ちょち
2024-02-19 21:32:30
1179文字
Public 狂聡
 

オトナになる日(狂聡連載1)

狂聡
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「僕来月ハタチの誕生日なんですけど」

 不意に切り出すと、狂児はうーんと小さく唸って、天井を見上げ、何故か店内を見渡し、それからようやく聡実のほうを見た。
「そうやったなあ〜」
「なんか他にないんですか?」
「いや、おめでとうって今言うのもおかしいやん」
「まあそれは、そうですけど」
「それに今はもう18から成人やし。成人の祝いって感じでもないやろ」
 聡実は小さくため息をつくと、頭上の無駄に小洒落た集煙機に吸い込まれる煙を見上げた。
「ちょっとええ店行くか?」
「ええ店」
 唐突に切り出された提案に、少しそうじゃないという表情を浮かべつつも聡実が若干目を輝かせる。
「何が食べたい?」
「じゃあ中華で……今までよりもっと高いやつ」
「遠慮ないな」
 クックッと肩を震わせて小さく笑う。時々見る狂児のこの笑い方を聡実はなんだか子供だとバカにされているように感じて不快なのだが、不思議と嫌いではないのだった。
「ええ店って自分で言うたんやん」
「そやな! ほな赤坂の店でも予約しとくか〜。当日で平気か?」
「ええですよ」
 とりあえずは1ヶ月近く先の高級中華よりも目の前の肉だ、と言わんばかりに聡実はパネルを手に取り、当たり前のように黒毛和牛カルビを追加した。
「中華は嬉しいですけど、そうやなくて」
「おん?」
「もう二十歳なんやから、……その、大人の付き合いっていうか……
 あからさまに狂児の目が泳ぐ。意味が通じているであろうことは、察した。
「中学生には手を出さん主義でな」
「いやもうハタチや言うてるやん」
「ハタチの中学生やろ」
「なんて?」
 狂児の言わんとすることはわかる。この男にとって、自分はいつまで経っても出会った頃の『聡実くん』なのだ。
「子供やないですよ、もう」
 わーってるがな、と独り言のように呟いて、狂児は焼き網の上の消し炭になったピーマンをひっくり返した。
「焼肉屋の野菜ってなんでこう……まだ生やな、まだ生やな……まだ生や。アッ焦げた!!って感じになるんやろな」
「そう思うんやったらもうその辺に上げといてくださいよ。いつまで焼いてるんですか」
「聡実くん、肉焦げるで」
 アッ、と先ほどから大事に育てていた肉を慌てて回収する。
「とにかく、わかってると思うけど。考えといてくださいよ」
「何が?」
 さすがに露骨にムカッとした表情を浮かべて、まっすぐに狂児を見据えて聡実が言った。
「僕そんな魅力ないですか」
「え、いや〜……
「オネーチャンの方がええですか、やっぱり」
 そういうことやないねんけど、などとモゴモゴ口籠る狂児を睨みつけ、何の反応も返らないことにさらに腹を立てながらいい感じに焼けた肉を乗せた白飯をほおばる。
 僕ら付き合ってるんやんな?という言葉は、何故か白飯と一緒に飲み込んだ。