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黒竹
2022-05-30 22:00:04
8138文字
Public
少女☆歌劇レヴュースタァライト
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無花果
【少女☆歌劇レヴュースタァライト】【石動双葉】【オリキャラ】
注:男性との恋愛要素あり。
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ふと頭上に影が射した。西條クロディーヌが顔を上げると、なぜか花柳香子がこちらを睨んでいる。
「どうしたの?」
「
……
双葉はんが演劇場におるさかい、クロはん行ったげて」
「え? なんで私が?」
「ええから!」どうしたのか、香子の両目は真っ赤に充血していてまぶたも軽く腫れている。そんな泣きそうな顔で腕を引っ張ってくるものだからクロディーヌも邪険にはできず、導かれるままに立ち上がった。
「ちょっと、いったい何があったの? 双葉がどうしたのよ」
「
……
双葉はんが大事にしとった人が亡くなったんどす」
だから慰めに行けと、香子がぐいぐい背中を押して教室から追い出そうとしてくる。クロディーヌとしてはいきなりそんなことを言われても困ってしまう。「ちょっと待ちなさいよ。そういうことなら、あなたが行ったほうがいいんじゃないの?」ドアの前で攻防を繰り広げつつ香子に言うと、彼女は背中を押していた手を急に離して「阿呆!!」と叫んだ。
「うちでええならとうに行っとるわ!! うちにできんから頼んどるんやろ!!」
香子の剣幕に押されてうっかり教室を出てしまった。眼の前でピシャリとドアが閉じられる。しばし呆然としていたクロディーヌだったが、我に返ってため息をつく。
仕方がない。あの香子が頼み事をしてくるなんてよほどの事態だ。状況が状況だし、意固地になることもない。クロディーヌは中庭を抜けて演劇場に向かう。
聖翔祭や定例発表会で演劇を行う演劇場は、今はがらんとしていてもの寂しい。祭事には数百人を収容できる建物の中、たった一人ここにいるらしい友人を探す。
別に隠れているわけではなく、石動双葉はステージの上、ちょうど真ん中あたりに座り込んでいた。こちらに背を向け、行儀悪くあぐらをかいて視線を下に落としている。
クロディーヌが双葉の背中に近づくとかすかな違和感を覚えた。そんなはずはないのに、彼女の姿がいつもより一回り小さく見える。このまま縮んで消えてしまうんじゃないかと不安にかられるような、頼りない後ろ姿だった。
怖気づいて、ステージに上ってからも彼女の顔を見れない。「双葉」背中同士をくっつけるように腰を下ろす。そこで気づいた。双葉が座っているのは、ゼロ番の印の真上だった。
「クロ子か」
「
……
あの、香子に聞いたんだけど」
「ああ。香子に言われて来たんだろ? 悪いな、手間かけさせて」
「それはいいんだけど」
何を言えばいいのか分からなくて、なんの意味もない言葉の羅列しか出てこない。
クロディーヌが何も言えずにいると、双葉はポツリポツリと、雨だれのように思い出話を語り始めた。それをじっと、身じろぎひとつせず、相槌ひとつ打たずに聞く。
顔を上げないまま語る双葉の声は弱々しく揺れている。
「にいさんが長くないことはあたしにも分かってた。どんどん痩せていって、元気もなくなってたし、たぶんそういうことなんだろうって」
は、と、双葉の口元から熱のこもった吐息が洩れた。
「前に、さ」
「うん」
「あたしは自分を、ずっと脇役だと思ってたって言ったろ?」
「うん」
「けど、一度だけ
……
一人だけ、あたしを主役にしてくれた人がいたんだ」
誰よりも尊いゼロ番に、置いてくれた人がいたんだ。
「それでも」
──そばにおりたかったな。
それでも。
「あたしにとって、香子のほうが大事だったんだよ」
「
……
そうね」
その告白に、クロディーヌはなぜ香子が来なかったのか、来れなかったのかを理解する。
彼女が抱いた忸怩たる思いを痛感して、痛くて、けれどせめて、ぬくもりを伝えたくて、双葉の背中にもたれた。
「あの人のことをどう思ってたのか、今はもう分からない。どんな意味で好きだったのか、もう分からないけど、でもあの頃からずっと、一番大切なのは香子だったんだ」
双葉の言葉は、懺悔だった。
罪は、花柳香子のかたちをしている。
「そんなの、どうしようもないじゃない」
「そうかな」
「当たり前よ」
双葉が小さく、自嘲のように笑った。「香子のやつ、こんな時にクロ子よこすなよ」膝に顔を埋めたせいでくぐもった声。
甘えたくなるだろ。
クロディーヌが足を崩して双葉に向き直る。
「ほら、いらっしゃい。膝貸してあげる」
意外にも双葉は抵抗せず、引き寄せるままにクロディーヌの膝に転がった。「クロは柔らかいな」つぶやきは聞こえたが、クロディーヌは誰と比べたのかを訊かない。
「花、咲かせてえな」
「ん?」
「見えない内側にじゃなくて、一番高いところで、どこからでも見えるくらいでっかく咲かせたいんだ」
それならきっと、空の上からでも見えるだろう。
「
……
ええ。頑張りなさい」
クロディーヌの手が、双葉の髪を優しく撫でる。
その隙間から、七色に輝くキラめきが空に向かって弾けた。
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