【ジナ風】私だって欲しい

VTネタでほんのり👩‍🎨☄️のお話。組織女子メンバーでのお菓子作り話ともいう。
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「それじゃあ、皆さん張り切って作りましょー!」
「おーっ」
「初めてのことだが、心してかかろうじゃないの」
「(どうして、こうなった──!!)」
ピカピカに磨かれた銀色の厨房。その中心で風子にイチコ、友才がとても楽し気に拳を掲げる傍らひとりだけ目元を手で覆い、それでも弱々しく目元を覆っていない方の拳を上げているジーナは胸中叫んでいた。
ちらり指の隙間からジーナが風子の様子を窺う。彼女の周りから発せられている喜びと嬉しさが小さな花々となって舞っている光景を見るなりジーナは気付かれぬよう溜息を零した。
「(本当は風子ちゃんと二人っきりで作って本命を貰う計画がァ~)」
別に皆と一緒にバレンタインデーのお菓子を作るのが嫌なわけではない。むしろジーナ本人風子と二人っきりで作り終わり次第誘う気でいた。いたのだが、何分集合が速すぎた。厨房に行く短い距離の間、イチコと鉢合わせただけではなく、何たる偶然か運動場で体を動かした帰り道な友才とも出くわしてしまった。
そして、二人と顔を見合わせるなり嬉々として風子は、これから何をするのかを二人に話すだけではなく誘ったので、ジーナ苦笑を浮かべ予定より大分早く二人を誘う他なかった。
ちなみにメイとムイも後から合流予定である。
当初思い描いていた風子をそれとなくジーナはバレンタインデーのお菓子を作ろうと誘い、あわよくば彼女が作る本命をいの一番に貰う気満々でいたのがものの見事にご破算だ。
「(まあ、楽しいそうならいいけどさ)」
友才に砕いてもらったチョコレートとバターを湯せんに掛け溶かすジーナの視線の先、今度はクルミの殻を砕いていく友才の隣で雑談を交えながら風子が丁寧に他のアーモンドと一緒に鉄板の上へと並べていき、熱せられたオーブンの中に入れローストされていく様を二人仲睦まじく並んで眺めている。

「おや? お邪魔だったかな?」
そんな少々拗ねてしまっているジーナの隣で小麦粉を篩にかけているイチコがオーブン前にいる二人に聞こえない声量で問い掛けた。
顔は湯せんしている手元から逸らさず、目線だけをイチコに向けたジーナが特徴的な八重歯を覗かせつつ笑った。
「全~然。順番がちょっと変わっただけで全く問題なし!」
「それなら良かった」
和らぐ雰囲気にイチコも笑い、篩い終わった小麦粉入りのボールを少しだけ端に寄せるなり、何処からともなく「よいっせ」と麻袋を作業テーブルの上に置いた。袋に描かれている文字とイラストから推測するに──。
「コーヒー豆?」
「ピンポーン」
「これもブラウニーに入れるの?」
「あー。違う違う」
オーブンの前で眺め待っていた風子と友才のところにメイとムイが合流するのを視界に入れながらイチコは続ける。
「これはニコ専用の」
「専用?」
「皆とはナッツ入りのブラウニー作るけど……、それとは違う専用のものを作って特別感出したくない?」
前髪に隠れていてイチコの目は見えないが、口元をニヤりとつり上げている様から容易にジーナは彼女の目が子供が悪戯をするような企みに満ちているのが窺えた。
「それいい! 私もやりたい!」
「じゃあ決まりね。おーい、皆集合ー」
オーブン前でわいのわいのしている四人を呼ぶイチコが子供たちを呼ぶ保育士さんよろしく手招き、そんな彼女に呼ばれ四人揃って顔を見合わせてから、わらわらとイチコとジーナの傍に集まっていった。
そして、イチコの提案を聞くなり思うところがある者たちは目を爛々と輝かせ、滲み出る感情を必死に顔には出さぬまいと彼女ら的には抑え込んでいた。
だが、幸福に溢れた優しい気持ちは抑えきれず厨房を満たしていったのだった。



ナッツ入りブラウニーが焼けて来るのに合わせ香る甘い匂い。友才は焼けていく様を透明なガラス越しから眺め続け、後方から感じる実に穏やかでいて微笑ましい雰囲気に顔を綻ばせた。
あれがいいだろうか、それともこちらが好ましいか。各々誰かを想い、真剣に真心を込めお菓子を作る光景はとてもあたたかだった。
「風子ちゃん何作ってるの?」
「私はクッキーかな。ジーナちゃんは?」
「私はね! フリーズドライ苺のホワイトチョコレート掛け! 美味しそうでしょ!」
見て見て、と。幾つか出来上がった白くてまん丸なチョコレートをジーナが見せれば、風子はすごいすごいとその場で小さくはしゃぎ飛び跳ねる。そんな風子にジーナが嬉しさから顔が緩み、何となく彼女の手元を見れば大きなロケットのかたちをした生地が鉄板の上に鎮座している。
「(これ、フィルに渡すやつだ)」
一発で分かる見た目。されど、風子にとっての特別──、本命感が感じられない。
ならば、ここで仕掛けると云わんばかりにジーナの目が光る。
「ねえ、私風子ちゃん専用の作ってるんだけど……風子ちゃんってさ、私だけのやつ……作ってくれてたりする?」
期待を込めた眼差しでジーナが風子を見遣れば、風子の瞳に咲き開く花が彼女の心を物語る。
「もちろん! 実はさっき焼き上がったのがそうなんだ」
「ほんと!? 見せて見せて!」
ほんの少しばかり勿体ぶる風子にジーナは見せて見せてと強請りじゃれ付いた。
そして、粗熱を取るために網の上に乗せられているクッキーを指差す風子に今度はジーナの瞳が瞬いた。
「(ハート型! しかも真っ赤なジャム付き!!)」
艶やかな深紅の色が描くかたちに思わず、ジーナの胸中が非常に騒がしくなり、何なら脳内もお祭り騒ぎと化した。これはもう今すぐ自分も用意した風子専用特別仕様なチョコを渡すしかない。
ジーナは自身の昂った感情を胸の前に手を置き落ち着かせ、ついで緩やかに目を閉じ自身の今までの行いに賛辞の言葉をありったけ送った。
が、ジーナは念には念を入れ風子に訊いてみた。
「風子ちゃんってその、私以外に、特別なの作ってたりしない? あ、フィルは別として」
「よくフィルくんのも分かったね? うん、ジーナちゃんとフィルくんだけ、」

「あれー? そいつとは別にさっきの本命チックなやつは私の見間違いかな?」
イチコの半ばからかったような口ぶりに今の今まで多幸感に満ちていたジーナの体から熱が引き、代わりに風子の顔とは言わず首元や耳に至るまで露出している肌全てが真っ赤に染まった。
「ふーうーこーちゃーん……?」
地獄の底から這い出るような低い声で呼ぶジーナを風子は直視できず目を泳がせっぱなしだ。
「あ、いや、その──。イチコさんっ!」
にじり寄るジーナにあわわと手を振り誤魔化そうにも詰め寄る彼女に風子は事の発端になったイチコに向かって叫び、……厨房内での追いかけっこが始まった。
黒髪を靡かせ器用に厨房内を逃げ回るイチコ。それを追う真っ赤な風子、更にはその彼女のあとをもの凄い形相になっているジーナが追う。
三人が厨房内を駆け回るたび、メイとムイは調理器具や折角出来上がったお菓子たちが巻き込まれないよう守り、友才はその追いかけっこを楽し気に眺めては瓢箪に入れた酒を煽った。



「結局、本命チックなやつとそれを誰に渡そうとしているのか分からなかった……
風子ちゃんのいけず。不満げに唇を尖らせたジーナだったが、皆で作ったブラウニーと自分が作ったフリーズドライ苺のホワイトチョコレート掛けそれぞれをラッピングに包んだのを籠に詰めていき──。
「ま、日頃そこそこ頑張ってるからね」
一袋だけオランジェットを包んだものを籠の底にそっと隠すように入れたのだった。