いまち
2022-02-12 15:46:24
7754文字
Public
 

もういいです

※実験着リドくんパソストネタバレあり。
あまりにも♣がかわいそうで書いた。あの異世界からのスープ(仮称)、ドゥードゥルして飲んだんかな……


「あ、はい。じゃあまず、このほうれん草をゆがいてもらっていいですか?」
 そう言う彼女からほうれん草を受け取った。……ゆがく、とはなんだろう。
「すまない、どうすればいいんだ?」
「えと、こっちのお鍋のお湯にちょっと浸すだけです。トングでくるくるーって二回くらい回したら、こっちのまな板に上げてください」
「分かった」
 言われた通り、ほうれん草の根本をトングで沸騰した鍋の中に入れる。けれど、二回回せとはどういうことだろう。どれくらいの速さで回せばいいのか分からない。そもそも、なんでこんなことをするんだろう。先に聞けばよかったと思っていると「それくらいでいいですよ」と卵をかき混ぜる彼女が言いながら、いつの間に用意していたのだろう水を張ったボウルを指さした。
「次は根本を切って、束のままそっちのボウルに入れて軽く冷ましてください」
「分かった」
 熱湯から上げたばかりだから少し熱い。火傷しないように気を付けながら包丁の葉を根本に押し当てる。魔法薬学で使うナイフとは勝手が違うのか、うまく切れない。繊維が邪魔をしているんだろうか。
「ちょっと押し引きしてください」
「あ、ああ」
 言われた通り軽く引くと、なるほどすんなり刃が通った。
 切ったほうれん草を崩れないよう掴んでボウルに入れた。……冷やすってどれ程冷やせばいいんだろう。
「キースリンク」
「ちょっと揺すってください。根本ってよく土が詰まってるので、落とすつもりで」
「なるほど」
 言う通り、水の中でほうれん草を揺すると、彼女の言う通り砂粒のようなものがボウルの底に溜まった。いくらかそうしていると砂も出なくなった。多分だけれど、これくらいでいいんだろう。
「後はどうするんだい?」
「適当に切って絞ってください」
……。具体的には?」
「え? えーっと、じゃあ、これくらいの幅で均等に切ってください」
 彼女は一口くらいの幅を指で示すと、ほうれん草をゆがく? のに使った鍋とトング、それと泡立て器を洗い始めた。少し前までかき混ぜていた卵は、黄身と白身が完全に混ざった状態でボウルに入っている。
 手際の良さに感心しながら言われた通りにほうれん草に刃を通す。水を吸ったせいかさっきよりぶよぶよしていて切り辛かったけれど、どうにか切ることができた。幅がまちまちなのが少し気になる。これでは、均等に火が通らないかもしれない。けれど、これ以上切ってしまうとさらにほうれん草の大きさがばらけてしまう。
「いいですね、あとはそれを絞ってください」
「絞る……?」
 まさか雑巾のように絞れというのだろうか? そんなことをするには大きさが足りないし、なにより千切れてしまう。そう思っていると、彼女はほうれん草を半分手に取り「こうするんです」と握りしめた。ほうれん草の汁と思しき緑色の液体が彼女の指の間からこぼれる。そんなことをしたら、それこそ駄目になりそうだと思うものの、倣って残りのほうれん草を握った。やはり、ぶよぶよしていて少し気持ち悪い。それに握れども握れども水っぽさがなくならない。葉野菜のくせになんて生意気なんだ。
「もういいですよ。はい、こっちに入れてください」
 沸かしていたもう片方の鍋にほうれん草を入れる。スープはもう用意していたようで、淡い黄金色だ。ボクが作った時はもっと濁っていた気がする。
「これは何を入れたんだい?」
「コンソメとお塩ですよ、適当に淹れました」
 先ほどから何度も聞いている適量の意であろう適当の言葉に、いい加減うんざりしてきた。その適当が分からないのだから困るというのに。
「また適量……具体的にはどれくらいだい?」
「えぇと、コンソメがスプーン一杯に少し足りないくらいで、お塩が一つまみですね」
「それだけでいいのかい?」
「そですね。薄かったら足せばいいですけど逆は出来ないので、ちょっと薄いくらいで作ってます」
……そういうものなのか」
 味が濃ければ水を足して薄めればいいと思うのだけれど、彼女の口ぶりから察するに、そうではないのだろう。
「味付けなんてその時の気分にもよりますからねぇ、極端な量でなければ適当でいいと思いますよー」
 だから、その適量が分からないのだけれど。しかしそう言ったところで、適量を理解できる彼女には伝わらないのだろう。そんな彼女から「それより」と、混ぜた卵と穴の開いたレードルを渡された。
「あとはかき卵にすれば出来上がりですよー」
「かき卵? それにそのレードルはなんなんだい?」
「これを使うと簡単なんです」
 説明しながら彼女はレードルを回しながらボウルの卵を流し入れた。レードルの穴から垂れた卵はスープの中でひらひらと浮かぶ。……卵スープはこうやって作られていたのか。
「それじゃあ、やってみてください」
「あ、あぁ」
 彼女を真似て卵を鍋に落とす……つもりがレードルから溢れた卵がスープの中で塊になってしまった。彼女は「大丈夫ですよ」と、火を強め、穴の開いてない普通のレードルでスープをゆっくりかき混ぜた。