鹿
2023-12-31 15:20:02
4366文字
Public
 

里帰らない

2023クリスマスイベントで初めて知ったサーヴァントの里帰りという概念について考えてたらぐだ鯖がわちゃわちゃしてる文章になった

「里帰り、だぁ?」
 御陵衛士伊東甲子太郎が今川義元の皮を被った今川氏真に仕えて空飛ぶスーパー五稜郭を川中島に落とそうとした事件をきっかけに、永倉新八をはじめとした新たなぐだぐだサーヴァントが人理保障機関カルデアに乗り込んだのも束の間。今のシーズンは、サーヴァントたちがこぞって冬休みに入る期間なのだという。
「霊基の修復になるんだそうだよ。サーヴァントという身になっても、故郷の土には心安らぐものがあるらしいね」
「こんな真っ白になっててもかよ? よくわかんねえなあ」
 頭をかきながらぼやく永倉に、山南は昔と変わらぬ柔らかな笑みで答える。
「まあ確かに、効果のほどは人それぞれだろうね。それで、永倉くんにお願いしたいことがあるんだ」
「おう、俺ぁ仕事だって聞いて茶室ここに来たんだぜ? なのになんで休暇の話……
「まず、旅のしおりを作って欲しいんだ」
……なんだって?」
 第一再臨の姿をとっているとはいえ、耳は遠くない(と永倉自身は思っている)。聞き返したのは、馴染みのない単語であったせいだ。
「しおりには里帰りの行き先とスケジュール及び休憩ポイントの座標は最低限載せてほしい。自由時間の設定と持ち込み可能な私物の範囲も。それと希望者分のお弁当を厨房へ発注する作業があって……あ、経費は坂本くんと利休さんが管理してるから、申請は忘れずにね」
 サーヴァントは現代で活動するのに支障がないよう、聖杯から知識が与えられる。山南の説明と同時に流れ込んでくるそれらによって、永倉はようやく自分に与えられた『仕事』がなんなのか気づいた。
「社員旅行の幹事じゃね――か⁉︎」
「そうなんだ、申し訳ない。けれどこれはボイラー室横ぐだぐだの新人に課された使命で……
 山南に説明を任せ、こたつでみかんをつまんでいた面々も、ここに至って次々口を出しはじめた。
「幹事殿! おやつはいくら分まで許可がおりるでありますか⁉︎」
「それよりまず酒じゃ! まさか去年みたいに、持ち込み禁止なんちゅうしみったれたこと言うつもりやないろうな⁉︎」
「おやおや、この利休の差配にご不満が……岡田様、少々お話よろしゅうございますか?」
『利休様ときたら、自分の仕切る旅行で泥酔者なんて許しませぬと息巻いて。あのしおりの細かさは駒もドン引きでした』
「いやいやあれはダーオカが悪いですよ。その前が坂本さん幹事の年で、散々やらかしてまして……
「お茶も利休プロデュース弁当も美味しかったし茶々は結構好きだったかも!」
「それより毎年言ってるが、支給のテントの寝心地悪すぎるのどうにかならないのか? 姉上もあれで寝るんだぞ?」
 あちこちから起こる要望の数々に、永倉は頭を抱える。このまるでまとまりのない連中を引き連れた旅行の差配をせよとは。いくら生前は隊長職についていたとはいえ、厳しすぎる要求ではないだろうか。
「おい爺さん、バイク持ち込ませろよ! カルデアじゃ思う存分カッ飛ばせなくてイライラしてたとこだったんだ!」
「どこまで行く気だ! というか、もしやこいつが行方不明にでもなったら探しに行くのは……
「幹事の仕事だね……残念ながら……
「いーじゃねーか、今年は幹事に足があるんだしよ! なあ信玄入道!」
「俺の黒雲を足扱いとは良い度胸だな森の小僧……? ちょうどいい、甲斐は『行ったばっかじゃん』の一言で行き先候補にもならなかった鬱憤もついでに晴らしてやるとするか」
「あははは! よろしい、童のヤンチャに付き合ってやるも一興! 白紙化地球でルール無用の百六十八時間耐久サバイバルレースと参りましょう!」
 永倉が先の特異点で世話になった武田晴信は、カルデアでは同期の新人という立場であるため、この混沌とした集団をなんとか納めてくれはしないかと期待していたのだが……そう甘くはないようだ。
 一向にまとまる気配のない騒ぎを目にして、永倉はこの「旅行」についての根本的な疑問を口にせざるを得なかった。
……つうかよ、そもそも馴染みの土地で霊基の修復が目的なんだろ? こんなバラバラの出自のやつらが集団で行っても……
「私はむしろありがたい。帰る土地なんて思いつかなかったから。小さい頃に人買いに連れ去られて生まれた土地のことよく覚えてないし、孫市に拾われてからは雑賀の仕事で転々としてたし」
「お、おう……
 さらりと重い過去を言ってのけるのは、こちらも同期の新人雑賀孫一。確かに人によっては帰る場所などない者もいるのは当然で、永倉は言葉を濁すしかなかった。
「私も生前は巡業と妖退治で旅から旅への生活でございましたしねえ。むしろあちこち動き回っている方が落ち着くというか」
「もうちょっと座標がはっきりすれば邪馬台国も行き先候補になれますかね?」
「あたしたちも里帰りできたらいいわよねー、邪馬台国は新選組のみんなにとっても故郷と言って過言じゃないし。まあ人類史的には場所がわからない扱いらしいからしょうがないけど」
「わかるであります、蘭丸もそうそう里帰りはできぬ身でありますから。この星の航行技術がもっと発達していれば、皆様に蘭丸星をご案内するのもやぶさかではないのでありますが……
 永倉には度し難い理由によって里帰りできない面々の声を聞くと、ますます何の声もあげられなくなってしまった。助けを求めるように昔馴染みの顔を見ても、もう諦めて受け入れましょうという風情の笑顔を向けられるだけである。
 そんな中聞こえてきたのは、昔馴染みのうちの一人のようでいて、まるで違う雰囲気の声だった。
「私も初めてその制度を聞いた時は、どこに帰ったらいいのかわからないな、と思っていたんだが」
 魔神だかオルタナティブだか、とにかく永倉には到底理解できない呼ばれ方の、沖田総司のもしもの可能性の姿であった。
「けど土方が、『わかんねえならどこに行ってもいいだろ』と言って私を連れ出してくれたんだ。それでキャンプ地で『ここを屯所とする』と宣言して……
「ああそういえば、怖い顔マンがオルタちゃん連れて京都と、あと箱館だっけ? 行ったのが最初だったし」
…………そうか……土方が……
 オルタの口にした名は、これもまた永倉の昔馴染みのひとり。組織のためにとひたすら修羅のような在り方を貫いたはずの男。
 その男が、戦闘においてさしたる利益の見込めぬこの企画の発案者だという。永倉は、この旅行の話をしている時の山南の顔が、困っているようでいて、その実ずっと笑顔であった理由がわかるような気がしていた。
「そうそう、せっかくだからと僕らも参加させてもらって。北は北海道、南は土佐までの弾丸ツアーになったんだったね。お竜さんには感謝してもしきれないな」
「リョーマの頼みでも、何人も運んでやるなんて年に一度あるかないかだ。感謝するといいぞ人間」
 そこから部屋の面々は、これまでの旅行の思い出を語る流れになった。今年の幹事の苦労など知ったことではなさげな盛りあがりように、勝手な連中だと思いながらも、永倉の心は幹事の職を全うする方向に固まりつつあった。
「ま、お竜を全開で飛び回らせたせいで電力の過剰使用って言われて、全員反省文書かされたんじゃけどな! 是非も無いネ!」
「そうそう! それで旅の計画書しおりを事前に提出しなくちゃいけなくなったんですよね!」
「しおり、そういう経緯だったのかよ⁉︎」
 しかし覚悟を固めたところで、この面々で行く旅行がどれだけ混沌を極めるかは、言うまでもないことである。