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豆炭々炬燵
4917文字
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訳アリ心霊マンション
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【サリ東】盛夏へ連れ去る
東雲さんのお相手が女性の場合衣服絡みのお話と「元気が出る写真を送ってほしい」ネタの二本立て。🌭🍮編。 ※この二人付き合ってないでーす。口調一人称他ねつ造ご注意。
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【サリ東】盛夏へ連れ去る
ツレサリ自身の大元を為す噂が東雲薫による武勇伝の数々に由来するが、彼女以外の様々な尾鰭が付き集まった結果産まれたこの体は東雲に似て非なる性質を持っていた。
もし混じり気のない東雲のみで形成されていたのならば、産声をあげた当初ロングワンピースなぞ着ることは無かったからだ。
産まれたばかりの頃、複雑な思考を持てず持たず滾々と湧きあがる衝動に任せ一人の人間を連れ去ろうとしていたのが懐かしい。東雲のお陰で未遂に終わり、マンション入居に誘われた日からツレサリの中に自我らしい自我が芽生え、今となってはスカート系ではなくズボン系に合わせた服装を好んで着ていた。
スーパーの売り子として働く時もワイシャツにネクタイ、スラックス姿。スカートの類は後にも先にもこの世に生を受けた直後の僅かな間だけだった。
大型ショッピングセンター内にある緩くカーブを描く大通り。平日にもかかわらず子供連れが多いのは夏休み期間中だからであろう。現にきゃいきゃいとはしゃぎ回る子供たちの元気な声を筆頭に弾む賑やかさが満ち溢れている。
デザイン性に富んだ色とりどりなソファのひとつに腰を下ろしているツレサリは真新しさ残るスマホの画面を眺めていた。デジタル表示されている時計のカウントがまたひとつ増える。
「(
……
そろそろカナ)」
通行人の邪魔にならぬよう注意して長い足を組みなおす。ダメージ加工が施されたローライズジーンズを穿いた足はすらりと長く、編み上げブーツを履いてるのも相俟って足の長さが強調されていた。
ベアミドリフのトップスは引き締まった腹部と深い谷間まで大胆に見せ、丈の長さが同じジャケットもまた腹部とたわわに実っている胸部を隠すこと自体放棄している。仕事先では外しているイヤーカフと首元のチョーカーを手癖でいじくり、ふたつに結った髪の毛先を指の腹で揉む。
癖っ毛な髪は毛先に近付くにつれ黒く染まる金髪は東雲の頭髪と真逆であった。似ているようで異なる、異なるようで似ている。リバースの如く裏表がひっくり返っている様をツレサリはひとり頷いた。
「(絶対大丈夫間違いナイ)」
何んとなしに目の前を通り過ぎる人間たちを眺めていた視線をもう一度スマホの画面に落とす。
すると、タイミングよくポコンと待ち合わせ相手からメッセージが飛んできた。如何やらショッピングセンターの中に入った様子。目印になる店名をメッセージで送るなりツレサリの前に壁が出来た。
スマホをズボンのポケットに突っ込み目だけで見上げる。
如何にもな感じの男たちが下卑た笑みを浮かべぐるっとツレサリを囲っていた。
「かっこいいお姉ェさん、今ヒマー?」
「
……
チッ」
苦々しい面でツレサリが舌打ちしようとも男たちは一切怯まず、それどころか絶景かなと云わんばかりにツレサリの胸を見下ろしていた。幾らツレサリが好んでイカつい恰好をしようがしまいが、この手の輩は絶えずへらへら下心丸出しの顔で寄ってくる。
待ち合わせ場所を送った手前、此処から移動するのも面倒だ。むすっと不機嫌な態度を崩さずツレサリが立ち上がる。先程まで見下ろしていた視界が逆転していく光景に男たちから乾いた笑い声が漏れた。
背の高さは東雲マンションで一番高い竹内と殆ど変わらず、何なら厚底ブーツを履いている状態であればツレサリの方が高かった。
身長差を活かして睥睨するツレサリの圧に男たちが怯みだした時、喧騒の中でも難なく聞き取れるとても耳触りの良い声が実に嬉しそうに彼女に掛けられた。
「いたいたー。サリーさんお待たせっと」
「大家さン」
あれだけ殺意に満ちていた気配が嘘のように晴れ渡るツレサリの姿に男たちはたじろぎ、その要因を作った相手の姿を確認すべく一斉に振り返った。
果たして、其処にいたのは真夏の太陽が霞むほど快活な笑みを浮かべている東雲マンションの大家こと東雲がサンダルを鳴らして近付いている最中だった。
人混みの中でも頭ふたつ分出ているツレサリを見付けるのは容易い。だが、ツレサリの周りをろくでもなさそうな輩が囲っているのを気付くなり、東雲が大股でずんずん距離を詰めていく。
「おうおうおう。私の連れに何か用か? あ゛あん?」
メンチを切り男たちを散らそうとする東雲の姿にツレサリの口角が僅かに上がる。
大家が店子を守るのは当たり前だ。そう東雲に言われたが、実際目の当たりにしたら喜ばずにはいられない。
「はヤく行──」
男たちを掻き分け東雲のところに自ら近寄ろうとしたツレサリの耳に聞き捨てならない言葉が入り込む。
「ゲッ、なんだ彼氏持ちかよ」
東雲の態度と服装から性別男と導き出した思考回路にツレサリは東雲より早く怒りの感情が全身を襲った。
オフショルダーとインナーから覗くなめらかで綺麗な鎖骨、慎ましやかな膨らみと淡い谷間が分からないのか。
ホットパンツから伸びる肉付きの良い太腿は? 引き締まったヒップは? 女性らしい細い腕や、夜明けを告げる瞳に宿る強い光を何故男と見間違える?
彼氏=男の方程式が東雲の脳内で構築される前にツレサリは無礼な一言を言った男の肩をギリっと掴み自分と東雲の前から力尽くで退かした。
体幹が全くなっていない男は呆気なく床に転がり、吠え掛かろうと出かかった口汚い言葉を飲み込んだ。
「俺の可愛イ彼女、これ以上侮辱したら分かるナ?」
東雲の隣に立ち彼女の腰を抱き寄せ男たちを睥睨するツレサリの瞳には一切の光も宿っていない。昏く深い黄昏を告げる目に映り込む男たちは一様に身を竦め、情けない悲鳴を上げ二人のもとから逃げていった。
人にぶつかろうが形振り構わず逃げていく光景をツレサリは男たちが見えなくなるまで睨み、完全にいなくなったのを確認してから自分の胸に顔が当たっている東雲を見下ろした。
心なしか胸圧に押され何とも言えない表情を浮かべている東雲にツレサリが小首を傾げる。
「ちょいサリーさんや。首の体勢がしんどいので腰放してくんねえかな」
「うっす」
何とも言えない原因を作っていたのが自分だと分かるやツレサリは東雲の腰に回していた腕を解いた。
首を擦る仕草を見るに大分辛かったのだろう。ツレサリが謝罪の言葉を述べるも、東雲は「いいって」と笑って流した。
「そういや今日似合う服探すんだっけか?」
東雲に言われ本来の目的をポンと思い出したツレサリは、彼女が来る前に目星を付けていた店へ迷わず歩き出し、その隣を東雲はとても楽しそうな顔で一緒に歩いて行った。
今日はサリーが満足できる服を探そう。そう東雲は意気込んでいた。
筈だった。
「なんで私が試着する羽目になってんだ!?」
試着室のカーテンから顔だけ出し叫ぶ東雲を横目にツレサリがハンガーラックに掛けられた衣服を一着一着確認してはスライドさせていき、良さそうな一着を選び腕に掛けていった。
「大体今日サリーさんの服買うのに付き合って、て来たんだけど!?」
「買いマスよ勿論。なので、ハイ」
選んだ服を東雲に渡すツレサリの表情は希薄であるものの、包み隠さず漂っている喜色に東雲があからさまに渋くなる。
「前々から思ってタんスよ。俺と大家さン、似て違う。でモ、それって俺が似合うナら大家さンも似合うってコトじゃないカって」
試着室の隣で佇み話し掛けているツレサリの眼差しが虚空を見遣る。中から東雲の返事は返って来ないが、衣擦れの音が微かに聞こえるのを思うに嫌々着ているのが分かった。
なにせ東雲を上手く言いくるめ試着室に押し込んだツレサリは東雲の服を一切合切預かっているので東雲は着る以外の選択肢が無いのだ。
「~~~~、これで満足かよ」
シャっとカーテンレールが滑る音を立て中から現れた東雲は黒のロングワンピースに身を包み、恥ずかしさからか顔を俯きっぱなしだった。腰に手を当てもじもじしている東雲を見るが、やはりスカート系も十分似合っている。東雲自身のスタイルの良さやポテンシャルの高さを持ってすれば当たり前のことなのだが、ただ本人が似合わないと思っている為、意図的に着ないようにしているとも云える。
実に勿体ない。
「き、着たんだからサリーさんも穿けよなスカートッ!」
「分かってマスって」
柔和な笑みを浮かべたツレサリは東雲に黒のロングワンピースに合わせた黒のブレードキャペリンハットを被せた。
被され上目遣いで見上げる東雲の何処となく不安そうな表情にツレサリは思わず出そうになった言葉を飲み込み、彼女と対になるよう白色の同じ種類のものを買い上げ、いらないと遠慮する東雲の分も購入し彼女に押し付けた。
「今度一緒に着テ何処か行きまセん?」
「~~~気が向いたらな」
少しばかり臍を曲げてしまった東雲の隣、二人揃ってシミラールックで出掛ける姿を思い浮かべ可能であれば今夏中に実現すればいい。ツレサリの夜を告げる瞳が俄かに色めき、そして東雲に気付かれぬ前に瞳を閉じ消していったのだった。
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