていた自分に気づく。剣でのじゃれあいを忘れてしまったかのように。
力量差はわかりきっている。こいつを一人で相手しようとするほど馬鹿じゃない。だというのに、ゼロスに確実な傷を与えられる手段をわざわざ選んで、殺し合いを始めようとしていた。
もちろん、ゼロスも俺の殺気には気づいている。いつの間にか距離を取っていた奴は、再び、部屋の窓枠に腰掛けるようにして現れる。楽しそうに笑いながら。
「いやー、僕としては良質の感情を頂けてありがたい話なんですけどね。そうやって落ち込まれているのを見ているとどうも気になっちゃって。セイルーンの縁談はおそらく、それほど遠い話でもないですしね」
「
…………」
「まあ、そこまで関係ないとおっしゃるんなら、いいでしょう。余計なお世話だったようで、すみません」
言葉を返すのすら億劫だった。手で振り払うようにして帰れと暗に告げる。ゼロスもこれ以上は得策でないと判断したのか、あてつけがましく別れの挨拶を残して、大人しく姿を消した。だが、かき乱された暗い感情は奴のようにあっさりと消えてくれはしなかった。
◇◇◇
政略結婚の可能性、王族のアメリアが流れ者の俺達といつまでも和気あいあいとはしていられない事実。どれもわかりきっていたことだ。今さらすぎる。なのに今頃になってこうやってうだうだと悩んでいるのは何だ。ようやく現実を直視できたということだろうか。
今回は婚約破棄になったとはいえ、次はどうなるかわからない。猪突猛進なアメリアのことだ、ひょっとしたら一目惚れをしてしまって行きつくところまで行ってしまうことだってありうる。考えてみればうかうかしていられる状況じゃあなさそうだ。
こうして思うと、ゼロスの登場は不可解だったが、奴の言うことだけは理にかなっていた。俺の感情が穏やかでないことも含めて、だ。
俺は関係がないと言い続けてきた。だが、それは本当か? ゼロスの言葉が俺自身の言葉に成り変わって突き付けられる。改めて自分に問い直せばもう、ごまかしは、通用しそうになかった。
本気で関係ないのなら、いちいちアメリアの態度など気にしないはずだ。本気でどうでもいいなら、セイルーンを旅の休息地点にするだなんて言い訳は放り棄てて、勝手に世界の果てでもどこでも言っているはずだ。俺がそうできないのは
―――。
俺は、自分の身体やアメリアの立場、色々なものに縛られて、見て見ぬふりをし続けてきただけだったのかもしれない。
ゼロスなんぞに発破をかけられるというのもしゃくな話だが、こればかりは自覚せざるをえなかった。
奴の顔を見たついでに、かなり前に奴から聞いた話も思い出す。狂った人形師が愛する女を人形に変えてしまう話だ。あの時はエゴの塊の馬鹿らしい話としか思えなかったが、今にして思うと、そうまでしたくなる気持ちは少し、わからんでもない。
いいやむしろ、何を迷う必要がある?
多少強引な手段を取らないと、まさにゼロスの言った通りの未来になるんじゃないのか。
極論、結婚を断った相手とやらが今日のうちにでもアメリアの元にやってきて、どうこうなることだって無いとは言い切れない。
これ以上、何かを失っていくのは耐えがたかった。
◇◇◇
急く心が叫ぶまま王宮に舞い戻り、豪勢な窓に手をかければ、意外にもあっさりと開いてしまった。不用心な話だ。
「えっ!」
明かりもついていない薄暗い部屋の中、アメリアは目を丸くしてこちらを見ていた。
夜もずいぶんと遅いというのに、まだ起きていたのかと不思議に思う。考え事でもしていたのか。やはり結婚についてまだ何か思うところがあるんだろうか。胸がざわめく。
「ゼルガディスさん? ど、どうして。もう旅を再開したものだと
……」
そう言うアメリアの表情が少しばかり嬉しそうなのは、俺の勘違いじゃないと思いたい。
「実は、おまえに頼みたいことがあって来たんだ」
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