ちょち
2024-03-04 22:48:30
1902文字
Public 狂聡
 

狂聡つづき(もうタイトルをつける気力をなくした)3


 本棚の上の卓上カレンダーの4月1日に、赤いペンで丸印が書かれている。
 自分で自分の誕生日に印をつけているのもなんだか子供みたいにはしゃいでいる感があって恥ずかしいのだが、一応約束があるから忘れないように印をつけているだけだ。目に入るたびにそう自分に言い聞かせて、なんで僕は僕に言い訳しとんのや、と自嘲するまでが最近の聡実の一連の流れであった。
 そんなカレンダーの丸印をぼんやり見ながら、そうか、僕がひとつ歳とるってことはもう学年も上がるんやなあ、と思う。まだ先ではあるが、大人になるほど年月の経つスピードは上がり、いずれ就職活動も始まってしまう。元々聡実は地元に帰って公務員の路線で考えているのだが、長く住んでいると東の都会の空気にもなんとなく馴染みが出てくるもので東京で働きたいという気持ちも少しは浮かんできたり、あとは選択肢を増やすという意味で司法試験を受けることも少し考えてはいた。まあ、受かる気はしないが。
 投げ出していたスマホからLINEの通知音が鳴った。

『1日の中華予約取れたよ😀』

 なんて返事しようかと考えていると追いメッセージが送られてきた。
『親父のツテで、ホンマは半年先まで予約取れへん店やけどねじ込んだ✌️』
「ええ……ガチやん」
 高級中華が食べたいといったのは聡実自身なのだが、狂児はこういう時無駄に聡実の想像の上を行きがちなのだ。
『店の場所わかりにくいから(隠れ家系ってやつや)、連れて行きます』
『18時に赤坂駅のハリーポッターとこに上がる階段のとこでええ?』
 赤坂あんま行ったことないんよな……と、聡実は昔友達の付き合いで行った時の駅の様子をなんとか思い出していた。ていうか「ハリーポッターのところに上がる階段」って何……
 まあ、行けばわかるだろう。
『いいですよ。わからんかったら電話する』
 OKのスタンプが送られてくる。
『あ、それと』
 なんやろ?と返事を送ろうとした手を止めて、次を待った。
 だが、何か考えているのか、それきりしばらく返事が止まってしまう。
「なんやねん」
 呟いてスマホを投げ出そうとしたところでやっと狂児からのメッセージがきた。
『次の日、なんか用事ある?』
 え、と声に出して、聡実は固まった。
 まだ春休み中で履修登録はもう少し先だし、バイトもないのでまあ、予定は空いている。でもわざわざ聞くということは……だ。
 ちょっと、考えてくれたってことかな。こないだ話したこと。
 そう思うと、急にドキドキしてきた。
 ーー泊まりってことですか?
 一旦打ってはみたものの、さすがに勘違いだったら恥ずかしすぎるな……と気づいて消した。
 えっと。
『とくにないですけど』
 それだけ送ると、少しの間のあとに返事が返ってきた。
『そっか。聡実くんがイヤやなかったら、ハタチの記念やし二次会でちょっと大人向けのバーとかどうかなと思て。聡実くんマジメやから未成年の間マジで酒飲んでなさそうやし、もし潰れたらバイトとか予定があったらドタキャンなってまうやろ、だから一応聞いた😁』
…………!!」
 ああ〜〜〜〜。ですよね!!
 顔が瞬時にカーーッと熱くなるのがわかる。誰も見てないのになんだかキョロキョロしてしまった。
 僕、今、何考えてた!?
 なんだかこれだと抱かれたがっているみたいじゃないか、と勝手に腹を立てる。そーゆーんちゃうし。別に抱かれたいとかやなくて、ただ恋人同士やっていうならいつまでも親戚のおじさん然としてないでそれなりの態度取ってほしいって思ってるだけやし!
 悪いのは全部狂児。狂児が悪い。そう自分に言い聞かせながら聡実は床を転がった。
 ゴロゴロとアホみたいに床を転がっていた聡実が、ふとピタッと止まる。
 ……そっか、でも。
 お酒のせいにすることはできるんや。



「あ〜〜〜〜」
 愛車の運転席で狂児は一人頭を抱えた。
 今のはさすがに下心丸出しやなかったか?
 いや、逆に突き放した感じに見えたかもしれない……。文字のコミュニケーションはオッサンにはどうにも難しくていけない。
 なかなか返ってこない返信に、どんどん不安になる。
 もうあかんなんかフォロー追撃しよう、と文章を考え始めたところで、聡実からOKを意味するかわいいスタンプが届いた。
 文章で返してきてくれないのは単純に若い子だからなのか、それともこちらに何か思うところがあるからなのかは狂児にはわからない。
 それでも、ぶつくさと文句を言いながらでも、聡実はいつも誘えば来てくれる。

 だからこそ狂児は葛藤するのだ。