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yasaka
2022-11-29 02:31:18
9518文字
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Star trek
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【JJST】迷い途
ハロウィンの夜に思いついた、カークが迷子になる話
今でこそメジャーイベントながら、そもそもハロウィンって
死者の世界の「門」が開くお盆イベントだよねということで
若干オカルトホラー寄りです
1
2
最初に聞こえてきたのは、風を受け砂が舞い上がる際の微かな音、そして
「ドクター、意識が戻ったようだ」
息を呑むような音とそれに続く僅かに震えたスポックの声だ。
何が起きたのかと尋ねようとしたにもかかわらず、自分の喉からはかすれた吐息しかこぼれない。
掠れた視界でどうにか周囲をうかがえば、どうやら自分の身体はひどく傷ついた状態で救護用ストレッチャーの上に横たえられているらしい。起き上がろうと僅かに力を入れた途端、全身に凄まじい激痛が走り、カークはたまらず呻き声を上げる
「
――
!おい、ジム!俺がわかるか?!」
傍らにあったスポックの気配が遠のき、変わってひどく狼狽した様子のマッコイが二本の指をかざしながら自分の顔をのぞき込んでくる。いつになく慌てたその表情に、カークは笑いだしそうになりながら答えた。
「
……
ひ、どく
……
動転した、
……
まぬけ顔、の、医者」
茶化すように言ったつもりなのに、やはりほとんど声は出なかった。
しかし、最低限伝えたい内容は相手にしっかり伝わったらしい。マッコイは見る間に表情を変えると一際大きく息を吐き出した。
「くそっ!マヌケ顔はお互い様だ!!まったく、開口一番でそれだけさえずれるってんなら、多少手荒に扱っても大丈夫そうだな?」
医者と思えぬ悪態を吐きつつも、マッコイの動きは手荒という表現とは対象的と言っていいほど丁寧で真剣だ。口先でどれだけ悪態をつこうと、現在のカークはぞんざいに扱えるような状態ではないのだろう。
事実、応急用のガーゼ帯が巻かれた右手はあらぬ方にねじ曲がり、左手も同様でとても見られたものではなかった。胸から下は、現状の視界からは確認することは出来ないのだが、幸いにして両足は繋がっているようだ。
詳細は飲み込めないながらも、自分が
そこそこ
・・・・
危険な状態に陥っていたことを把握して、カークは必死に残った記憶をたどり出す。
――
そもそも、今回エンタープライズに与えられた任務は、未開拓領域にあるMクラス型の無人惑星の探査だったはずだ。
周辺星域に『サウィン』と言う名だけが残るこの星は、過去、独自の知的生命体が暮らしていたらしい痕跡を複数残しているにも関わらず、今ではほぼすべての生命活動が途絶えているという謎の多い惑星であり、まだまだ未調査の遺跡が多数放置されている、非常に希少価値の高い調査対象としても知られている。
最初の問題が起きたのは、そうした遺跡のひとつへカーク達が立ち入ったときだ。
無人であるはずの遺跡奥から現れたのは、思わぬ先客。顔の表層が灰色の髑髏のような甲殻質で覆われたノーシカン人の一行だった。
種族名と同じ名の母星を拠点とする彼らは、この銀河で如何なる勢力にも属さない独立勢力だ。そしてなにより、宇宙を行き交う他種族の貨物船や小規模な集落を襲撃することで生計を立てる悪名高い無法者としてもその名が知られた種族でもある。
どうやら彼らは遺跡に残った貴重品で小銭稼ぎをしようと、たまたまこの遺跡を訪れていたらしい。彼らが担いだ荷袋はどれも無造作に収拾された強奪品で膨らんでおり、遺跡内で盗掘行為が行われたことを如実に物語っていた。
最悪の遭遇に双方驚愕しつつ、鉢合わせた盗賊達は担いだ戦利品を素早く投げ捨てると肩に担いだディスラプターライフルへ手を掛ける。相対したカーク達もすぐさまハンドフェイザーへ手を伸ばした、次の瞬間。古代遺跡内部で二色の色相の異なるエネルギービームが交錯し、激しい銃撃戦が始まった。
……
そう、そこまではハッキリと覚えている。
穏やかな風の音を聞きながら、カークは徐々に途切れた記憶を思い出したのだが、その先の記憶は変わらず曖昧なままだ。
盗賊達の攻撃で自分が行動不能になったというなら、あの時自分とともにいた他のクルーはどうなったのだろう?
「
……
他の皆は、無事、か?」
浮かんだ疑問を必死の思いで口に出せば、すぐさま医者の憎まれ口が返ってきた
「安心しろ。お前さんが最後の要救助者にして一番深刻な重傷者だ。ノーシカンの悪党共も、打撲やかすり傷程度でお前さんに比べりゃなんでもない。いっそ頭でも打って気絶しててくれてりゃ拘束するのが楽だったんだがな?」
クルーの安否を知り安心したように息を吐くカークへ、少し離れた場所で待機していたらしいスポックが躊躇いがちに近づいてきた。カークが目を覚まして以降、治療の邪魔にならぬように脇へ退いていたようだが、当の医者から「状況を説明してやれ」と促されたらしい。
所々が擦り切れ、赤黒く汚れたスポックのサバイバルスーツをみるなり、彼もあの銃撃戦に巻き込まれていたことをカークは思い出す。
「キャプテン。現状についてどこまで把握されていますか?」
「
……
盗賊と、撃ち合いになった、まで、だな。そこから、説明を、頼む」
傷つきながらも多少は声を出すコツが掴めてきたようだ。カークのはっきりとした指示に、スポックは頷いた。
「銃撃戦の最中、盗掘者の一人が携帯していた指向性高周波による掘削装置を起動させました。これは武器では無く、特殊な振動波を使って対象へ固有振動を引き起こし、特定範囲の岩盤などを破壊する土木作業用装置です。当該盗掘者は周辺構造の一部を破壊することで我々から逃走を図ろうとしたと思われます。しかし、適切な操作を行わず、かつ不適切な箇所へエネルギー照射を行った為に遺跡全体へ共振が伝達された結果、遺跡が崩落を起こしたのです」
「
……
ほう、らく
……
?!」
信頼する副官から説明された、想定だにしなかった事態にカークの口から呻きが漏れる。もし、彼が五体満足な状態だったならば、それは悲鳴として発されていたに違いないだろう。
今回の探査任務、鉢合わせた盗賊との銃撃戦だけでも始末書レベルのトラブルと言えるのに、その結果、調査対象が破壊されるというとんでもない事態が起きてしまっていたらしい。もちろんカークにとっては不可抗力な事態とはいえ、貴重な遺跡を破壊してしまった事実は拭い去りようがない。
愕然とするのカークの枕元で、スポックは淡々と説明を続けた。
「崩落発生により直ちにエンタープライズは調査任務を中止し、緊急事態を宣言しました。遺跡に取り残された全クルーの救助活動を開始するとともに、同様に瓦礫内部に取り残されたノーシカン人についても救助の後、連邦規則二一〇に基づく緊急逮捕を行いました。現在、彼らはエンタープライズ内に拘禁中です。彼らの取り調べについては、保安部のヘンドーフ少尉を
……
」
事務的な内容に終始するスポックの説明を、苛立った素振りで差し止めたのはマッコイだ。
「おい、ジム。ならず者どもの処遇も重要だが、そんな事よりも、スポックにはしっかり感謝しとけ」
いきなり話を中断させられたスポックが不服そうにマッコイを睨むが、そんな相手をマッコイは更にキツい視線で黙らせる。
何事かと二人を見上げるばかりのカークを、マッコイはその目尻を赤く染めながら猛然とした勢いで怒鳴りつけた。
「近くに居た保安部員をかばって瓦礫に潰されたお前を、ほぼ一人で助けたのがスポックだ。それだけじゃない。長時間心肺停止状態になってたお前に対して頑なに蘇生を命じ続けたのもだ。ヴァルカン人の頑健さと当人の諦めの悪さが無きゃ、俺はもう一度お前の死亡診断をする羽目になってたんだっ!!」
いつになく血相を変えたマッコイの様子に、カークは改めて事の重大さを認識する。ある程度の重傷を負ったのは自覚できていたつもりだったが、それどころか、どうやら自分は再び死線を越えてしまっていたらしい。
「待ってくれ、俺は。いったい、どのぐらい
……
?」
「
……
俺が診てから少なくとも一五分だ。艦長代理の命令でも無きゃ、とっくに諦めてたさ」
吐き捨てるようにそう言って、マッコイはふいと視線をそらす。
彼は一人の友人や医者である以上に、四百人以上の人命を守る立場の人物だ。例え、その対象の袖に入った記章の数が多かろうとも、たった一人の地球人が一五分間も息を吹き返さなかった時点で早々に死亡宣告を出し、限られた医療リソースを確保しようとするのは当然の対応だろう。
そして、その立場は、カークが見上げたもう一人の友人にとっても同じことのはずだ。
「
……
また、俺は君に助けられたのか
……
」
呆然とするカークに、サバイバルスーツのジャケットを
鉄さび色に染めた
・・・・・・・・
スポックは静かに答えた。
「私は、私にできることをしただけです。ジム」
「よし、ジムを運び出すぞ。大方の処置はしているが、念の為大きな衝撃は与えないでくれ!」
応急処置を終えたらしいマッコイが、離れた場所で控えていたらしいクルー達に向けて声を張り上げる。
すると天を向いたまま固定されたカークの視界へ見知った保安部員達の心から安堵したような表情が次々と入ってきた。
心配を掛けた申し訳なさと、若干の照れくささに面映ゆくなりながらも彼らの言葉に応えていると、ふいに、どこかで聞いたような小さな石の破片が転がったような音がカークの耳に届いた。
――
カラン
視線を巡らせると、ストレッチャーが置かれた石室の端に小さな白い欠片が落ちている。
そこに、なぜかうずくまったままの子供の姿が想起されたものの、すぐさまストレッチャーを動かそうとする保安部員の姿に隠れ、カークの視界からは消えてしまう。
――
迷っていた俺に、道案内をしてくれていたのか
……
?
心中での独白には当然ながら答えなど戻らない。たとえ口に出ていたとしても、何もわからないクルー達が首を傾げるだけに違いないだろう。我ながら無為なこと考えている自分にカークは薄く笑うと、そのままゆっくりと目を閉じた。
カークが乗せられたストレッチャーが運ばれていく。
そのまま彼らはあの白銀の艦へと戻り、そして再び、新たな任務、新たな目的地にむけて旅が始まるはずだ。
晴れ渡った空の下、サウィンを包む黄金色の砂粒が天高く舞っては散っていった。
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