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ちょち
2024-03-03 23:53:24
1557文字
Public
狂聡
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求め、失うもの(狂聡連載 2)
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ーー僕、そんなに魅力ないですか。
「あー
…………
」
狂児は唸るように言って頭を抱えた。
「アニキ、どうしたんですか? 具合悪いんすか?」
心配そうに声をかける弟分に、え、と顔を上げる。
「声出てた?俺」
「出てましたねえ」
「出てたかー
……
」
魅力がないですかだって?そんなわけない。狂児はもうずっと長いこと、自分の感情を抑えるのに必死だった。
子供扱いが失礼なことも、それに苛立っていることもよくわかっている。それでも、そうしていないと自分を律することが出来ないから。
狂児はヤクザだが、祭林組は基本的にカタギに迷惑をかけるのは破門レベルのご法度とされている地域密着型ヤクザだし、そうでなくとも狂児自身『子供』に手を出さない倫理観くらいは持っていた。彼のことを、本当に『子供』だった頃から知っている。長らく会っていない期間もあったが、気持ちとしてはどこかに親戚のお子さんに近いものがあるというのも、まあある意味では事実だ。
だがそれ以上に、この世で一番愛おしい魂であり、誰にも手渡したくなどないひとでもある。
付き合おか、と言ったのは狂児の方だった。
あるいは冗談半分だったのかもしれない。話の流れで、例によって聡実に冷たい態度を取られて。俺聡実くんのことこんなに好きやのになあ、といつものふざけた調子で言ったら、いつも面倒臭そうにやりすごす聡実が珍しく赤くなって俯いた。
「え?なに、どうしたん」
「ぼくも」
小さな、小さな一言だったが狂児は聞き逃さなかった。
ボーイソプラノは失ったが、それほど低くもならなかった、狂児の好きな甘い可愛い声だ。それが、ぼくも、という三文字を紡ぐ。たまらない気持ちになった。
「ほな、付き合おか」
自然と口をついた。
「ええ
……
」
少し前の様子はどこへやら、もういつも通りの面倒臭そうな声で返される。
「嫌なん」
「なんかそんな、軽い
……
」
「でも、好き同士やったら付き合うやろ、普通」
「そう?そうか
……
そうやなあ」
結構押しに弱いということも、初めて会った時から知っている。
「やった!これで晴れて聡実くんと恋人同士やな」
「コイビト
……
」
聡実は眉間に皺を刻んでまだ何やらブツブ言っていたが、すぐまたいつも通り別の話題へと移っていった。
悪いのは俺やなあ
……
。
恋人同士になれて嬉しかったのは嘘ではないし、それが本当にフリでも冗談でもないのであれば、その先に起こりうるかもしれないこともわかっている。だがどこかで聡実がそれを望んでいないと思いたがっていたのかもしれない。
聡実だってもう大人なのだ。色んな意味で。何も知らないボーイソプラノの少年ではない。
ーーオネーチャンのほうがええですか?
ヤクザになる前の若い頃から、それこそ聡実と知り合ってからも含めて星の数ほど女は抱いた。それなりに愛したつもりだった女もいる。でも、あの少年と出会った日から全部の感情が偽物だったと知ってしまった。
女とのセックスは確かにいっときの快楽と解放をもたらすが、空虚な感情しか伴わない行為はただそれだけだ。だが綺麗事でもなく、そこに愛があろうとなかろうと、むしろ愛があればなおのこと確かな欲がある。抱きたいと思ったことは一度や二度ではない。その程度には自分は俗物だ。ただ欲のまま従って大切なものを壊してしまうことを恐れているに過ぎない。
もとより。少年期の終わりの眩いほどのきらめきを、血と泥で汚れたこの手で握りつぶしてしまった罪悪感がある。
成人しているとはいっても、相手はまだ子供だ。口だけの恋人ごっこならいつでも終わらせられる。
でも、抱いてしまったら。
その先を望む自分の欲がどうなるかも、狂児にはわからなかった。
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