鹿
2023-12-31 15:20:02
4366文字
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里帰らない

2023クリスマスイベントで初めて知ったサーヴァントの里帰りという概念について考えてたらぐだ鯖がわちゃわちゃしてる文章になった



 ボイラー室横が旅行の計画で賑わっている頃、そのほど近くで、まるで別世界のように、しんとした部屋がある。
 そこは、件の旅行の風習のはじまりである、新選組副長土方歳三の私室であった。しかし部屋の主は外の喧騒など素知らぬ顔で文机に向かい、戦闘記録を読んでいる。その背後には三番隊隊長、斎藤一が静かに佇んでいた。
「副長、今年の行き先、決定したみたいですよ」
「ああ、今年は永倉の担当だったな」
「ええ、小樽だそうです」
「そうか…………
「あの辺は庭みたいなもんだとか言ってやがって。総長がいなきゃしおりも作れねえくせに」
「山南も喜んで手伝ってんだろうから別にいいだろ。しかしまあ、お前の時は会津、俺と沖田は箱館に京都、冬に行くようなとこじゃねえって土地ばっかりだな」
「はは、確かに。まあでも、僕らの所縁の場所って言ったら…………うん、その辺でしょう」
………………いいのか」
「言わんでいることをわざわざ掘り返すのはやめましょうや。あの馬鹿じゃあるまいし」
「ああ……だが、そういうところに、助けられてはいるだろ。お前も」
「そうだとしても、不愉快なもんは不愉快なんです」
「相変わらずだなお前らは……まあ、永倉のことだ。そのうち気になって聞きにくるかもな」
「やめてくださいよ。あいつ本当に馬鹿だから、予想通りに来たりするんですよ」
 ちょうどそのタイミングで部屋の呼び出し音が鳴った。モニターを確認すれば、そこにいるのは全く何一つ予想と違わぬ昔馴染みの顔。うんざりしながら斎藤は扉を開ける。
……――、なあ土方、旅行の件なんだが……って斎藤ォ⁉︎なんでテメェここに!」
「あ゛? いちゃ悪いかよ、聞かれたらまずい話でもすんのか?」
「い、いやあ、そういうんじゃなくてよ、なんつうか……
 気性に似合わぬもごもごとした物言いに、斎藤の気分は苛立つばかりであった。
「話す内容思い出せないんなら帰りな耄碌ジジイ」
「だぁーれがジジイだコラァ! そうじゃねえ、儂はただ……里帰りってんなら、その、行きたいところというか、行くべきところが……
「あ――ーやだやだ。本当に想像通りのこと言うやつがあるかよ、捻りの無えやつ」
「なんっなんだよ斎藤テメェはよ! 第一儂は土方に聞きに……!」
 生前とまるで変わらぬいがみ合いを、土方は静かに聞き、やがて平然と、ただ一言告げる。
「お前が選んだ土地だろ。それでいい」
「だ、だけどよぉ……俺たちの、新選組の故郷っていや、それは」
「副長がいいつったのが聞こえねえか? 耳も遠くなったか。年寄りはさっさと帰って寝て朝四時に目ぇ醒ましてろ」
「だ! か! ら! なんでテメェがしゃしゃって来やがんだ斎藤コラ! 表に出ろこの若作り野郎が!」
「上等だよ! 言わなくていいことしか喋れねえ舌、今度こそ斬り落としてやろうか!」
 吠えあう二頭の老犬の声を聞きながら、土方はただ虚空を見つめていた。
 その目にかつてあった故郷が映ることがあるのか、知るものは無い。