渦巻く炎を纏う剣を振り上げ、業火を叩きつけるようにして振り下ろす。しかし、それは鞭のように振るわれる血が阻む。血液だけが別の生き物のようにゆらりと柔軟に動くそれはまるで鋼のような感覚で、剣を握る義手の右腕がびりびりと衝撃に震える。歯噛みしながらもサテライトを後退させ、少し距離を取りながら左手を翳し、その手の平に炎を収束させ、炎弾として放つ。炸裂する爆炎が花を咲かせるが、再び血を壁のように展開したロゼ・シュタインベルクが爆炎を突っ切り、こちらへ急迫しながらも黒いサーベルを振り上げた。
衝撃。金属音が響き渡り、ラザフォードは剣を握る右腕の義手の出力を上げる。前腕部分に内蔵されているエーテルドライヴが火を噴き、握る剣で強引にサーベルを振り払った。
「……なるほど。極東の鉄甲炉心義肢か」
弾かれた衝撃に身を翻してブーツ型のサテライトでスケートをするようにして滑空し、バランスを取るロゼ・シュタインベルクが言う。
極東で発展した医療技術に魔導工学を組み合わせて開発された義肢。インプラント、トランスヒューマニズムと呼ばれる分野の最前線にして1つの到達点とされる技術の結晶だ。大気中のエーテルを用いて回転するエーテルドライヴによって通常の人間が発揮するよりも高い膂力を発揮する事が出来、一部の魔術の媒体や補助器具としても利用される。中には自ら腕や足を棄て、この義肢に付け替えるような者もいるほどらしい。
「右腕も奪われたものの1つだ。復讐は必ず遂げる」
「教皇一族の生き残りが言う事とも思えんな」
「なんとでも言え……!」
ロゼ・シュタインベルクの皮肉に返して言いながら、ラザフォードは剣に纏う炎の火力を上げる。
「燃えろっ! 赫灼の煉獄よ!!」
吠えるようにして叫ぶ詠唱。それに呼応して火力を上げる炎が、剣を握る右腕の義手にまで広がり、身を焼き尽くすかのように燃え盛る。
「在りし日を焼き尽くせ! この血、この骨、魂すら焚べてみせようっ!!」
爆裂する炎。それに押し出されるようにして急加速したラザフォードは、足下のサテライトすら置き去りにして飛び込む。振り上げた剣を炎ごと叩きつけるようにロゼ・シュタインベルクへと振り下ろす。しかし、再び剣山のように伸びてきた血に弾かれ、続く剣山が頬を掠める。まるで目の荒いやすりで削られたような痛みを感じるも、即座に身を翻して剣を真下に向けると、爆裂させた炎の爆風に乗って上昇。ロゼ・シュタインベルクの上を取ると、旋回してきていたサテライトに逆さまに足をつけ、踏み切って急降下する。燃える剣を両手に握り、一直線に振り下ろす。が、それは黒いサーベルに受け止められ、ラザフォードは歯噛みしながらも拮抗した力を押し切ろうと剣を握る両腕に力を込めた。
「……恨みのまま激情に任せて振り下ろす剣か。確かに、重みはあるがな」
言いながら、サーベルを翻してこちらの剣を受け流したロゼ・シュタインベルク。崩した体勢を整え、もう1度襲いかかろうと剣を振り上げた瞬間だった。ブカレストの方角で爆炎が上がる。それは都市の中で上がったものではなく、その周辺の空中で上がったものだった。
「なっ……!?」
『せ、戦闘機部隊が全滅しました! 敵砲兵隊がブカレストに潜伏していたようです!』
「QAGMかっ……!」
響いてきた通信に毒づきながらも、旋回してきたサテライトに両足を着けた。途端に迫る黒いサーベルに目を見開き、すんでの所でその軌道に剣を滑り込ませてサーベルの刃を阻んだが、不意を突かれた衝撃に耐え切れず押し切られ、サテライトから両足を離して空中に投げ出された。
「くっ……!!」
一瞬訪れる浮遊感に体勢を立て直す間もなく、ロゼ・シュタインベルクの血が襲い来る。矢のように伸びてきた血の赤色がラザフォードの身体を貫いた。脇腹を貫いたそれはまるで鉄の杭のように冷たく、続けて右肩、両の足と激痛が続き、食道を這い上がってきた血にえずいた。仰いだ空中に舞う自分の血がロゼ・シュタインベルクの操る血に呑み込まれるのが見え、歯噛みすると同時に自らの背後で炎を爆裂させる。無理矢理に発生させた爆風に煽られるようにして急加速し、ロゼ・シュタインベルクの方へと飛ぶ。
「俺からっ……また奪うのか! これ以上……! 奪われるものか……っ!」
噛み殺すように言いながら加速し、右腕の義手を強引に動かして剣を振り上げる。
「赦すものかっ……!」
咆哮とともに言い放とうとした言葉を遮るように、再び身体を赤色が貫く。鋭く、焼けるような痛みが突き抜け、ラザフォードは意識が遠のくのを感じる。身体中から力が抜け、上体が崩れ落ち、眼前に迫っていたロゼ・シュタインベルクの鋭い目が遠ざかってゆく。轟々と風を切って落下していく感覚の中、追いついてきたサテライトが背中の下へ滑り込むのを感じ、離れていく赤色を霞む目で睨んだ。
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