【ファン風】分からん奴だ

VTネタでうっすらと👊💥☄️のお話。
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幾千の星たちが瞬く夜。肌を撫でる夜風の冷たさは屋根の上でひとり酒を煽るファンの眉ひとつ動かすことすら出来ない。
険しい崖の上に立つ家に来る訪問客は皆無に等しく、運よく自身の実力を見誤った恐れ知らずが来れば多少の暇つぶしにもなりうるが最近はとんと来ない。
少し前であれば、そこそこ煩わしかった自分以外の声や動く気配もあったがそれも今は無い。
胸の内、じんわり広がるものは熱を帯びず、それどころかファンから熱を奪っていく。その忌々したるや、最強を目指す男の顔を容易く顰めさせた。
夜風の冷たさとは違う感覚から意識を逸らすべく、瓢箪の腹にある酒を煽ろうとした瞬間──。ファンの上に影が掛かる。黒斗雲と対を為す古代遺物は乗り手の感情を汲み取り緩やかに下降を始めた。

欠けひとつない月を背負い現れた風子は、自身が両手で抱えていた甕をファンに見せるように掲げ笑いかける。
……何の用だ」
如何にも手合わせをしに来たとは思えない雰囲気にファンが一瞥すれば、風子は臆せず持っていた甕をファンに押し付けた。その振る舞いにファンの額に青筋が浮かぶも、やはり彼女の笑みは崩れない。
「お世話になった人へのお礼で来ました」
……世話などしておらん」
「私からすればすごくお世話になったので、勝手に押し付けに来ました」
ファンが興味薄に鼻を鳴らし視線を風子から逸らす。だが、そんな素っ気ない態度でも風子は笑みを絶やさない。
「甘い物はあまり得意ではないってメイちゃんから聞きました。甕の中身は私一押し100年ものの古酒です」
中身が酒だからではなく、年数を聞いたファンは少しだけ自身の腕に半ば強引に押し付けられた甕に意識を向けた。細められた視線の先、ただ一言くだらんと言い甕を投げ捨てることも出来た。
しかし、如何にもファンはそれをすることが出来なかった。
何処かもの言いたげな眼差しをするファンに風子は目を伏せ、彼女はあえて明るくお茶らけた調子で話し始めた。
「またファンさんの力が必要になったら呼びに来ますね」
「つくづく調子のいい女だ」
その声色にファンは一度目を閉じ再び開けた際、満月を背にする風子の姿をその瞳に映し込んだ。
飢えた獣とも、研ぎ澄まされた刃とも違う色味を纏うファンの目つきに風子が微笑み、金斗雲が夜空へと上昇し始めた。
「ではでは、夜分遅くに失礼いたしやした」
反転させ高度を更に上げていく風子の背中を見詰めていたファンがすっくと腰を上げ彼にしては抑えられた声量で彼女の名前を呼ぶ。
随分控えめな声の大きさだ、などと思いつつ風子が振り返れば丁度ファンが屋根から降りたところだった。
「キサマが寄越した酒だ。──一杯くらい付き合え」
その言葉に風子の目がぱちくりするも、すぐさま満月に劣らないほどの笑みを浮かべた。
「実は少しだけ飲みたかったんですよ」
「本当に調子のいい……
金斗雲から飛び降りた風子は、振り返らず歩くファンのあとを軽い足取りで付いていったのだった。