ツキシキ
2024-02-25 12:44:48
6104文字
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★雑多夢まとめ

2作品。キャラ×モブまたは主人公。pkmnピニャアオ(女主)、金カ夢ogt。


DJ悪事の純粋異性交遊


 おじいさんもお姉さんも、もちろん私と同世代の子達も。この学園の扉は色んな人に開かれて、好きなように進む道を選ぶことができる。だからこそ、学園が成り立つにはある程度のルールが必要だ。そこには多分、暗黙の了解、なんていうのも含まれている。
 ……繊細にグレーと白で彩られた境界線を、わざわざここにありますと明言してしまうのは、なかなかに緊張する。



 ちらりと横目で隣のピーニャくんに視線を向ける。彼はPCのキーを弄る指先を止めて、首を傾げてみせた。

「どうかした?」

 こういう察しの良さが面倒見の良さに繋がるんだろうなあ、と。聞き慣れた曲の大好きなサビを耳にした時のように、あたたかな納得が込み上げる。

「大したことじゃないんだけど……ちょっと話して大丈夫?」
「断るわけないっしょ! 何かな?」

 ピーニャくんの問いかけはいつも柔らかい。ときめき、と呼ぶにはより安心に近い響き。そこに揺蕩っていたい気持ちを押さえて、私は努めて決意を持って口を開く。

「DJ悪事からしたら、異性交遊ってどう?」

 地味に、言葉選びを気を付けた。「ピーニャくんは」なんて名指ししちゃったら、なんだかあからさまで照れるしし。「生徒会長さんは」なんて言い方をして、役職通り格式ばったNOを出されても困るし。考えすぎかもしれないけれど、恋する人間の脳内なんて八割考えすぎで出来ているに決まっているからいいのだ。
 ピーニャくんは、首を傾げたままできょとんとした顔になる。

「ヘッドに不純がつくならバッドだけど、普通に仲良しならイイんじゃないかな」

 背中に隠した片手でグッと歓喜の拳を作る。予想よりもはるかに前向きな答えだ。これは良い。これなら、いける。かもしれない!

「ピーニャくん!」
「はい!」

 呼びかければ元気な応答が返ってくる。折り目正しい彼に、私はさっと手を差し出した。

「手を繋ごう!」
「おっ、いいよ!」

 軽快な返事。組み交わされる手のひら。感触を確かめるように、何度か上下に振られる私たちの手。
 ……なんだか違うな?
 一通りシェイクハンズして、互いの手はするりと解かれる。そうして空いた手でピーニャくんはサムズアップを決めてくれた。

「なんかよくわかんないけど、今日もナイスだよ」

 笑顔が眩しい。好きだ。手のひらおっきかった。ドキドキする。ひゃー。

 ……でも私の期待した流れとは違う!
 私は再び拳を握り、バッと立ち上がる。確かに、さっきは私の空気づくりが悪かった。というか、そういうなんだか甘い雰囲気をどう醸し出せばいいのかもわからなかった。けれどもこうなれば、真正面からぶつかるしかない。
 私の心の中のブロロロームがエンジンを吹かしてぶんぶん唸る。シンプルに、緊張しすぎて、勢い余ってると、わかってるけど止められない。
 勢い任せにいかなきゃ、照れてたって何にもできないままだ!

「スタンダップ!」
「ライヴスタート?」

 ピーニャくんはどこか嬉しそうに立ち上がると、ノートパソコンを片手に持ち上げる普段のスタイルを取ろうとした。確かに彼のBGMは魅力的だし、今、暴走しつつある私の気持ちにもぴったりなメロディアスラインを奏でてくれることだろう。
 でも、やっぱりここもまた違う。
 私は手振りでピーニャくんを止めると、大きく両腕を開いてみせた。

「ハグは! 異性交遊に! 含まれ……ます…………!」

 語尾は情けなくエンストを起こして、宙ぶらりん。だめだ、絶対もっと他に何か言い方があった。だいたい握手がダメならハグってさすがに。いやでも、意識してもらうためならオッケー? それにしてもやりすぎ? ハグも仲良しの挨拶ってことにならないかな。ただそうなるとピーニャくんは他の子ともハグするってことになって、ああ、また考えすぎてる気がする……
 顔面がひのこを点されたかのように火照って、思わず視線を下げてしまう。
 だから、影に気づいたのが先だった。

……失礼します!」

 視界に影が落ちたと思っていたら、気づけば、もう、そこにいた。職員室へ入る時のような礼儀正しい掛け声。ただ、入るのは私の懐……ううん、むしろ私がピーニャくんの懐へ入り込むような格好になっている。

(う、わ)

 もう熱は顔面どころの騒ぎじゃない。全身がどくどくと脈打って、特に胸元で、内側からの爆音が痛いくらいだった。ピーニャくんに顔を見られない体勢なのは良かったけど、一方で、二人の距離はゼロにほぼ近いと気付かされてしまう。

……こういう、感じ?」

 ピーニャくんの声は上ずっていた、と、思う。私も「うん」と言ったつもりだけど、「ぇあ」みたいな声しか出てなかった気がする。指摘されなかったから、セーフ。たぶん。
 広げたまま固まっていた自分の腕を、ぎちぎちと曲げて、ピーニャくんの背中の辺りでぎこちなく浮かせる。どこに腕をセットしたらいいのか、わからなかった。触れたってかまわないくらいの距離にいるはずなのに。
 ピーニャくんもまた、慎重に、私の背へ触れるか触れないかの位置でそっと腕を回しているようだった。人の肌というのは不思議なもので、別に見ているわけでもなければ触れられたわけでもないのに、どことなくそこに自分以外の存在を感じる。背中に高感度のセンサーがついたみたいだ。

「キミ相手に、」

 ピーニャくんがぼそりと呟く。私宛なのかもわからない、それでも確かに聞こえる声量で。

「ただの交遊でいるのは、ムリかも。ガチの悪になっちゃったりして」
「わ、わたし、も。あくタイプ極めちゃったりして。あはは……
「それは……

 何かを続けようとした気配だけを残して、言葉は宙に溶ける。
 お互いの声すら、自分の鼓動の音でかき消されそうだった。落ち着こうと深呼吸したら、嗅ぎ慣れない良い匂いがして、いっそう動揺した。だってこれ、多分ピーニャくんの匂いで、すごくすごく近くじゃないとわからないはずの、でももう私たちはそんな距離にいる。

 思い切り踏んだはずのアクセルは、蛇行の末に収まった。
 じゃあ、この先は?

 お伺いを立てる先は、もう目の前の相手しかいない。私は意を決して顔を上げ、

「ピーニャく……ふぎゃ!」

 決意は鼻先でくじかれた。具体的には、ピーニャくんの肩にかけられていたヘッドホンによって。そっか、ハグする時ってこういうのも気を付けないとなんだ。一つ勉強になっちゃったな、なんて……

「うわごめん!」
「ううん、大丈夫……

 ピーニャくんは慌ててヘッドホンを外し、私はつい鼻先を撫でる。そうして自然と距離は開けば、先ほどまでの濃密な雰囲気は、隙間からさっと逃げ出してしまっていた。
 どちらからともなく、ちらりと相手をうかがう。目が合って、にへらと笑う。

「なんか……なんか、だね!」
「まあでもあれだ、あの、ボクらっぽさ出てたっしょ? みたいな?」

 お互いが何を何とも言わないままで、相槌めいた言葉を繰り返す。ふわっふわの会話にしかならないのは許してほしい。だって私の血の巡りは脳に行くどころか心臓を動かすのに精いっぱいで、今もなお、後奏とばかりに体中をドクドク言わせているのだから。
 色々なものに耐えかねた私は、ついに、一つの軽率な解を叩き出す。

「じゃあ、オチもついたところで……作業の邪魔してごめんねっ、続きどうぞ! じゃっ!」

 早口で、早足に、早鐘を打つ胸元を押さえながら。私は照れに負けてその場を退散したのだった。


 ◆◆◆


 ライヴの中座は基本的に御法度だ。
 けれどもあの行為は、ライヴでもなく、かといって少なくとも友人間の行為とも呼び難かった。少なくとも、ピーニャにとっては。
 ピーニャは相手の背中を見送ると、どさっと腰を下ろす。追いかけるつもりはなかった。捕らえたところで、何を言えばいいのかも思いつかない。ライムを生きがいにする彼にしては、ひどく珍しいことだ。
 しばらく操作をしていなかったパソコンの画面は暗転し、反射でピーニャの顔を映し出している。緩みまくった口角と、おそらくは真っ赤になっているであろう、恋に熱した表情を。
 見るのも恥ずかしいとばかりに、パタン、とノートパソコンは閉じられる。さらにピーニャはキャップを深く被り、両腕を机に投げ出して、思い切り顔を伏せた。こんな姿勢を取るのもまた、ピーニャにしては珍しいことだった。

……ボクのハートはオーバーヒート。作業なんて、できるわけないっしょ」

 規律正しく伸びる彼の背を、ふにゃふにゃにさせてしまうのはあの子だけ。グレーなはずの行為も、まっさらでピュアな好意だと主張したくなってしまう。
 すっかりハイになった心臓のビートは、自分を戒めているのか鼓舞しているのか。ピーニャには判断がつきそうにもなかった。



 ~END~