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豆炭々炬燵
3498文字
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アンデッドアンラック
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【フィル風】ボクにとっての特別
VTネタでやんわり🚀☄️のお話。きもーちションジナも入っております。
次のお話→
https://privatter.me/page/65be3d61d0141
とある日のイベントは菓子業界の陰謀により産まれし悪夢みたいなもんだ。
絶望に打ちひしがれ力なく隣を俯き歩くショーンの嘆きを両手から溢れんばかりにバレンタインデーのチョコやお菓子を抱え持つフィルは澄み切った瞳で見上げていた。
「
………
」
そもそも朝から浮ついた気持ちを隠さずフィルの部屋に来たショーンは此処まで気落ちしていなかった。
「フィル! ちょっと組織内散歩しようぜ!」
いつになくビシっと決めた格好、事あるごとに帽子を脱いでは被り直し、誰かが来る気配を察するなり流し目で見遣る。顔の角度にもこだわりがあるらしくショーンがポーズを取るのをフィルは無言で拍手を送っていた。
そんな時、廊下の曲がり角から聞こえる華やかな話し声を耳ざとくショーンが拾う。瞬時に鋭くなるショーンの眼光が曲がり角から現れた女性職員を捉えるなり、彼の中にある役者スイッチが勢いよく押された。
廊下の壁に背中を預け、気だるげな視線に分かっていると云わんばかりの色が宿る。さらに極めつけは普段よりも意識して深みのある声を舌先に乗せ、考えに考えたであろう台詞を綴った。
「フッ
……
、オレによ、」
「あっ。いたいたフィルくーん」
「良かったらこれ貰ってー」
「今日もかわいいー」
きゃあきゃあ振りまかれる黄色い声は全てフィルに向けられ、女性職員たちは壁と同化もとい姿を消したショーンのことを文字通り目もくれなかった。
小洒落た小さな紙袋や綺麗にラッピングが施されたお菓子を落とさぬよう片手で抱えたフィルはくれた女性職員たちが見えなくなるまで手を振り、女性職員たちもまた微笑まし気に彼に向かって手を振っていた。
「フフッ。オレが魅力的すぎて恥ずかしくなっちまったか」
ショーンが鼻の下を人差し指で擦り強がっているものの、その目には薄っすら涙が浮かび照明の光を受けキラリと光る。幸いにも両眼を閉じているため、ショーンの恰好が付かない姿はフィルには見えず、無垢な瞳は消えてしまった彼がいた場所をじーっと眺めるだけで済んでいる。
鼻を啜り涙を拭って気持ちを切り替えたショーンは、このあともフィルを引き連れ組織内を練り歩いた。練り歩いたのだが、出会う女性職員たちは悉くフィルにだけバレンタインデーのお菓子を渡すお陰で小さな彼の腕は甘い菓子でいっぱいになり、最終的には大きな紙袋を抱えるまでになった。
「うっそだろオイ
……
。なんで、フィルばっか貰ってんだよ
……
」
フィルの想定外すぎる貰いっぷりにショーンがショックから背を曲げ、だらりと伸ばした両腕が歩くのに合わせ左右に揺れる。見下ろした先に見える無機質な廊下の床。朝方の自分のお気楽さをショーンは嘲笑した。
此処までくれば渡してくれるチョコの意味合いなぞ関係ない。当初「本命を貰ったら困っちまうぜ」や「沢山貰い過ぎて両手から溢れ返ったらどうすっかなあ」などと、脳内を埋め尽くしていた甘い考えはそのままの意味合いになった。
せめて一個、一個だけでも欲しい。あ、出来れば複数個貰ってみたい、なんてまだ期待を捨てきれていないショーンの耳が聞きなれた声を拾う。
やおら顔だけ上げれば、パッと明るい笑みを向け「やっと見つけたー」と駆け寄ってくる姿にショーンの目に光が諸手を挙げ帰還した。
右手を軽く上げにっかり笑う風子と胸を張りしたり顔をしているジーナをショーンとフィルが出迎える。風子とジーナの左腕にはお揃いの籠を下げ、その中には色とりどりのラッピングされた可愛らしいチョコレート色の菓子たちがお澄まし顔で見上げている。仄かに漂う香しい甘い匂いは夢でも幻でもない。
「はいっ、円卓女子メンバー合同で作ったブラウニー。ありがたくもらいなさい」
恭しくブラウニーを受け取るショーンにジーナが「うむ」と頷く隣、フィルもまた腰を屈め視線の高さを合わせた風子からブラウニーを受け取るもとい、紙袋の中に入れてもらっていた。
「わあっ。フィルくん沢山貰ったね」
大きな紙袋の影から顔を覗かせるフィルに微笑みかける風子。その柔らかな眼差しが大きな新緑色の瞳に映り込み、彼は抱えている紙袋からお菓子が零れぬよう気を付けつつ頷いた。
「また増えちゃうけど、これも貰ってくれるかな?」
風子の言葉にフィルが首を傾げれば、籠の中から一際大きいサイズにラッピングされたものが彼の目の前に差し出された。透明なフィルム越しに見えるロケットのかたちをした大きなクッキーと小さな星型のクッキーたちが期待に満ちた顔でフィルに挨拶をする。
「フィルくん用の特別、だよっ」
見ている方まで顔が綻ぶほどの満面の笑みを風子は浮かべるが、≪不感≫の否定者であるフィルは無表情のまま受け止めた。それでも風子は気にせず笑みを向け続け、その様子を隣にいるショーンとジーナも優し気な眼差しを向けていた。
心温まるサプライズ。決して割らぬよう細心の注意を払い風子はフィルが持つ紙袋の中へ追加で入れようとするも、フィルが一歩下がる事で紙袋の中へ入れ損なってしまった。何故という疑問の眼差しを向ける風子だったが、頑張って紙袋を片手で持ったことで空いたもうひとつの小さな手が差し出されたことで柔らかなものへと変わる。
そっと風子から手渡されたフィルの小さな手からはみ出るくらい大きなラッピング。一度それを見下ろしてから風子を見詰めるフィルの無垢な新緑色の瞳に彼女は「どういたしまして」と微笑み伝えた。
そんな羨ましい光景を指を咥えて見ていたショーンの目の前に、ずいっとラッピングが現れた。ラッピングから視線を突き出した者へと向ければ、ややそっぽを向いているジーナが其処にいた。
「はい、これはアンタ用」
「
……
ども?」
まさかの展開について行けず、ショーンが呆然とするもジーナは何てこと無いようにフィルにも同じラッピングされたものを彼の紙袋の中に入れていた。
「あ、オレだけのじゃない?」
「いえいえ。たしかにショーンさん用ですよ」
はい、私からの分。ぽけっとしているショーンの手に風子もまた彼用のラッピングを渡した。
「ジーナちゃんと私それぞれで皆さんに個別のもの作ったんですよ」
「なるほど」
「ちなみに中身はフリーズドライ苺のホワイトチョコレート掛けのやつだから」
「私はクッキーです」
「へえ」
奇しくもバレンタインデーのお菓子を三個手に入ったショーンは抱えている重みにジーンと感動した。
そして、何となく風子が持っている籠の中の覗けば、たしかにブラウニーの他に透明なラッピングに包まれた星型のクッキーたちがわいのわいのとしている。
「(ん?)」
そこまで深くない籠の中。パッと見ただけで分かる中身は全てブラウニーと星型のクッキーだけ。フィルの様に明らかな違いを持つものは皆無だった。ショーンの脳裏を過る”特別”の二文字。ただし、ショーンはとかく妬みや僻みの感情を抱く事は無かった。なにせフィルは子供、子供だからこそ他の者より優遇される感覚は然程気にならないというもの。
なにより先程からずっと風子から貰ったロケットのかたちをしたクッキーを見詰めている無垢な瞳に微笑ましい以外の感情は相応しくない。ショーンは自分の様に喜びに白い歯を覗かせ笑う。
「良かったなフィル」
ショーンの言葉にフィルが顔を向け無言で頷いた。
「それじゃ、他の皆さんたちにも配りに行くので」
「おう、あんがとな」
「来月の三倍返し、期待してるから」
「お、おう
……
」
指差し不敵な笑みを浮かべるジーナに風子はくすりと笑い、貰った手前来月のお返しを考え始めたショーンはどうすっかと悩み虚空を見遣る。
そんな手を振り遠ざかる風子たちを手を振えないがフィルは見送り続け、ショーンもまた片手に抱え直し空いた右手で軽く手を振っていた時だった。
「あだっ」
何かが頭上から落ちてきた。それは巧い具合にショーンが抱えている菓子たちの中にしれっと仲間入りを果たした。訝しげに仲間入りしたものを掴み目の前まで持ってくれば、それは半透明のラッピングに包まれたオランジェットだった。その中身にショーンの目が輝くも、この出処が分からずきょろきょろ見渡し、不意に気配を感じ目線だけ向けた。
随分と奥になってしまっているが、ジーナが振り返り此方を見ている気がした。
そして、ショーンが彼女の視線に気付くなり春色の髪を靡かせ前を向いてしまった。
「あー
…
。来月、真面目にお返し考えないと後が怖ェな」
怖や怖や。そう口ずさむ割に嬉しそうに笑っているショーンをフィルは無言で見詰め見上げていた。
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