黒竹
2022-05-30 22:04:44
15280文字
Public 少女☆歌劇レヴュースタァライト
 

#5 楽天家と情熱家の子午線

【少女☆歌劇レヴュースタァライト】【すずまひ】【夏の夜に覚めてみた夢】


 青春は密度が高い。突き抜けるイメージの青とは裏腹にそれは濃縮され、凝縮され、圧縮されて生半可な力では抜け出せない強固さで少女たちを包み込む。翻って、閉じ込められた肢体は伸びやか、どこにも枷などないと言わんばかりに駆けて跳ねる。青春は自由だ。自由だからこそ足元にはなにもない。たぶんみんなふわふわと浮いているのだ。軽やかに、笑って、不和不和と憂いているものなどないというように。
 そんな青春の日々を見つめる夏の住人がいる。出会いと別れを繰り返し、少女たちの自由を守る春の番人が。
 グラウンドを一望できる屋上の手すりにもたれ、南風涼は青春を眺めている。眼下には体力作りの走り込みをしている少女あり、テーブルでお茶をしているグループあり、なにか用事があるのか足早に寮への帰路へとつく者あり、実に様々だ。
「あ、いたいた。こんなところで何してるんですか、南風先生」
 声のしたほうを振り向くと、同僚の教師が眉を上げながら仁王立ちしている。その手にはなぜか校内掃除用のブラシが握られていた。
 ブラシを器用に回し、先端をシュタッと差し向けてくる。
「生徒たちを見守ってたんですよ、露崎センセ」
 涼が手すりから身体を起こして肩をすくめ、突きつけられたブラシをひょいと避けさせてから正面に対峙した。
「てゆーか、昨日の今日でまひると一日一緒ってきつくない? なんで職員室の席が隣同士なのさ……
 両手で顔面を覆って悶える涼。赴任した当初は大喜びしていたが、こうなってしまっては気まずさしかない。
 まひるは微妙な表情でブラシを下げると、「そんなのわたしだっておんなじだよ」弱々しく声を落とした。
「しかもよりによって今日からオーディションだし。身が入んないよね……
「そんなこと言わないの。大事なオーディションなんだからちゃんとやらないとだめ」
「はい……
「ほら、もう時間だよ」
 よし、と気合を入れ、一度力強く自身の頬を叩く。舞台に生きてきた身としてセルフマネジメントは心得ている。にかっと笑うその顔にもう情けなさはなかった。
「じゃ、行きますか」
「みんな頑張ってくれるといいね」
 涼が見守っていた生徒たち。走り込みをしていた生徒が立ち止まってポケットから何かを取り出している。さすがにここからでは音は聞こえないが、きっと二人が知っているメロディが鳴ったことだろう。
 二人揃ってエレベーターに乗り込む。行き着く先は懐かしくも苦しい思い出のある場所だ。始まる前は実に簡素なステージ。真ん中につけられた印だけが輝いている。
 一段高くなった舞台で、涼がふふりと笑った。
「同じ舞台ですねえ、露崎先生」
 隣でまひるもふふりと笑った。
「ええ、同じ舞台ですね、南風先生」
 エレベーターのドアが開いて、現れたのは八人の少女たち。「やっほー」涼が気楽に手を振ってみせるが、少女たちは呆気に取られたまま戸惑いを隠そうともしない。
 かつて、舞台少女として歌って踊って奪い合った二人は、今、同じ舞台で試練として立ちはだかっていた。
「みんな揃った? では、これから『戯曲・スタァライト』のオーディションを始めます」
「ワクワクするねーっ」
 みんな頑張れ、とサムズアップする涼に、集められた八人の生徒がお互い顔を見合わせる。
……先生がたを倒せば、スタァライトの主役になれるってことですか?」
「ま、そういうこと。でもそう簡単にはいかないよ。露崎先生は強いぞー」
「南風先生もね」
 地下劇場の照明が一斉に点いてステージを照らした。それと同時に舞台装置が組み上げられる。少女たちはまだ戸惑っている。だからこれは、涼とまひるのキラめきに反応したものだ。
 緞帳が一瞬、二人の身体を包み込む。緞帳が翻ったその下には、レヴュー服へと装いを変えた二人が立ちはだかっていた。
「さあ、君たちのキラめき、見せてもらおうか」
 メイスを手慣れた様子で回すまひると、大剣を袈裟懸けに構える涼。
 二人の全身から溢れんばかりに虹色のキラめきが弾ける。
 同じ舞台で、二人は真夏の太陽みたいに笑った。