ちょち
2024-03-05 20:02:33
1628文字
Public 狂聡
 

狂聡連載5


「うわっテーブル回る系の中華やん!」
 いかにも金持ちしか来店しなさそうな品の良い内装の中華料理店の個室で、聡実は思わず小学生のような歓喜の声を上げた。
 テーブルが回るからといって必ずしも高級店というわけではないのだが、聡実はいわゆる街中華の店か全国チェーン店にしか行ったことがないので、円卓を回転させて料理を取り分けるような本格的な中華料理はテレビでしか見たことがない。
 一発目の感想がそれかいと思って狂児は思わず苦笑したが、こういうのに素直にはしゃいでくれるのは奢り甲斐があるなとも思う。
 いつも聡実は見た目に反して年頃の男子らしい食欲を発揮してくれるので、奢る側としてはまあまあ気持ち良いのだ。
「今日は覚悟してきたからな。メニュー見てもピンと来んかと思て一応コース頼んであるけど、なんか食べたいもんあったら追加で単品頼んでもええよ」
「ええー……
 さすがに珍しく心底嬉しそうな顔でメニューを開いた聡実の顔が、瞬時に引き攣った。
「え。たっか……
「ン?」
 え、わりと狂児には遠慮のない聡実がそんなに引き攣るほどか……?と、さすがの狂児もちょっと寒気がしてメニューを開いてみる。思っていたよりゼロが1個多いようなメニューがそこそこ並んでいた。
「お、おお……これあれやな、ゴチとかに出てくる系の店やん……
「僕もそれ思い出した。この辺のメニューとかで確実にドボンするやつですよね」
 聡実が指差した蟹と貝柱とふかひれのスープなんて一人前で三万以上する。スープて。汁やん!!と声が出そうになるのを狂児はギリギリ耐えた。
 狂児のソワソワした様子に気を使ったのか、聡実もいやコースだけでええですよ……となんだか意気消沈してしまった。
「いや〜〜まあ聡実くんはそんなわざとバカ高いメニュー頼んだりするタイプちゃうんはわかってるし。何十マンも食われたら引くけど、ひとつふたつくらいやったらマジで値段気にせんと頼んでええで」
「うーん……じゃあ、北京ダック」
「北京ダックかあ〜〜!」
「バーミヤンのなんかパチモンみたいなやつしか食べたことないから」
「ええよ、頼むか」
 まあ、北京ダック一羽くらいならまあまあ許容範囲の出費だ。基本的に狂児は聡実からのおねだりは一切突っぱねない主義としている。おねだりしてくれるうちが華だと思っているからだ。
「それだけでええん?」
「あとは、コース食べきって足らんかったらごはん系かデザート頼ませてもらいたいかも……
「ええよええよ、好きなもん食べ」
 やがて続々とコースの料理が運ばれてきた。
 さすがに高級店で緊張気味なのか、聡実もいつもより言葉少なく黙々と口に運んでいる。ただ、合間に「うわ、うま」と小さく呟いたり、ひっそりと紅潮している頬を見ていると本当に美味しいんだろうなとは伝わってくるのが可愛らしく、狂児は食べるのも忘れて見入ってしまっていた。
 それに気付いたのか聡実が手を止めて少し恥ずかしそうに言った。
「ごめん、がっついて。めっちゃ美味しい……
「うんうん、よかった」
 こういう時、心からかわいいなあと思う。だがこの感情が恋愛のそれかと言われると、狂児は肯定は出来ない。聡実のことが好きだし大切だが、だからこそこうやってただ見ているだけの至福の時間で満足していても良いと思っている。ただ抱きたいという気持ちがないわけでもなく、何より聡実が意地や好奇心ではなく純粋に関係性の進展を望んでいるのであればそれを叶えてやりたいという気持ちはあるのだ。
 そんなことをひたすら思い悩みながらのせいなのか、それとも本日の出資者として一口一口の単価が脳裏をよぎるからなのか、聡実が美味しい美味しいと言って頬張っている料理の味も正直あまりわからない。
 いや単に俺がバカ舌やからかもしれんけど王将の方が美味いな……とちょっと思っていたが、さすがにそれは色々な意味で悲しいので黙っておいた。