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氷紀
2024-03-14 14:09:09
6396文字
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とある息子たちの話
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とある脱線息子の抱擁
ゲ謎派生パラレルワールドの〓×6期の👹 『とある~』シリーズの続き。強さと危うさ。
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夜の曇り空の下、ぽかりと街灯の灯る広場で、そのひとは足を止めた。
コンビニからの買い物帰り、そのひとは未だに人混みが辛い僕の為に、必ずそちらの道を通ってくれるんだけど
――
いつもは誰もいない道を、今日は何か怪しい気配が遮っている。
おそらく西洋妖怪だろう。狼が不器用に大人の男の形を真似ているような姿が三つ。体は自動販売機と同じくらいに大きいけれど決して強い相手じゃない、でも今の僕だと、と反射的に考えたところで、肩にふわりと何か着せかけられる感触。
そのひとがパーカーの形に編み直して持っている、ご先祖様の霊毛だ。伸びっぱなしの髪ごと包むように、僕の肩と背中を覆う。
思わず息を呑んだその直後、その人は僕より半歩前に出て、西洋妖怪の方を鋭くにらみ付ける。初めて見る顔だった。
「何の用だ」
限りない警戒を込めた、低い問いかけ。
返答のうめき声は言葉の形をしていない。でも、その声からにじむのは、餌を狙う獣の欲望だけ。もしかするとまともな知能を持っていないのか。
「話、通じそうにないか。
……
これ持ってて」
そのひとは、コンビニの買い物袋を僕の手に預けてきた。僕が戦える状態じゃないのが分かってるんだろう、でも
――
視線を上げた僕に向かって、そのひとは小さく笑った。
「大丈夫」
耳に残ったのは、優しいささやき一つ。
次の瞬間、灰色のTシャツをまとったその人の背中が、左端の一体の懐に飛び込んでいた。速い。
人狼の腹へ真っ直ぐ突き立った拳の軌跡に、微かに青白い光が見える。拳そのものに霊力を込めているのか。一体目はかなりの遠距離まで吹き飛ばされている。
背中側から飛びかかってきた二体目を、身を沈めてかわしきり、その後ろから迫っていた三体目へ足払いを仕掛ける。
鋭い呼気。互いにもつれ合って転倒する人狼二体を踏みつけ、直後、青白い火花が散った。一瞬びくりと体を跳ねさせて、二体はくたりと力を失う。そして遠い距離から身を起こして飛びかかってこようとする最初の一体へ向かって、銃の形に握った右手の指先を突きつけて
――
青白い光が灯る。僕と同じ技。
やっぱり本当に、『鬼太郎』なんだ。
そのひとは二体をかかとの下に踏みつけ、残る一体に霊力の弾丸を向けたまま、冷たい声で言い放った。
「二度と僕らに近づかないなら、殺しはしない。お仲間もナ」
数秒の間。
ためらうようなうめきが聞こえたが、人狼はそのひとではなく僕の方に
――
そう、確かに赤い目は僕の方を見た。餓えた獣の視線。
僕を食う気だ。
背中に冷たいものが走るのと同時に、青白い光が放たれる。革袋が弾けるような音と共に人狼が消し飛び、魂の光だけが明滅して消えた。同時に、下からも青白い光。何かが焦げる匂いがして、転がっていた二体が消し炭と化して崩れた。
こちらも魂の光が抜けて、二つの光がふわりと漂って消える。
消し炭も勝手にさらさら崩れて
――
あの様子だと、あと五分もすればそのあたりの砂と見分けが付かなくなっていることだろう。
ほんの一瞬の出来事だった。
全く同じ技を使っているから、分かる。
動きにも使う霊力にも、おそろしいほど無駄がない。
踏み込みの速度や、体内電気や指鉄砲の威力なんかは、きっと僕もそんなに変わらないだろう。でも、相対した瞬間に敵を見極めて、『ちょうど倒しきれるだけの力』を、最速で完璧に叩き込む技量は
――
そのひとが一体どういう戦いを乗り越えてきたのかを想像して、僕は束の間、絶句した。
「大した奴じゃなくて、良かったよ」
もどってきたそのひとに、僕がややぎこちなく買い物袋を差し出すと、それを受け取る手が途中でぴたりと止まった。
「
……
ごめん。こういうの見るのも、今はちょっときつかったか」
僕は黙って首を横に振った。
こちらの命を狙ってくる妖怪、しかも警告してもなお襲ってくるなら、もう殺すしかない。野生の獣と同じことだ、だからそこはいい。僕が気になったのはそっちじゃない。そのひとが僕と同じかそれ以上に、独りで戦ってきたんだろうってことだ。
たった今目にしたそのひとの技量は、敵を滅ぼすためのものじゃない。味方がアテにならない状態で、自分一人を、できるだけ長く生き残らせる為のものだ。
買い物袋は反対側で持って、僕の手を改めて握ったそのひとの手は、僕と変わらない温度のまま。不意に妖怪に襲われたことなど、いつもの日課をこなしただけのような
――
僕は思わず問いかけた。
「こういうこと、よくあるんですか」
「ここ二、三年くらいは、もうずっとこんな調子。いろいろややこしい事情があって、人間と妖怪より、妖怪同士の方がずっと物騒でサ
……
だから父さんも、早く森に戻ってこい、って言うんだけど」
それ以上話したくはない、という風だった。
でも僕はどうしても気になってしまった。だからアパートへの道を辿りながら、小さく問いを重ねる。
「今の、
……
西洋妖怪ですよね、あれ。狙われてるんですか?」
「そう、幽霊族を食うと強くなれるって話が向こうで出回ってるらしくて。いい迷惑だヨ、本当」
ぼやくような口調だった。
僕の肩に着せかけられたままのパーカーは、袖も通していないのに、僕の体にぴたりと添って離れない。そのひとの意志なのか、ご先祖様の意志なのか
……
両方か。
髪もパーカーの下に覆われたままだ。それで今の僕が、明確に『守られる側』であることに気がついた。その瞬間に湧き上がった感情をどういう言葉にしていいか分からなくなって、僕はただそのひとの手を握りしめる。
「
……
うん?」
「その、ありがとう。守ってくれて」
辛うじてそれだけ口にした。
返答は握り返す手の力と
――
微かに甘い、笑う声だった。
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