不破
2024-03-27 22:36:02
4680文字
Public 空戦
 

#18




 メルゼブルクの都市であるブカレストへ侵攻していたクルクス旅団とサイード軍が、ロゼ・シュタインベルク大将率いるシリウス隊の反撃を受け、撃退されたというニュースを知らせる大型のモニターを横目に、アメリアは帝都ケーニヒスベルクの大通りメインストリートを歩いていた。
 母国であるウィンズレットとは異なる趣の街並みを有する、黒い鋼のメトロポリス。留学の為に訪れたフィレンツェの街並みとも異なる、モダンで機能的な街並み。行き交う車を横目に軍基地を目指す。夕日の差した空を背景にいくつもの摩天楼が聳え立ち、そのいくつもの窓が陽の光を反射している。その中でも一際高い黒い塔。大摩天楼と呼ばれるこの都市の象徴の荘厳さに胸を打たれつつも、端末が目の前に浮かべた光学モニターが表示するシティマップを頼りに目的地である軍基地を目指す。
 戦争が始まり、留学先であったフィレンツェを出てウィンズレットに戻ろうとした矢先、ウィンズレットへ戻るための最後の便に乗ることが出来ず、途方に暮れていたところに声を掛けてくれたメルゼブルクの軍人から連絡があった。送られてきたメッセージは、フィレンツェで聞いた平坦な声によるもので、アストライアのライブのチケットを偶然手に入れてしまい、良ければそのライブを見に来ないかという内容だった。正直、戦時下の帝都を訪れることに躊躇いがなかったわけでは無いが、ライブを行うアーティスト、アストライア・オラクルは憧れだったのだ。自分と同じ歳で歌姫として名を馳せた、そんな奇跡の人物のステージを目の前で見ることが出来る機会を逃す気にもならなかった。
 端末に表示させたアストライアのライブのポスターを眺めながら、到着した軍基地の門を潜った時だった。小柄な体躯に黒いコートを纏った、エメラルドグリーンの瞳と青い色の髪を持つ少女の姿が目に入り、アメリアは手を振った。

「ホワイト!」

「アメリアさん、時間通りです」

「出迎えありがとう! ライアのライブなんて夢みたい!」

 小柄なホワイトの身体を抱きしめ、彼女の肩を掴んだまま笑顔で言う。

「軍で行われる慰問ライブです。民間でのライブとは……

「いいの! どっちにしろ、ライアを生で見られることには変わりないんだから!」

 細かなことを補足しようとするホワイトの言葉を遮って言いながらも、彼女の手を取ったアメリアは「行きましょ!」と告げて走り出した。